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薬を手に取る高齢者と横で見守る医者
2024.10.09

認知症の薬と種類一覧│新薬ドナネマブとレカネマブも解説

認知症の治療は、症状の進行をできるだけ緩やかにして、本人が少しでも長くその人らしく暮らせるようにすること、またご家族の介護負担を軽減することを目的に行われます。


治療法には、薬物療法と、薬は使わずリハビリテーションなどを中心とした非薬物療法があります。今回は、薬物療法について紹介します。


目次
・認知症の薬物療法について
・認知症の薬の種類と特長
・認知症の薬の副作用
・アルツハイマー型認知症の新薬について
・薬を飲む際の注意点
・認知症の治療は早期発見がポイント
・研究開発が進む認知症の薬
・まとめ
・よくある質問

執筆者画像
東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 医師
東京大学医学部附属病院神経内科の専門外来「メモリークリニック」にてアルツハイマー病(AD)やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たっていた。特に超早期段階でのAD、レビー小体病の診断、新薬の開発が専門。2020年4月より東京都健康長寿医療センターの脳神経内科部長として赴任。2023年より副院長。

認知症の薬物療法について

現在の認知症治療は、薬物療法と非薬物療法が並行して行われています。現在の薬物療法では症状の根治はできませんが、認知症の進行を遅らせることや認知症に付随する精神的な病状を和らげることを目的に薬を使用します。


 使われる薬の種類は主に二つに分けられます。一つは、記憶障害や見当識障害、言語障害など認知症の中核症状に対して行うもので、抗認知症薬が使われます。この薬には症状の進行を抑えるという効能があります。 もう一つは、不安や妄想などの行動・心理症状(BPSD)に対して行うもので、症状に合わせて抗うつ薬などが使われています。


認知症の薬の種類と特長

認知症では抗認知症薬と行動・心理症状(BPSD)の薬が使われています。それぞれどのような薬が使われているのかを見ていきましょう。


抗認知症薬(中核症状の薬)

認知症にはアルツハイマー型、レビー小体型といったいくつかの種類がありますが、抗認知症薬の対象とされているのは、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症です。

※認知症の種類について詳しく知りたい方はこちら→認知症について知ろう


現在、抗認知症薬は、アルツハイマー型認知症には5類、レビー小体型認知症には1種類の薬が保険適応となっています。


保険適応できる抗認知症薬
●アルツハイマー型認知症:ドネペジル塩酸塩、ドネペジル経皮吸収型製剤、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン
●レビー小体型認知症:ドネペジル塩酸塩


コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬は、どちらも脳内で情報を伝える神経細胞に働きかけますが、性質が異なります。コリンエステラーゼ阻害薬は、神経伝達物質である脳内のアセチルコリンが減少するのを防いで、情報伝達がスムーズに行えるようにする働きをします。NMDA受容体拮抗薬は、脳内の過剰なグルタミン酸(神経伝達物質)の働きを抑えて、グルタミン酸による悪影響から神経細胞を守る目的で使用されます。


それぞれの薬は、症状や認知症の進行段階などを考慮して処方されます。以下にそれぞれの薬剤の特徴をまとめました。


■ドネペジル塩酸塩
ドネペジルは、脳内のアセチルコリンの分解を抑え、認知機能の低下を緩やかにする効果のある抗認知症薬です。一般的な製品名では「アリセプト」と呼ばれています。アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の両方に効果があります。
参考:医療用医薬品 : アリセプト (アリセプトドライシロップ1%)

■ドネペジル経皮吸収型製剤
ドネペジル経皮吸収型製剤は、経口薬であるドネペジル塩酸塩と同じドネペジルを有効成分とした貼付薬です。「アリドネ」の製品名で呼ばれています。なお、アルツハイマー型認知症には効果があるものの、レビー小体型認知症には適していません。
参考:医療用医薬品 : アリドネ

■ガランタミン
ガランタミンは製品名を「レミニール」といい、ドネペジルと同様にコリンエステラーゼ阻害薬です。アセチルコリンの分解を抑えるだけでなく、ニコチン性アセチルコリン受容体を刺激する作用もあり、認知機能の改善が期待できます。
参考:医療用医薬品 : レミニール

■リバスチグミン
リバスチグミンは、貼付剤(パッチ)として使用される抗認知症薬です。イクセロンパッチ、リバスタッチパッチなどの製品があります。リバスチグミンは経口薬と比べて副作用が少なく、確実に薬を投与できるという利点があります。
参考:医療用医薬品 : イクセロン (イクセロンパッチ4.5mg 他)

■メマンチン
メマンチンは製品名をメマリーといい、他の3種とは異なるメカニズムで作用するNMDA受容体拮抗薬です。アルツハイマー型認知症の中等度から高度の症状に効果があります。グルタミン酸による神経細胞への過剰な刺激を抑え、認知機能の低下を抑制します。
参考:医療用医薬品 : メマリー


