アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症とは、記憶や思考力などの認知機能に障害をきたす神経変性型の認知症です。脳内にたまった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳に萎縮がおこります。
認知症のおよそ7割を占めるといわれるアルツハイマー型認知症。誰しもが発症する可能性のある疾患ですが、早期に発見して治療を始めれば、進行を遅らせることができます。
この記事では、症状や原因、診断方法、治療、対応や介護、予防方法について解説していきます。
目次
・アルツハイマー型認知症とは
・アルツハイマー型認知症の原因
・アルツハイマー型認知症の症状と進行について
・アルツハイマー型認知症の検査方法と診断
・アルツハイマー型認知症の薬や治療法
・アルツハイマー型認知症の介護やサポート方法
・アルツハイマー型認知症の予防法
・まとめ
アルツハイマー型認知症とは、記憶や思考力などの認知機能に障害をきたす神経変性型の認知症です。脳内にたまった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳に萎縮がおこります。
厚生労働省のデータ※によれば、認知症の原因疾患でもっとも多いのはアルツハイマー型認知症で67.6%、次に血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症が4.3%となっています。男性よりも女性のほうが多く、大半は65歳以降に症状が現れますが、65歳未満の若い年齢で発症する「若年性アルツハイマー病」もあります。症状の進行は人によって異なりますが、多くは緩やかに進行していき、やがて日常生活に支障をきたすようになります。
「若年性アルツハイマー病」についての詳細は、こちらの記事(若年性アルツハイマーとは? 原因や症状、治療法を紹介)で解説しています。
※出典:認知症施策の総合的な推進について
アルツハイマー型認知症を発症する背景には、年齢、遺伝、病歴や疾患、生活習慣など、さまざまな要因があります。それぞれの特徴について、詳しく解説します。
アルツハイマー型認知症と年齢の関連性は非常に密接です。研究によると、65歳以上の高齢者において、認知症のリスクは5年ごとに約2倍に増加すると言われています。
これは、加齢に伴い脳の神経細胞が自然に減少し、神経回路の劣化が進むためと考えられています。また、加齢とともに脳内のアミロイドβタンパク質やタウタンパク質が蓄積しやすくなり、これらが脳の神経細胞を死滅させることでアルツハイマー型認知症が発症するとされています。高齢者においては、脳の萎縮やその他の加齢による生理的変化も、認知症のリスクを高める要因となっています。
アルツハイマー型認知症は「家族性アルツハイマー型認知症」と「孤発性アルツハイマー型認知症」の2種類に分けられます。そのうち「家族性アルツハイマー型認知症」は遺伝的要因が強く、親が発症している場合、子供がその要因を受け継ぐ確率は約50%です。一方で、「孤発性アルツハイマー型認知症」は主に高齢者に発症し、遺伝要因が約60%、残りの40%は生活習慣や環境要因が影響していますが、大半の患者は孤発性です。
アルツハイマー型認知症の遺伝についての詳細は、こちらの記事(認知症は遺伝する?要因や予防法、ケアについて)で解説しています。
アルツハイマー型認知症の発症には、特定の病歴や疾患が深く関連しています。特に、脳血管障害や高血圧、脳卒中、頭部外傷などの疾患は、脳への血流低下や損傷を引き起こし、認知機能の低下を促進することにつながります。糖尿病患者は、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが健康な方よりも高くなります。
アルツハイマー型認知症と生活習慣との間には密接な関係があります。不健康な食生活、特に高脂肪・高カロリーな食事や加工食品の過剰摂取は、認知機能の低下を促進します。また、運動不足は脳の血流量減少や神経細胞の健康維持に悪影響を与えることが知られています。喫煙や過度のアルコール摂取も、認知症のリスクを高めるとされています。ストレスの長期的な蓄積や不十分な睡眠も、脳の健康に悪影響を及ぼし、アルツハイマー型認知症の発症リスクを上昇させる要因となります。
アルツハイマー型認知症の発症には年齢、遺伝、病歴や疾患、生活習慣以外にもさまざまな要因が関与します。たとえば、社会的な孤立や心理的ストレスも、認知症のリスクを高める可能性があります。また、一部の研究では、大気汚染や重金属汚染(重金属によって土壌や地下水などが汚染されること)などの環境因子も認知症リスクと関連していることが指摘されています。これらの要因は、直接的にはアルツハイマー型認知症の原因とならないものの、脳の健康や認知機能に間接的な影響を与えることで、発症のリスクを高める可能性があります。
ここからは、アルツハイマー型認知症の具体的な症状とその進行過程について解説します。
アルツハイマー型認知症は「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。中核症状には記憶障害、見当識障害、判断や遂行機能の障害、失算・失認・失語・失行が含まれ、これらはすべての当事者に共通し、進行とともに悪化します。
