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悩んでいる高齢者の女性
2023.12.08

せん妄と認知症は違う?原因や具体的な対応策をわかりやすく解説

「高齢の両親の物忘れが激しくなった」「急に興奮したり、怒り出したりすることがある」など、家族が認知症になってしまったのではないかと悩んでいませんか? 注意力が低下したり混乱状態になったりする「せん妄」なのか、それとも認知症になってしまったのかが判断できずに不安な方も多いでしょう。


この記事では下記の内容を解説しています。


● せん妄について(症状や原因)

● せん妄になりやすい方の特徴

● せん妄と認知症の違い

● せん妄への対応方法(家族ができること、病院受診について)


本記事では、せん妄の原因や症状に加え、具体的な対応方法についても解説しています。家族の方ができる対処法についても紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。

目次
・せん妄とは?
・せん妄の症状
・せん妄のチェックリスト
・せん妄はなぜ起こるのか?
・せん妄になりやすい方の特徴
・せん妄と認知症の違い
・せん妄への対応方法
・せん妄を疑ったら病院受診をしましょう

執筆者画像
国立長寿医療研究センター病院 老年内科 宮原 周三 先生
大阪大学歯学部卒業後、歯科医療に従事。その後、熊本大学医学部を卒業。現在、国立長寿医療研究センター病院老年内科にて高齢者医療に従事している。日本内科学会、日本老年医学会、日本認知症学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会に所属し、所属学会に関連するテーマについて研究を行っている。

せん妄とは?

せん妄とは、何らかの影響により脳の機能不全を起こし、注意力や思考力の低下といったさまざまな精神症状がみられる状態のことです。専門的には、軽度から中等度の「意識障害」と考えられています。軽度から中等度に意識が障害されることで本来の脳の機能を発揮することが困難になります。せん妄は、特に高齢者や認知症の患者さんで起こりやすい症状です。


せん妄を発症すると、会話がかみ合わなくなったり、活気がなくなったり、別人のように怒りやすくなったりすることがあります。もともとしっかりしていた方でも、入院中にせん妄を発症すると、現状の理解ができなくなるため点滴のチューブをご自身で抜いてしまったり、ベッドからの転落や転倒をしてしまうリスクが高くなります。入院した高齢者の23%でせん妄を発症したとの報告もあり、決して珍しいものではありません。

参考:(Gibb et al. The consistent burden in published estimates of delirium occurrence in medical inpatients over four decades: a systematic review and meta-analysis study. Age Ageing. 2020 Apr; 49(3): 352–360.)


せん妄は、早ければ数時間程度で急激に発症します。1日のなかで症状が良くなったり、悪化したりと変動をみることが特徴で、多いのは夕方から夜間にかけて悪化する「夜間せん妄」です。夜になるとおかしな発言や行動を認め、翌朝になると普段通りになるような変動を認めるケースなどは「夜間せん妄」を起こしている可能性を示唆しています。


せん妄を認めた際には、その背後に感染症や貧血などの身体の不調が隠れていることがあります。場合によっては脳血管障害(脳梗塞など)の可能性も考えられます。身体の不調は脳機能の低下を引き起こします。皆さんも高熱が出たときや、強い疲労のある際には思考力や判断力の低下を自覚したことはないでしょうか。認知症の方など、もともと脳の機能が低下している方では、ちょっとした身体の不調でせん妄を起こすこともあります。


そのため、普段と様子が違う、おかしな行動や言動が出現したときには体温を測定するなど病気のチェックをすることも大切です。ただし、ご家族だけでの判断は困難で危険も伴うため、せん妄を疑う症状を認めた際には医師に相談するのがよいでしょう。


せん妄の症状

せん妄の症状は「意識障害」や「精神症状」などさまざまです。

せん妄のチェックリスト

せん妄にはさまざまな症状がありますが、普段の様子を知っていれば異変に気がつきやすいでしょう。


家族や身近な方に対して気になる症状がある場合は、普段の様子を思い出しながら以下のチェックリストを確認してみてください。


● ぼーっとしていることが多い
● 話の内容が噛み合わない
● 自分がいる場所を間違える(家なのか病院なのかなど)
● 今日が何月何日かわからない
● 興奮状態になり、怒りっぽくなる
● 実際にはないものが見えている
● 実際にはありえないことを言う
● 昼夜が逆転している
● 夕方~夜間になると症状が激しくなる


これらの項目が当てはまる場合は、せん妄が起きているのかもしれません。


対象の方が65歳以上の高齢者の場合は、お住まいの地域にある「地域包括支援センター」に相談する方法もあります。

また、お住まいの地域にある保健所や精神保健福祉センターに相談することも可能です。事前予約が必要な場合もあるので、電話やホームページで確認してみてください。


せん妄はなぜ起こるのか?

