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介護施設で会話をしている人たち
2024.03.19

リアリティ・オリエンテーションとは? 効果的な手法やポイントを解説

認知症の治療には、薬物療法から非薬物療法まで様々な方法があります。非薬物療法のひとつに「リアリティ・オリエンテーション」という方法があり、手軽に行える手法として、介護現場でも取り入れられています。


今回は、「リアリティ・オリエンテーション」に注目し、実施方法や効果、注意点などを詳しく解説します。認知症の方の日々のケアとして、ぜひ実践してみてください。


目次
・リアリティ・オリエンテーションとは
・対象者はどんな人?
・リアリティ・オリエンテーションの種類と方法
・リアリティ・オリエンテーションの事例
・リアリティ・オリエンテーションの効果
・リアリティ・オリエンテーションで注意したいこと
・まとめ

執筆者画像
監修者 扇澤 史子 先生
老年期の精神疾患や認知症の本人・家族を対象とした心理支援、心理アセスメントの他、精神科リエゾン・認知症ケアチームなどの多職種協働、地域に出向くアウトリーチ等に携わる。臨床心理士/公認心理師。博士(心理学)。現在、東京都健康長寿医療センター主任技術員。  分担執筆として『認知症と診断されたあなたへ』(医学書院,2006年)、『認知症はこう診る』(医学書院,2017年)等が、編著として『認知症の心理アセスメントはじめの一歩』(医学書院,2018年)がある。

リアリティ・オリエンテーションとは

リアリティ・オリエンテーションは現実見当識訓練と呼ばれ、見当識障害※1がある方を対象に行われる非薬物療法のひとつです。日常生活の中で、時間・場所・人・出来事などの認識に働きかけたり、情報を補ったりすることで、認知症の方が安心して過ごすことを目的として行われます。


見当識障害とは
認知症の症状のひとつで、時間や場所、場面、人物などを正確に認識できない状態を指します。自分が今どこにいるのか分からない、今の日時や曜日がわからない、親しい人物を見知らぬ人と勘違いするなどの症状が見られます。
見当識障害についての詳細は、こちらの記事(【見当識障害とは】症状や原因、対応法について)で解説しています。


認知症になると、日常生活の中で、時間や場所、人物などの大切な情報を正確に認識しづらくなり、混乱や不安が生じやすくなります。リアリティ・オリエンテーションを実施することで、混乱や不安を和らげ、認知症の本人の日常生活の質を向上させるとともに、周囲の家族や介護者がサポートしやすい状況を作り出すことができます。



対象者はどんな人?

リアリティ・オリエンテーションは、不適切な方法で行うと、かえって本人の負担となり、行動・心理症状の原因となりかねず、認知症の人すべてに有効という訳ではありません。


基本的には、日常の会話や言語によるコミュニケーションがある程度保たれている方を対象としています。また、近時記憶(最近の出来事や数分前に覚えた情報)の部分的障害が見られながらも、長期記憶(子供の頃の思い出や過去の重要な出来事など、遠い過去の情報や記憶)がある程度保たれている方におすすめです。



リアリティ・オリエンテーションの種類と方法

リアリティ・オリエンテーションの訓練法には、「24時間 リアリティ・オリエンテーション」と「クラスルーム リアリティ・オリエンテーション」の2つの方法があります。それぞれ単独で行うことがあれば、両手法を組み合わせて行うこともあります。

24時間 リアリティ・オリエンテーション

カレンダーと桜のイメージ

24時間 リアリティ・オリエンテーションは、認知症の本人に対して、季節や日時、場所や天気などの日常の基本的な情報を自然なかたちで繰り返し伝える方法です。基本的には1対1で行い、日常の生活環境の中で随時行うため、「今の状況をわかりやすく伝えること」を意識すると良いでしょう。時間や場所が分かることで、気持ちが落ち着き、日常の中で混乱や不安を生じることが少なくなります。


準備するもの
時計、カレンダー、地図、新聞・テレビ・ラジオ、季節の食べ物や植物など

会話の例
●カレンダーを見ながら、「蒸し暑くなってきたと思ったら、もう〇月〇日なんですね」「今日は、〇月〇日ですね。だんだん肌寒くなってきましたね」と、日付や季節の感覚を味わうような声かけをしてみましょう。

