時間や場所、人の判断がつかなくなっていく見当識障害は、認知症の中核症状のひとつです。近所の良く知っている道で迷子になってしまったり、季節がわからず真夏にセーターを着て暖房を入れてしまったり、娘の顔を忘れてしまったり……介護する側からすると想像できないようなことが起こる場合もあります。そこで、見当識障害とはどのような症状なのか、また症状に対してどのように適切に対応するといいのかを解説していきます。
時間や場所、人の判断がつかなくなっていく見当識障害は、認知症の中核症状のひとつです。近所の良く知っている道で迷子になってしまったり、季節がわからず真夏にセーターを着て暖房を入れてしまったり、娘の顔を忘れてしまったり……介護する側からすると想像できないようなことが起こる場合もあります。そこで、見当識障害とはどのような症状なのか、また症状に対してどのように適切に対応するといいのかを解説していきます。
時間や場所がわからなくなる見当識障害とは、具体的にどのような症状なのかを解説していきます。
見当識障害は、脳細胞が壊れることによって起こる、記憶障害や理解力・判断力の低下などとともに、認知症の中核症状のひとつで、時間や場所など、自分が置かれている状況を正確に認識できなくなることがあります。自分が若かった頃と勘違いをして昔のことを今のことのように話したり、子どもはまだ幼いと思っているため大人になった子どもを見ても誰だかわからない、ということも起こります。また、昔住んでいた家に帰ろうとすることもあります。特にアルツハイマー型認知症では記憶障害とともに起こりやすいといわれ、レビー小体型認知症では、記憶障害よりも見当識障害の症状の方が目立つことがあります。
見当識障害は、記憶障害とともに早くから現れる症状で、その現れ方には特徴があります。
まず、「時間や季節」に関する見当識障害が現れます。時間の感覚が薄れると現在時刻などがわからなくなり、長時間待つことや予定に合わせて準備することが難しくなっていきます。やがて、時間だけでなく日付や、季節がわからなくなると、「今日は何日か」と何度も聞いたり、季節感のない衣服を着たりする、といったことが起こります。
次に方向感覚が薄れてくる「場所」に関する見当識障害が現れます。進行すると、良く知っているはずの近所でも迷子になってしまったり、自宅のトイレや部屋の位置がわからなくなったりします。徒歩では行けないような遠い場所へ、歩いて出かけようとすることもあります。
症状がかなり進行すると、自分の年齢や人の生死に関する記憶、周囲の人との関係がわからなくなる「人間関係」の見当識障害が現れます。人も間違えることが多くなり、自分の娘を姉と間違えたり、鏡に映る自分の姿が自分だとわからなくなったりすることもあります。既に亡くなっている母親が心配しているからと、遠く離れた実家に歩いて帰ろうとすることもあります。
自分の居場所や時間がわからなくなってしまう、イライラして暴言を吐く、幻覚や妄想がある、夜中に歩き回るなど、「せん妄」には見当識障害によく似た症状があります。認知症でもせん妄を起こすことがあるため、せん妄なのか認知症なのか見極めが難しいことがありますが、原因や経過が大きく異なります。「もしかして認知症?」と慌ててしまうこともありますので、せん妄と認知症の違いを知っておきましょう。
せん妄には、急性疾患や投薬、手術、入院など身体上の変化が関わることが多く、発症の仕方は急激です。さらに、症状は一過性で、一日のうちでも変動があります。特に、夕方から夜間にかけて症状が起こることがあり、夜間せん妄と呼ばれます。原因に対しての処置や治療、環境の改善で症状は治まります。一方認知症は、ゆるやかに発症して進行していき、症状は永続的です。せん妄のように、一日のうちで正常な時と症状が出る時が分かれるということもありません。高齢者に急に症状が現れた場合は、認知症ではなくせん妄の可能性があります。何らかの病気が原因となっているかもしれないので、早急に病院を受診しましょう。
認知症の症状は大きくわけて、認知症によって脳の細胞が壊れ、その脳の細胞が担っていた役割が失われることで起こる直接的な症状である「中核症状」と、中核症状などによって引き起こされる二次的な症状であるBPSD(行動・心理症状)の2つがあります。この記事では「中核症状」について説明しています。
見当識障害によってどのようなことが起こるのか、またその対応方法などを紹介していきます。
見当識障害が現れると、少しずつ生活に支障をきたすようになってきます。どのようなことが起こる可能性があるのか見ていきましょう。
■どこにいるのかわからなくなってしまい、家に帰れなくなってしまう。行方不明になってしまう。
