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2022.01.14

認知症の薬による治療について

認知症の治療は、症状の進行をできるだけ緩やかにして、本人が少しでも長くその人らしく暮らせるようにすること、またご家族の介護負担を軽減することを目的に行われます。

治療法には、薬物療法と、薬は使わずリハビリテーションなどを中心とした非薬物療法があります。今回は、薬物療法について紹介します。


目次
・認知症と薬の関係
・抗認知症薬(中核症状の薬)の種類と特長
・行動・心理症状(BPSD)の薬の種類
・認知症の薬の副作用
・薬を飲む際の注意点
・認知症の治療は早期発見がポイント
・研究開発が進む認知症の薬
・まとめ

執筆者画像
【監修】精神科、心療内科医、認知症診療医 ブレインケアクリニック名誉院長 ・一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長 今野裕之先生
順天堂大学大学院卒業。老化予防・認知症予防に関する研究で博士号を取得。大学病院や精神科病院での診療を経て2016年にブレインケアクリニック開院。各種精神疾患や認知症の予防・治療に栄養療法やリコード法を取り入れ、一人ひとりの患者に合わせた診療に当たる。認知症予防医療の普及・啓発活動のため2018年に日本ブレインケア・認知症予防研究所を設立。 著書・監修に「最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術(青春出版社)」など。医師+(いしぷらす)所属。

認知症と薬の関係

現在の認知症治療は、薬物療法と非薬物療法が並行して行われています。薬物療法は主に二つに分けられます。


一つは、記憶障害や見当識障害、言語障害など認知症の中核症状に対して行うもので、抗認知症薬が使われます。この薬には症状の進行を抑えるという効能があります。

もう一つは、不安や妄想などの行動・心理症状(BPSD)に対して行うもので、症状に合わせて抗うつ薬などが使われています。


抗認知症薬によって、アルツハイマー型認知症などの認知症が根治できるわけではありませんが、症状の進行を緩やかにする効果が期待できます。認知症にはいくつか種類がありますが、抗認知症薬の対象とされているのは、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症です。現在、抗認知症薬は、アルツハイマー型認知症には4種類、レビー小体型認知症には1種類の薬が保険適応となっています。では、認知症の治療にはどのような薬が使われているのか見ていきましょう。

抗認知症薬(中核症状の薬)の種類と特長

現在認知症の治療に使用されている抗認知症薬は、アルツハイマー型認知症の場合は、コリンエステラーゼ阻害薬の「ドネペジル」「ガランタミン」「リバスチグミン」とNMDA受容体拮抗薬の「メマンチン」の4種、レビー小体型認知症はコリンエステラーゼ阻害薬の「ドネペジル」1種です。


コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬は、どちらも脳内で情報を伝える神経細胞に働きかけますが、性質が異なります。コリンエステラーゼ阻害薬は、神経伝達物質である脳内のアセチルコリンが減少するのを防いで、情報伝達がスムーズに行えるようにする働きをします。NMDA受容体拮抗薬は、脳内の過剰なグルタミン酸(神経伝達物質)の働きを抑えて、グルタミン酸による悪影響から神経細胞を守る目的で使用されます。


それぞれの薬は、症状や認知症の進行段階などを考慮して処方されます。以下にそれぞれの薬剤の特徴をまとめました。


行動・心理症状(BPSD)の薬の種類

BPSDの諸症状の治療としては、リハビリテーションなどの非薬物療法から始めることが優先されていますが、BPSDの症状に応じて抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、漢方薬などが処方されることがあります。しかし、アルツハイマー型認知症をはじめ、認知症疾患に対する抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬は厚生労働省の指針では「基本的には使用しない」とする適応外使用であるため、患者のリスクベネフィットを考慮しながら、充分なインフォームドコンセントを行ったうえで使用されています。低用量から開始し、有効性の評価を行いながら、症状により減薬や中止が可能か検討しながら使用していきます。特に、抗不安薬や睡眠薬の多くは高齢者に対して安易に使用するとせん妄につながる可能性があるため、慎重に処方する必要があります。


以下に主なBPSDの症状と使用される薬剤名を紹介していきます。

■抗精神病薬

対象となるBPSDの症状:幻覚や妄想、焦燥、興奮や攻撃性などの症状が対象

主な薬剤(一般名):リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール

■抗うつ薬

対象となるBPSDの症状:抑うつ気分、不安など

主な薬剤(一般名):フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、ミルナシプラン、デュロキセチン、ミルタザピン、ミアンセリン、トラゾドン