●昼食を食べる際、時計を見せながら「今、〇時ですね。そろそろお腹がすいてきましたね。昼食を食べましょう」と今の時間と生活リズムの流れを伝えます。

●外出時に、「今までお家にずっといたので、気分転換に〇〇〇に行きましょうね」と、現在地や目的地に関する情報をさりげなく含めた形で、自然に会話をしましょう。移動中に、周囲の景色を見ながら、「そろそろ〇〇が見えてきましたねえ」など楽しみながら、場所やルートを共有するとよいでしょう。


クラスルーム リアリティ・オリエンテーション

クラスルーム リアリティ・オリエンテーションを実施している様子

クラスルーム リアリティ・オリエンテーションは、集団で現実見当識に関する情報を繰り返し学習する手法です。発症初期から軽度の人同士で3~8人程度のグループに分け、日常生活の決まった時間・場所で、名前・今いる場所・月日・天気・今日の予定などの情報を会話します。できれば毎日決まった時間に1・2回実施し、1回の時間は数分程度、あるいは軽体操や季節に相応しい歌唱や思い出話などを含めて30分ほど行うこともあります。現場の状況に応じて、可能な範囲で取り入れるといいでしょう。


準備するもの
ホワイトボード、カレンダー、時計、参加者の名札、お茶など

会話の例
●はじめてクラスルーム リアリティ・オリエンテーションを行う場合は、自己紹介を中心とした会話をすると良いでしょう。一人ひとり、お互いの名前がすぐに確認できるように、見えやすい位置に名札を付け、趣味や好きな物・事などについての情報などを順番に発表していきます。参加者が発表した情報をホワイトボードに書いていくことで、記憶障害があっても安心して参加でき、また他の参加者がどのような人かを認識でき、交流しやすくなります。

●カレンダーを用いて、今日の日付や曜日を共有します。その際、「今日は何の日か」といったような日時に関するクイズを出すことで、参加者同士が季節を認識するきっかけになります。



リアリティ・オリエンテーションの事例

ここからは、介護の現場で実践されているリアリティ・オリエンテーションの具体的な事例を紹介します。

(過去の実施事例となりますので、現在は実施されていない場合があります)

季節を感じる飾り物

「SOMPOケア そんぽの家 平野長吉」では、施設内に季節を感じる飾り物を設置しています。現在が夏であることを伝えることはもちろん、この飾りを見た人同士で、夏に関する会話をするきっかけが自然に生まれます。結果、利用者同士が常に季節を認識することにつながっていきます。

手作りの日めくりカレンダー

「SOMPOケア そんぽの家 三浦」では、施設内に手作りの日めくりカレンダーを設置しています。日めくりカレンダーの前で、利用者の方々と職員が「今日は〇月〇日〇曜日ですね」と会話をすることで、日時・曜日を認識することができます。



リアリティ・オリエンテーションの効果

リアリティ・オリエンテーションは、認知症の症状への対処や改善方法として広く導入されています。具体的な効果としては、以下のようなものが報告されています。


不安や混乱の解消

リアリティ・オリエンテーションを行うことで、認知症の本人が自身の置かれている状況を認識しやすくなります。「自分が今、どこにいるのか」「今、何時なのか」「周りにはどんな人々がいるのか」という情報は、自分の存在感覚を支える大切な内容であり、これらを確認することで、本人が抱える不安や混乱を軽減できます。


日常のスケジュールの管理

認知症の本人に、日常の予定やスケジュールを必要なときにさりげなく伝える、あるいは確認したいときに見返せるように紙に書いて渡しておくことで、日常のスケジュールを把握しやすくなります。これにより、混乱や不安が減少し、日常生活を円滑に過ごすことができるようになります。


感情の安定化

認知症の本人が、日常生活における今の状況を理解しやすなります。日時や場所、人、その日の予定などの情報を補うことで、環境との基本的なつながりの感覚を取り戻しやすくなります。状況が理解できることで、気持ちの安定にもつながります。