行動・心理症状(BPSD)の薬の種類

行動・心理症状(BPSD)の薬の種類

BPSDの諸症状の治療としては、リハビリテーションなどの非薬物療法から始めることが優先されていますが、BPSDの症状に応じて抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、漢方薬などが処方されることがあります。


しかし、アルツハイマー型認知症をはじめ、認知症疾患に対する抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬は厚生労働省の指針では「基本的には使用しない」とする適応外使用であるため、患者のリスクベネフィットを考慮しながら、充分なインフォームドコンセントを行ったうえで使用されています。

参考:かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)


低用量から開始し、有効性の評価を行いながら、症状により減薬や中止が可能か検討しながら使用していきます。特に、抗不安薬や睡眠薬の多くは高齢者に対して安易に使用するとせん妄につながる可能性があるため、慎重に処方する必要があります。

以下に主なBPSDの症状と使用される薬剤名を紹介していきます。


■抗精神病薬
対象となるBPSDの症状:幻覚や妄想、焦燥、興奮や攻撃性などの症状が対象
主な薬剤(一般名):レキサルティ、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール
ブレクスピプラゾールは、「統合失調症」、「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」に加え、「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」の効能効果の承認を取得しています。

■抗うつ薬
対象となるBPSDの症状:抑うつ気分、不安など
主な薬剤(一般名):フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、ミルナシプラン、デュロキセチン、ミルタザピン、ミアンセリン、トラゾドン

■抗不安薬
対象となるBPSDの症状:不安・イライラなど
主な薬剤(一般名):ロラゼパム、オキサゼパム

■睡眠薬
対象となるBPSDの症状:入眠障害、中途覚醒、早期覚醒
主な薬剤(製品名):ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン、クアゼパム、ラメルテオン

BPSD(周辺症状/行動・心理症状)とは? 具体的な症状や要因、対応方法について

本記事では、BPSD(周辺症状/行動・心理症状)について、専門医監修のもと詳しくご紹介します。BPSDが見られた際の対応法も解説していますので、認知症の方のサポートの参考にしてみてください。


認知症の薬の副作用

抗認知症薬の使用により、以下のような副作用が出る場合があります。


・コリンエステラーゼ阻害薬の主な副作用:食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛、下痢など消化器系の症状
・NMDA受容体拮抗薬の主な副作用:めまいや眠気、意欲・食欲低下、口数の減少など


特に服用開始時や薬剤の増量時にこれらの症状が出ることが多いため、本人だけでなく周囲の見守りが大切です。服用を続けることで、副作用が軽減することもありますが、副作用と思われる症状があった場合は、すぐにかかりつけの医師に相談してください。また、服用を止めることで症状が急激に悪化する場合があるため、自己判断で服薬をストップせずに、まずは医師の判断を仰ぐようにしましょう。


アルツハイマー型認知症の新薬について

認知症のなかでも、アルツハイマー型認知症における原因物質であるアミロイドβタンパク質に直接働きかける新薬の開発が進んでいます。2024年9月にはアメリカのイーライリリー社が開発した「ドナネマブ」が、2023年9月には日本のエーザイ社とアメリカのバイオジェン社が開発した「レカネマブ」がそれぞれ日本国内でも製造販売が承認されました。


以下はそれぞれの特徴を比較した表です。

ドナネマブとレカネマブの比較表

2024年に承認された新薬「ドナネマブ」

ドナネマブはアメリカのイーライリリー社が開発を進めているアルツハイマー病の新薬です。厚生労働省は2024年9月に国内での製造販売を正式に承認し、11月には保険適用が開始される見通しです。米国における薬価は32,000ドルです。


アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβタンパク質に直接働きかける薬としては「レカネマブ」に続いて2例目となりました。


▼アミロイドβタンパク質と認知症の関係性
健康な人の脳にも存在し、本来は脳内の不純物として短期間で分解、排出されるものです。加齢とともに毒性が強いタイプのアミロイドβが増加し、凝集すると排出されることなく、脳に蓄積。その結果、神経細胞が障害されて最終的には死滅し、徐々に脳が萎縮。その結果、アルツハイマー型認知症が発症すると考えられています。


ドナネマブは、アミロイドβタンパク質が大きなかたまりになった「アミロイド班」に作用し、なかでも脳に沈着してからしばらく時間が経ち「ピログルタミル化」という変化が起こったアミロイド斑に選択的に結合する作用があります。副作用としてはARIA(アミロイド関連画像異常)と呼ばれる症状が認められており、脳出血や一部が腫れる可能性があります。そのため、定期的にMRI検査を受けることが必要です。

参考:アルツハイマー病の新しい治療薬(中編)ドナネマブについて


2023年に承認された新薬「レカネマブ」

2023年9月、新しい治療薬として「レカネマブ」が承認されました。2023年12月には保険適用が開始されており、薬価は米国で26,500ドルと高額なものの高額療養費制度の利用も可能です。