■抗不安薬

対象となるBPSDの症状:不安・イライラなど

主な薬剤(一般名):ロラゼパム、オキサゼパム

■睡眠薬

対象となるBPSDの症状:入眠障害、中途覚醒、早期覚醒

主な薬剤(製品名):ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン、クアゼパム、ラメルテオン

認知症の主な症状2:BPSD(行動・心理症状)

認知症の症状には、脳の機能が落ちることで必ずみられる中核症状と、それに伴って二次的に出現する様々な症状、BPSD(行動・心理症状)があります。周囲にとっては「なぜそんなことをするの?」と思ってしまう行動も出てきますが、どれも本人にとっては理由があるのです。この記事では具体的な症状を解説します。

認知症の薬の副作用

抗認知症薬の使用により、以下のような副作用が出る場合があります。


コリンエステラーゼ阻害薬の主な副作用:食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛、下痢など消化器系の症状

NMDA受容体拮抗薬の主な副作用:めまいや眠気、意欲・食欲低下、口数の減少など


特に服用開始時や薬剤の増量時にこれらの症状が出ることが多いため、本人だけでなく周囲の見守りが大切です。服用を続けることで、副作用が軽減することもありますが、副作用と思われる症状があった場合は、すぐにかかりつけの医師に相談してください。また、服用を止めることで症状が急激に悪化する場合があるため、自己判断で服薬をストップせずに、まずは医師の判断を仰ぐようにしましょう。

薬を飲む際の注意点

認知症の薬の服用にはご家族など周囲のサポートが不可欠です。薬の飲み忘れや、反対に飲んだことを忘れてしまう、上手に飲み込めないなど、認知症の場合は本人だけでは正しく薬を飲むことが困難なケースも少なくありません。医師や薬剤師などに相談しながら、正しく薬を服用できるよう次のような工夫をしていきましょう。


■薬を飲み忘れないための工夫

・医師に相談して薬を飲む回数を減らしてもらう、薬剤師に相談をして1回分を1袋に包む「一包化調剤」をしてもらう

・お薬カレンダーやピルケースを利用する、一包化された薬袋に日付を記入する


■薬を飲み過ぎないための工夫

・記憶障害によって、既に薬を飲んでいるのに飲んでいないと思ってしまう場合は、薬としての作用がない偽薬(プラセボ)などを活用して、飲んだ満足感を得てもらう


■薬を飲みたがらないときの工夫

・医師に相談して、剤形や服薬回数、服薬時間などを変更してもらう

・食事やおやつとなど楽しみな時間に飲むようにするなど、生活習慣に合わせて対応する

認知症の治療は早期発見がポイント

アルツハイマー型などの認知症はすぐに進行するものではありませんが、症状の進行を緩やかにする治療薬はあっても根治薬はなく、一度ダメージを受けた脳細胞は元通りにはなりません。そのためできるだけ早期に発見し、早期に治療を開始することがとても重要です。認知症と、加齢によるもの忘れの区別は非常に難しいものです。そのため、少しでも異変を感じたら認知症に詳しい専門の医師に診てもらうようにしましょう。


また、認知症予備軍である軽度認知障害(MCI)の段階で予防に努めれば、認知症の発症を遅らせたり、健常のレベルに戻ったりすることが分かっています。MCIの方の約半数が5年以内に認知症に移行するともいわれていますので、運動などの予防をすることも重要です。

認知症で病院にかかる〜受診から診断まで

早期発見がとても大切な認知症。この記事では、病院では何を聞かれてどのような検査が行われるかなど、受診から診断までの流れを説明しています。

研究開発が進む認知症の薬

現在日本で承認されている抗認知症薬は、ドネペジルなど4種です。これらの薬は、アルツハイマー型認知症の症状進行を緩やかにする効能がありますが、完全に止めることはできません。認知症薬の研究開発は世界中で進められています。最近では、アメリカでアルツハイマー型認知症の脳内に蓄積するタンパク質を減少させる目的で開発された治療薬「アデュカヌマブ(一般名)」が、条件付きで米国食品医薬品局(FDA)に製造販売が承認されました(日本では継続審議中)。アメリカでは、その他にもイーライリリー社の「ドナネマブ」など申請段階に進んでいる新薬候補もあります。


もちろん国内でも根本治療を目指した治療薬の研究開発は行われています。さらに、認知症の発症前・早期診断ができるようにする診断技術の研究も行われています。


まとめ

認知症の薬物療法について紹介してきました。認知症を根治するための薬はまだ開発されていません。2021年にアメリカで承認された新薬は、アルツハイマー病の進行を抑える効果が期待されていますが、一度ダメージを受けた脳細胞が回復することはないため、できるだけ早期に治療を開始することの重要性は変わりません。

適度な運動や健康的な食生活など、できるだけ認知症にならないような生活習慣を心がけること、日々予防に努めることが大切です。


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