一方、行動・心理症状(BPSD)は症例により異なり、睡眠障害、不安・抑うつ、幻覚、妄想、焦燥・不穏、暴言・暴力、拒否・拒絶、ひとり歩き、異食などが見られます。これらの症状は個々によって出現状況や内容、程度が異なります。
【関連記事】認知症の主な症状1:中核症状
【関連記事】認知症の主な症状2:行動・心理症状(BPSD)
軽度認知障害(MCI)
日常生活に支障がない程度の記憶障害があり、「加齢によるもの忘れ」と勘違いする人もいます。健常と認知症の間のグレーゾーンで、アルツハイマー型認知症の前段階と考えられている障害です。軽度認知障害から必ず発症するわけではありませんが、治療しないままでいると症状が進む可能性が高いといわれています。
【関連記事】MCI(軽度認知障害)とは? 症状や認知症との違い、予防法を解説
軽度認知症
記憶をつかさどる脳の海馬がダメージを受け、もの忘れなどの「記憶障害」が増えてきます。
(具体的な症状例)
新しいことが覚えられない。質問を繰り返す。判断力が低下する。日常の作業をこなすのに時間がかかる。計画を立てたり整理整頓をしたりするのが難しくなるなど。【関連記事】認知症の初期症状の特徴とは? チェックリストで簡単に判別
中等度認知症
言語や論理的思考、感覚処理など、意識的な思考を制御する脳の領域に明らかに障害が起こり、記憶障害がより悪化します。
(具体的な症状例)
着替えなど手順が多い作業をするのが困難になる。入浴出来なくなる、迷子になる、問題に適切に対応できない。家族や友人を認識しづらくなるなど。
重度認知症
記憶障害が進行し、性格の変化や日常生活の依存が見られるようになります。コミュニケーションをとることができなくなり、身体機能が低下し、1日のほとんどをベッド上で過ごすか寝たきりになります。
(具体的な症状例)
最近の経験や出来事についてほぼ認識できない。睡眠障害が起こる。嚥下が困難になる。着衣、トイレに助けが必要。排便・排尿に障害が出るなど。
アルツハイマー型認知症は、一般的に下記のような検査の流れ・方法によって診断がされます。
問診・診察……専門の医師が、認知症が疑われる本人の健康状態や生活状況、認知症に関連する症状を聞き取ります。
↓
身体検査……問診・診察に加え、健康状態をより詳しく・正確に把握するために、心電図検査・血液検査・レントゲン検査などを実施します。
↓
神経心理検査……脳の損傷や認知症などにみられる知能・記憶・言語などの機能障害を数値化し、定量的・客観的に評価します。
↓
脳画像検査……CTやMRI、SPECTなどの検査により、脳の構造や機能の異常を可視化し、さまざまなタイプの認知症とその原因を特定します。
↓
診断……認知症の診断や症状の説明、今後の対応やケア方法を医師から説明してもらいます。
認知症の検査において、神経心理検査と脳画像検査は、正確な診断のために重要な役割を果たします。それぞれの検査について、詳しく解説します。
神経心理検査
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
1974年、聖マリアンナ医科大学の神経精神科教授長谷川和夫氏らにより開発された、記憶力評価を重視した認知症検査。9項目/30点満点で構成され、20点以下で認知症の可能性が高いとされます。
ミニメンタルステート検査(MMSE)
言語能力や記憶、注意力など認知機能の点数化により客観的に認知機能レベルを把握する検査です。
CDT(時計描画テスト)
時計や指定された時刻の針を描くテストで、構成能力、視空間能力、言語理解能力、知的機能、視覚性記憶想起、視覚イメージの再構成、遂行機能の評価ができます。
ABC-DS(ABC認知症スケール)
認知症疑いのある本人の介護者や観察者に対して実施する13項目から成る半構造化インタビューです。
Mini-Cog
3つの単語の記憶確認と時計描画テストを組み合わせた簡易的な認知症スクリーニング検査です。
MoCA
8項目の質問応答、模写、描写などを含む検査で、各項目の正誤に基づき30点満点で評価される手法です。
脳画像検査
CT(Computed Tomography)
X線を使用して脳の断面画像を撮影し、脳の形状、大きさ、組織の密度などの物理的構造を詳細に調査します。これにより、脳全体や海馬の萎縮状況を確認し、認知症の判断に役立ちます。
MRI(Magnetic Resonance Imaging)
強力な磁場とラジオ波を使用して、脳組織の微細な構造を詳細に観察する技術です。特に脳の萎縮を検出するのに有効で、アルツハイマー病などの認知症の初期診断に広く用いられます。
SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)
放射性物質を使用して脳の血流や代謝を評価する検査方法です。この検査を通じて、脳のどの領域の活動が低下しているかや、脳の機能的な異常を検出することができ、特定の認知症による脳の活動パターンを観察することが可能です。
詳しい検査の内容については、こちらの記事(【認知症の検査方法とは】検査の内容や流れ、病院を紹介)をご覧ください。
アルツハイマー型認知症に対する治療は、薬物療法と非薬物療法の両方を組み合わせて行われます。以下にそれぞれの方法を詳しく説明します。