せん妄はひとつの原因により引き起こされるというよりも、①年齢や認知機能など患者さん自身の問題、②環境等の誘発する因子、③病気や薬剤などきっかけとなるもの、それら①~③が複雑に絡み合って発症すると考えられています。


具体的な因子として、


● 加齢
● 認知機能低下
● アルコール多飲
● 病気
● 身体的苦痛(痛み、かゆみ、不眠、便秘など)
● 精神的苦痛(不安、うつなど)
● 感覚の遮断(視力障害、聴力障害)
● 環境(普段と違う場所、明るさ、騒音など)
● 薬の副作用
● 入院・手術


が代表的なものとして挙げられます。いくつかについて詳しく説明します。


加齢、認知機能低下

せん妄はあらゆる年齢でみられる可能性がありますが、高齢者で発症率が高いといわれています。認知機能低下もせん妄のリスクとなります。高齢者では、若年者では影響がない病気や薬の服用によってせん妄が引き起こされる場合もあります。


病気・身体的および精神的な苦痛

せん妄の原因となる病気には、脳血管障害、頭の外傷、肝不全、腎不全、感染症、血糖異常、電解質異常、貧血など多くのものがあります。その他に、痛みやかゆみなどの身体的な苦痛もしくは不安やうつなどの精神的な苦痛もせん妄の誘因となります。


薬剤の副作用

せん妄のリスクとなる薬剤はこれまでに多く報告されています。


それまで内服していて問題がなかった薬でも、加齢により肝臓・腎臓の機能が低下してくると薬の影響が強く出るため、せん妄などの副作用を起こしやすくなります。また、追加で新たに服用する薬との相互作用によりせん妄を引き起こすこともあります。


薬剤を中止した際にもせん妄が起こる場合があります。薬剤によっては、急な中止によりせん妄以外にも危険な症状が出るものがあります。そのため、患者さんサイドで勝手な薬剤中止の判断はせずに、処方医に相談をして安全な薬剤調整をするようにしましょう。


せん妄の原因となりうる代表的な薬には、以下のようなものがあります。


● 睡眠薬
● 抗不安薬
● 麻薬性鎮痛薬
● 抗アレルギー薬
● 抗パーキンソン病薬
● 過活動膀胱・頻尿治療薬


同じ作用のある薬剤(例えば睡眠薬)の間でも、薬の種類により効果や持続時間などに違いがあります。同様にせん妄の起こしやすさも薬剤ごとに異なります。現在服用している薬剤がどのようなものかを医師に説明してもらい、理解しておくことがよいでしょう。


基本的に薬は望ましい効果を期待して処方されますが、その一方で副作用もあることを忘れてはいけません。また、薬の効果や副作用の出やすさには個人差があります。新しい症状が出た場合には、それが薬剤によるものかどうかの確認が必要なため、医師に相談することをおすすめします。


入院(環境の変化)・手術

入院すると環境の変化が精神的な負荷になったり、病室でのアラームやモニター音により不眠になったりすることで、せん妄が引き起こされるリスクが高くなります。


手術をする場合は鎮静剤(眠っているような状態になる薬)の使用や、身体的・精神的に大きな負荷がかかることでよりせん妄のリスクが高くなります。外科手術を受ける高齢者では7割以上でせん妄が生じていたとの報告もあります。参考:(北川雄一;高齢手術患者における術後せん妄,日本外科系連合学会誌 38(1),28-35,2013)


せん妄になりやすい方の特徴

せん妄は、いくつかの誘因が重なり合うことで生じやすくなります。そのため、せん妄になりやすい方の特徴を知っておくと、早期発見や適切な対応につながるでしょう。


せん妄になりやすい方の特徴は以下のとおりです。


● 70歳以上の高齢者
● 頭部の疾患(頭部外傷、脳血管障害など)になったことがある方
● 認知機能が低下している方
● 過去にせん妄になったことがある方
● アルコールを多飲する方
● せん妄リスクのある薬剤を服用している方
● (全身麻酔を要する)手術予定のある方