自尊心の回復

認知症の本人は、自己認識や自尊心の低下を経験することがあります。リアリティ・オリエンテーションを通じて、保たれている能力を安心して発揮できることで、自己肯定感や自尊心を取り戻すこともできるでしょう。


適切な行動の促進

現実見当識の情報が補われることで、状況に応じた適切な行動を取りやすくなります。たとえば、現在の場所を把握し、その場に相応しい行動をとりやすくなり、不安や混乱が生じる恐れを減らすことができます。


人間関係の維持・構築

認知症の本人は、「今がいつで、ここがどこなのか、あなたが誰なのか、そして自分は誰なのか」といった見当識が分からなくなることがあるため、そのような状況はコミュニケーションの基盤を奪われるのに等しい体験です。しかし悲しいことに、認知症になると、時間や場所、人物について、確認されることが増えがちです。


リアリティ・オリエンテーションの意義を理解して、介護者(家族)が必要な時にさりげなくリアリティ・オリエンテーションを行うことで、「この人は自分が生活しやすくなるよう支援してくれている」という安心感と信頼感をもたらします。このことで、本人・介護者双方の生活の質の向上につながっていくでしょう。


コミュニケーションの促進

リアリティ・オリエンテーションの実施により、認知症の本人とのコミュニケーションが増えるきっかけになることが知られています。これは単に現実見当識を補うだけでなく、本人と周囲とのコミュニケーションや人間関係の質の向上にも効果があります。


また、対話を通じて本人の不安や疑問が共有されることで、気持ちの安定がもたらされます。そのほかにも、コミュニケーションを図ることで、気持ちの活性化につながります。これは意欲や自発性の維持・向上に寄与し、日々の生活を活性化することにもつながります。



リアリティ・オリエンテーションで注意したいこと

リアリティ・オリエンテーションは、認知症の本人に様々な効果をもたらしますが、実施にはいくつか留意すべきことがあります。以下に、実施の際の留意すべき要点と注意事項を詳しく解説します。


プライバシーへの配慮

リアリティ・オリエンテーションの中で、本人の過去や現在の情報を取り扱う場面は多くあります。その際、本人のプライバシーを尊重することが不可欠です。事前に参加する方に対して、「どこまで他の参加者と情報を共有してよいのか」という意向を確認した上で、情報の取り扱いルールを明確にする、不必要な情報の共有を避ける、などを意識すると良いでしょう。


安心感を保障する

認知症になると、日常的に日付や場所、人物が分かっているか、試される会話が多くなります。そのことが、認知症の本人が人との交流を避ける恐れにつながるため、リアリティ・オリエンテーションでは安心感を保障する関わりを行いましょう。本人を萎縮させるような強制的、高圧的な実施は、もってのほかです。本人が質問に答えられなさそうであれば、さりげなく補う、遠巻きに見ていただくだけでもよいなど、失敗感を残さず、安心して参加できる配慮が重要です。


見当識の維持・向上への効果に、期待しすぎない

認知症は、基本的に進行していく疾患です。リアリティ・オリエンテーションを日々実施していても、見当識が目覚ましく改善するような効果は期待できません。見当識を補うことで、本人が日々を安心して過ごせているかどうかに注目をしましょう。


本人の症状に合わせて行う

リアリティ・オリエンテーションは、中等度以上で見当識障害が進行し、混乱している本人に実施する場合には注意が必要です。見当識の能力を確認することで、本人が分かっていないことを突きつけられ、かえって混乱を深めたり、自尊心を傷つけたりすることになりかねません。さりげない自由会話を通して、見当識を補い、季節を味わうなど、楽しい会話のきっかけになるような働きかけが望まれます。



まとめ

本記事では、リアリティ・オリエンテーションの実践方法や効果、注意点などについて解説しました。リアリティ・オリエンテーションは、認知症のケアはもちろん、介護者と本人、本人同士の会話のきっかけを生むなど、関係性を築くのにも有用な方法です。日常的なコミュニケーション法として、ぜひ取り入れてみてください。

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