レカネマブはアルツハイマー型認知症の原因である、アミロイドβタンパク質の蓄積に直接作用するもので、記憶力の低下や判断力の衰えなどの症状の進行を遅らせます。原因となる因子に働きかけて進行を抑制する薬として国内で初めて承認されました。レカネマブは脳内のアミロイドβタンパク質の中でも、「プロトフィブリル」という中くらいのかたまりや、より大きなかたまりの「アミロイド班」を取り除く作用を持った薬剤で、2週間に一度を目安に投与します。


副作用としては、使い始めの初期に頭痛、発熱、吐き気などが現れたり、ドナネマブとおなじく数か月以内にARIA(脳の腫れや微小出血)が観察されることがあります。多くの場合生命に危険を及ぼすような深刻な状況には至らないとされていますが、専門医療機関での注意深い観察、評価が必要とされています。

参考:アルツハイマー病 と レカネマブ


薬を飲む際の注意点

薬のイメージイラスト

認知症の薬の服用にはご家族など周囲のサポートが不可欠です。薬の飲み忘れや、反対に飲んだことを忘れてしまう、上手に飲み込めないなど、認知症の場合は本人だけでは正しく薬を飲むことが困難なケースも少なくありません。医師や薬剤師などに相談しながら、正しく薬を服用できるよう次のような工夫をしていきましょう。

■薬を飲み忘れないための工夫

・医師に相談して薬を飲む回数を減らしてもらう、薬剤師に相談をして1回分を1袋に包む「一包化調剤」をしてもらう

・お薬カレンダーやピルケースを利用する、一包化された薬袋に日付を記入する


■薬を飲み過ぎないための工夫

・記憶障害によって、既に薬を飲んでいるのに飲んでいないと思ってしまう場合は、薬としての作用がない偽薬(プラセボ)などを活用して、飲んだ満足感を得てもらう


■薬を飲みたがらないときの工夫

・医師に相談して、剤形や服薬回数、服薬時間などを変更してもらう

・食事やおやつとなど楽しみな時間に飲むようにするなど、生活習慣に合わせて対応する

・薬を飲みたがらない場合は、貼付薬を使用することで、受け入れてもらいやすくなる


認知症の治療は早期発見がポイント

アルツハイマー型などの認知症はすぐに進行するものではありませんが、症状の進行を緩やかにする治療薬はあっても根治薬はなく、一度ダメージを受けた脳細胞は元通りにはなりません。そのためできるだけ早期に発見し、早期に治療を開始することがとても重要です。認知症と、加齢によるもの忘れの区別は非常に難しいものです。そのため、少しでも異変を感じたら認知症に詳しい専門の医師に診てもらうようにしましょう。


また、認知症予備軍である軽度認知障害(MCI)の段階で予防に努めれば、認知症の発症を遅らせたり、健常のレベルに戻ったりすることが分かっています。MCIの方の約5~15%が1年以内に認知症に移行するともいわれていますので※、運動などの予防をすることも重要です。

※出典:日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017

認知症で病院にかかる〜受診から診断までの流れについて~

早期発見がとても大切な認知症。この記事では、病院では何を聞かれてどのような検査が行われるかなど、受診から診断までの流れを説明しています。

研究開発が進む認知症の薬

現在日本で承認されている抗認知症薬は、新薬のドナネマブやレカネマブを含めると6種です。これらの薬は、アルツハイマー型認知症の症状進行を緩やかにする効能がありますが、完全に止めることはできません。認知症薬の研究開発は世界中で進められています。


もちろん国内でも根本治療を目指した治療薬の研究開発は行われています。さらに、認知症の発症前・早期診断ができるようにする診断技術の研究も行われています。


まとめ

認知症の薬物療法について紹介してきました。認知症を根治するための薬はまだ開発されていません。レカネマブやドナネマブのように、アルツハイマー病の原因となるたんぱく質に作用する薬も開発が進んでいますが、一度ダメージを受けた脳細胞が回復することはないため、できるだけ早期に治療を開始することの重要性は変わりません。


適度な運動や健康的な食生活など、できるだけ認知症にならないような生活習慣を心がけること、日々予防に努めることが大切です。


よくある質問

認知症の薬は飲まない方がいいと言われているのは本当?
記憶障害など、認知症の中核症状の進行を遅らせる抗認知症薬については、進行を遅らせる効果が期待できるとされています。薬による根治はできませんが、副作用のリスクなど患者の病状を見つつ使用することで進行の抑制が期待できます。

一方で、アルツハイマー型認知症をはじめとする、認知症疾患に対する抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬は厚生労働省の指針では「基本的には使用しない」とする適応外使用となります。特に、抗不安薬や睡眠薬の多くは高齢者に対して安易に使用するとせん妄につながる可能性があるため、慎重に処方する必要があります。

認知症は薬で治る病気ですか?
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症のように、細胞や組織がダメージを受けるような認知症に対する治療法は現時点で確立されていません。

認知症の薬のデメリットはなんですか?
たとえば抗認知症薬の使用においては、以下のような副作用が出る場合があります。
・コリンエステラーゼ阻害薬の主な副作用:食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛、下痢など消化器系の症状
・NMDA受容体拮抗薬の主な副作用:めまいや眠気、意欲・食欲低下、口数の減少など


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