■時間の感覚がなくなり、夜中に電話をかけたり、夜中に外を出歩いたりしてしまう。
■判断力の低下により夏なのに厚着をして暖房をつけたり、冬なのに薄着で冷房をつけたりしてしまう。適切な衣服を着たり、空調管理ができなかったりすることで、脱水症状などの健康被害がでてしまうこともある。
■場所が認識できなくなってくると、トイレや自分の部屋もわからなくなってしまう。この場合は、常に介護が必要になる。
このような状況は、本人にとって大きなストレスがかかることはもちろんですが、介護する側もうまくコミュニケーションがとれずに怒ってしまったり、つらい気持ちになることもあります。接し方の工夫や心がけのポイントを見ていきましょう。
見当識障害は何より本人が苦しく大変な思いをしていますが、介護にあたっているご家族も、時には心を傷つけられるようなことを言われるなどして大変な思いをします。しかし、本人はわざとやっているのではなく、認知症の症状であることを理解して、イライラしたり悲しくなったり振り回されないようにすることが重要です。お互いストレスを抱えないようにするために、次のような接し方を心がけていきましょう。
■状況を理解し、怒らず冷静にやさしく接するように
■間違いを指摘したり、責めたりしない
■なるべく環境の変化を少なくする
■介護者がそばにいて安心させてあげる
■ひとりで抱え込まずに、地域の助けを得ることも大事(認知症サポーターや認知症カフェ、市町村のコーディネーターなど)
加齢によって睡眠には変化が起こるため、睡眠リズムがずれて昼夜逆転になることがあります。この記事では、昼夜逆転する原因やその治し方、認知症による睡眠障害などについて説明しています。
見当識障害に対するリハビリ方法を紹介します。本人はさまざまな不安やストレスを抱えていることを理解して、自尊心を傷つけないようていねいに対応することが大切です。
季節感や時間を意識した会話をしましょう。
目につくところに時計やカレンダーを設置して、今日の日付に一緒に〇をつけたり、時計を見たりしながら、「〇時だからお昼ごはんにしましょう」「今日は〇月〇日ですね」など時間を意識した声がけをします。
自然光を取り込むことで、朝昼晩の区別がつくようにします。あわせて「朝だからカーテンを開けましょう」といった時間を意識した声がけもするようにしましょう。
「冬だから寒いね」など、季節を意識的に会話に盛り込みましょう。また、散歩をしながら季節を感じるのは気分転換にもなり、歩くことが脳にいい刺激を与えます。ほかに植物の世話などもいいでしょう。
認知症が進行すると、家族の顔がわからなくなったり、自分のことがわからなくなったり、さまざまな記憶障害が現れます。次のようなアプローチで記憶を補う手伝いをしていきましょう。
写真の人は誰でいつ撮ったものか、など思い出を引き出しましょう。
一緒に記憶をたどることで、自分のことや家族、行事、友人などを思い出す手がかりを作りましょう。
今日の行動記録をメモに書き込むなど。
認知症の進行とともに、日常生活で失敗することが増えていきますが、ご家族や介護をする方による意識的な声がけが、失敗を減らす手助けになります。
例えば、トイレの失敗を減らすためには、トイレの場所がわからなくならないようにトイレのドアに目立つ印をつけたり、「そろそろトイレに行きませんか?」と定期的に声がけをするほか、一緒にトイレまで行って、何度も繰り返してそこがトイレであることを伝えることなどもいいでしょう。また、目の前にいる人が誰だか思い出せなくなっていたら、「息子の〇〇だよ」と自分から名乗るようにしましょう。
認知症の患者さんは、日常生活においてさまざまなことが少しずつできなくなっていきます。本人にも自覚があり、大きな不安や焦燥感を抱いているため、自尊心を傷つけないようにさりげなく手助けを行うこともポイントです。
認知症の方が、できるだけ長い間その人らしい生活をしていけるように支援をすることが認知症の介護です。認知症の方の立場に立って適切な対応ができるよう、認知症の基本的な情報や、介護をしていく上での心がまえ、症状ごとの接し方などを紹介します。
見当識障害について解説してきました。見当識障害は、アルツハイマー型認知症の中核症状のひとつで、時間や季節、場所、人間関係が病気の進行とともにわからなくなっていきます。病気の進行は止めることはできませんが、本人らしい生活を少しでも長く送れるようにするために、家族や周囲の人には病気や症状への理解と適切な対応が求められます。認知症は誰しもがなる可能性のある病気だからこそ、理解を深めておきたいものです。
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