認知症の薬物療法では、認知機能の低下を抑えて進行を遅らせたり、残っている機能を維持するための薬が処方されます。
薬物療法では、中核症状に対する治療と、行動・心理症状(BPSD)に対する治療の2つに分けられます。中核症状では、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)の2種類の薬物が投与され、行動・心理症状(BPSD)では睡眠薬や抗精神病薬、抗不安薬などが投与されます。いずれも副作用の症状がでていないか観察しながら、医師・薬剤師のアドバイスに従って正しく服用することが大切です。
【関連記事】認知症の薬と種類一覧│新薬ドナネマブとレカネマブも解説
非薬物療法は、リハビリテーションや生活環境などにアプローチすることで、症状を緩和させる方法です。見当識障害を補い現実認識を深めるリアリティオリエンテーションや、過去の出来事や体験を振り返り、コミュニケーションや記憶の活性化を図る回想法、運動を通じて身体機能や認知機能の改善を促す運動療法、音楽を用いて感情や記憶を刺激し、心理的な安定を図る音楽療法などさまざまな方法があります。
アルツハイマー型認知症は、症状が進行するにつれ、これまでできていたことが徐々に難しくなるため、家族や周囲の人の適切なサポートが必要です。アルツハイマー型認知症の方の介護やサポートのポイントを紹介します。
●介護者の姿勢としての一般原則
・認知症の方の認知機能や身体能力低下を理解して、過度に期待し過ぎない
・簡単でわかりやすい指示や要求を心がける
・認知症の方が混乱したり怒り出したりする場合は要求を変更する
・失敗につながるような難しい作業は避ける
・穏やかで、安定した態度を心がける
・急速な進行と新たな症状の出現に注意する
●日常生活のサポート例
カレンダーや貼り紙を利用して、本人が確認しやすいように工夫しましょう。薬の飲み忘れや、飲み過ぎを防止するため、薬に日付を入れたり、薬ケースを利用したり、症状によっては介護者が薬の管理をする必要もあります。
●危険を避ける工夫
日常生活で使用する電化製品やガス製品などは、安全に配慮したものを選ぶと良いでしょう。特にガス製品は、消し忘れ防止機能付きのものやIHコンロに取り換えるなどの対策を行いましょう。また、高齢の方の場合は、生活環境の中に転ぶ原因になるものがないかを見直すことも重要です。
●サポートにおける心構え
本人の自尊心を傷つけないように、「できないこと」を責めず、「できること」に注目して、できるかぎり自立して生活できるよう、環境の整備と必要なサポートをしていきましょう。
●介護者は周囲の助けを活用しましょう
介護者は決して無理をせず、地域包括支援センターなどの行政サービスや、「公益社団法人認知症の人と家族の会」が運営する電話相談など、さまざまな助けを活用してひとりで抱え込まないように心がけましょう。
アルツハイマー型認知症の発症は、加齢以外にも生活を取り巻く環境の影響が大きいと考えられています。「脳の状態を良好に保つ」ために、次のことを意識した生活が予防につながるといわれています。
高血圧にならないよう、味の濃い食事や油の多い食事に注意しながら、青魚に含まれる、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)、野菜や果物に含まれるβカロテンやビタミンC、ビタミンEなどを多くとることで、認知症になるリスクを軽減させます。
食事による予防についての詳細は、こちらの記事(認知機能低下予防と食べ物との関係とは?)で紹介しています。
適度な運動をすることで、脳の神経を成長させるBDNF(脳由来神経栄養因子)というたんぱく質が多く分泌され、海馬の維持に効果的です。また、ゲームやパズル、塗り絵、間違い探しなどの脳トレは、脳への刺激によって血流を増やし、脳を活性化することにつながります。脳トレや運動は、複数人で行うことで、コミュニケーションを図るきっかけにもなります。
トレーニングによる予防について、こちらの記事(高齢者におすすめの脳トレ12選 認知機能低下予防との関係も紹介)でも紹介しています。
十分な睡眠をとることで脳の状態を良好に保つことができます。また、起床時は2時間以内に太陽の光を浴びることを心がけると良いでしょう。夜きちんと眠るために、日中に昼寝をする場合は30分以内にとどめましょう。
高血圧や糖尿病、肥満などはアルツハイマー型認知症の危険因子とされています。これらの病気を防ぐことも、発症リスクを低減させることにつながります。
アルツハイマー型認知症は、早期発見・早期治療が非常に重要な病気です。発見が早ければ進行を緩やかにすることができるため、生活の質を長く保つことや、心の準備をすることができます。そのため、「もの忘れが多いかも」など異変を感じたら、できるだけ早く専門機関を受診するようにしましょう。また、予防には、発症リスクを低減する生活習慣の見直しを行うことも重要です。
楽しく、あたまの元気度チェック(認知機能チェック)をしましょう
あたまの元気度チェックへ身長や体重・運動習慣等を入力するだけで、将来の認知機能低下リスクをスコア化できます。
認知症や介護に関する最新のニュースやお役立ち情報を月2回程度お知らせします。