認知機能の低下については、こちらの記事(あたまの元気度チェック)で調べられます。


アルコールを多飲している方の定義については、次の項目が参考になるでしょう。以下の項目に2つ以上該当する方は、アルコールの離脱によるせん妄のリスクが高い傾向にあります。


● 飲酒量を減らさなければならないと感じたことがある
● 他人から飲酒について非難されたときに、気にさわったことがある
● 自分が飲酒をしている状況について、申し訳ないと感じたことがある
● 落ち着いたり、二日酔いを治したりするために「迎え酒」をしたことがある


せん妄と認知症の違い

落ち着きがなかったり、話が噛み合わなかったりするのは、認知症もしくはせん妄のいずれの場合も考えられます。


認知症は記憶障害などの「中核症状」のほかに、不安、興奮、幻覚、妄想、不眠、過眠、睡眠覚醒リズムの異常、うつ、等の「行動・心理症状(BPSDとも呼ばれます)」が認められることがあります。この「行動・心理症状」はせん妄の症状と似ているため、せん妄との区別が難しいことも多いです。実際に、どちらとも区別ができないまま対応をしなければならないこともあります。


症状は似てはいるものの、せん妄と認知症にはそれぞれの特徴に違いがあります。

せん妄と認知症の違い

認知症と比べ、せん妄の特徴は、発症が急激であること、興奮している状態から反応の鈍い状態まで症状が激しく変動することがあげられます。また、せん妄では病気や薬など原因がはっきりしていることが多く、それらとの時間的な関連が分かりやすいことも特徴です。


認知症の中に「レビー小体型認知症」というタイプがあります。レビー小体型認知症はせん妄の症状である「幻視」や、せん妄の特徴である一日のなかで症状が大きく変動することが特徴とされています。そのため、「アルツハイマー型認知症」などの他の認知症と比べて、よりせん妄との区別が困難となります。


このように、認知症とせん妄にはそれぞれ特徴があるものの、実際にそれらを区別することは難しいことも多いです。対応やケア・治療は、みられている症状の原因がせん妄なのか、認知症なのかで異なります。また、認知症の方がせん妄を発症している場合のように両方の病態が合併しているケースもあります。状況に応じた正しい対応をするために、認知症診療や高齢者医療を専門的に行っている病院を受診することがよいでしょう。


せん妄と認知症の違いについては、見当識障害(日付や場所などがわからなくなる)について記載したこちらの記事(【見当識障害とは】症状や原因、対応法について)もぜひ参考にしてみてください。


せん妄への対応方法

せん妄への対応で最も重要なことは発症を予防することです。発症予防を意識した関わり方をすることが重要です。


対応の第一歩は、患者さんの現状を評価することです。せん妄のリスクとなっているものについて一つ一つ確認していきます。いろいろな要因が複雑に絡み合ってせん妄を発症するため、その評価を行わずにやみくもにアプローチをしても決してうまくいきません。せん妄の誘因には加齢など改善が不可能なものもあります。その一方で、痛みなどの身体的な要因、不安などの精神的な要因、環境などは、介入により改善することが可能です。誘因をひとつずつ、少しずつでも減らすことがせん妄発症の予防になります。


予防を行っても、せん妄の発症を完全に防ぐことは不可能です。せん妄を発症してしまった場合も、悪化を防ぎ、改善をはかるためには、予防のために行ったことを継続することが重要です。


せん妄の根本的な治療は、せん妄の原因と考えられる病気や薬剤などに対して適切なアプローチをすることです。例えば感染症であれば抗菌薬での治療、脱水であれば点滴治療を行います。原因を除去し、体の調子をもとに戻すことでせん妄の改善をはかります。


せん妄の症状が激しい場合など、症状を抑えるための薬剤を一時的に使用することが必要なケースもあります。具体的には抗精神病薬というものを使用することが多いです。しかし、抗精神病薬はせん妄そのものを治すわけではないうえに副作用も強いです。そのため、抗精神病薬の投与は、せん妄の予防および治療には推奨されないという考え方が一般的です。


せん妄の予防と治療のため、具体的に次のような対応をします。


● 生活リズムを整える
● 日光を浴びる
● 痛みなどの身体的な症状の改善
● 精神的な苦痛に対応する
● 環境を整える
● 睡眠をしっかりとる
● 原因疾患の治療、リスクや原因となる薬剤の中止


ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。ご家族で対応可能なものもあるため参考にしてください。


生活リズムを整える

せん妄の予防・改善には、睡眠と覚醒時間のバランスを整えることが大切です。


具体的には、日中は趣味や作業活動を促してベッドから離れた生活をする、日中の活動を促すことで夜に眠りやすくする、時計やカレンダーをよく目につくところに置き、生活リズムを整えられるようにサポートする、見当識障害がある方に対しては、積極的に会話の中に日時など情報を盛り込む、等の対応を行うことがよいでしょう。


日光を浴びる

日光を浴びると睡眠モードがオフになり、活動モードに切り替わります。これは日光を浴びると、メラトニン(睡眠を調節するホルモン)の分泌が抑えられるためです。日光を浴びることでメラトニンの分泌にもメリハリがつき、夜間の睡眠も良好になる可能性があります。日中はカーテンやブラインドを開けて、日光を取り入れるようにしましょう。


痛みなどの身体的な症状の改善

痛みやかゆみ、空腹感などの苦痛や不快に感じる症状はせん妄を引き起こす要因のひとつなので、できるだけ和らげてあげるといいでしょう。症状を和らげるため、鎮痛薬やかゆみ止め、便秘薬などの薬剤を使用することは推奨されます。症状緩和によりせん妄リスクを下げることが期待できます。精神的な苦痛に対しても同様に薬剤が効果的なこともあります。


しかし、薬剤によっては、逆にせん妄リスクとなるものも多く存在するため注意が必要です。安全な薬剤の選択や、メリットとデメリットの判断が求められるため、高齢者の安全な薬物治療に詳しい医師と話し合ったうえで処方してもらうのがよいでしょう。


その他にも、難聴や視覚障害などの感覚が遮断される苦痛・負担はせん妄のリスクです。難聴がある方にはゆっくり大きな声で話しかける、視力低下があればメガネの使用を促すなどの対応が推奨されます。


環境を整える

入院などによる環境の変化は、せん妄の高リスクとなります。そのため、入院前の生活習慣を取り入れるといいでしょう。

具体的な内容は以下のとおりです。


● 好きな服を着る
● 使い慣れた日用品を使用する(布団、クッションなど)
● 家族の写真を置いておく
● 好きな音楽、動画を流す


その他にも、普段の生活に少しでも近づけることで落ち着き、せん妄リスクが軽減すると考えられています。自宅でも病室でも、日中は日の当たるところで生活し、夜になれば薄暗い静かな環境で生活することが望ましいです。一方で、夜間の休息時は、暗くしすぎると転倒や転落のリスクが高まるので、薄明かりが推奨されています。


睡眠をしっかりとる

せん妄予防や発症した際の改善のためには、睡眠をしっかりとり、生活リズムを整えることが基本です。日中は活動的に過ごす、夜は静かな環境で眠ることが重要です。リズムが崩れてしまっているときや、不眠が目立つときには、一時的に睡眠薬を使用して改善をはかることも選択肢です。生活リズムをサポートする作用の睡眠薬もあります。ただし、鎮痛薬やかゆみ止めなどと同様に、睡眠薬の種類によってはせん妄リスクを高めてしまうため、薬剤選択が重要となります。


原因疾患の治療、原因と考えられる薬剤の中止

せん妄に著効する特効薬はありません。せん妄の治療とは、せん妄の原因と考えられる感染症などの身体疾患や、原因と考えられる薬剤の中止が基本となります。


せん妄症状を認めた際には、背後に身体疾患の存在や原因となっている薬剤がないかを確認することが重要です。これらを改善せずに対応をしてもうまくいきません。


場合によっては、せん妄の症状を抑えるために、抗精神病薬と分類される薬剤が使用されることもあります。しかし、抗精神病薬は副作用も強いため、必要でないと判断した場合には速やかに中止することが重要です。


せん妄を疑ったら病院受診をしましょう

これまで述べてきたように、せん妄はさまざまな要因が複雑に絡み合って発症します。対応の基本は、せん妄のリスクを1つ1つ確認し、可能な限りリスクを減らすことです。ご家族で対応が可能なことも多いため実践することが重要でしょう。しかしながら、せん妄の背景には、感染症や脱水のほか、場合によっては脳梗塞などの病気が潜んでいることもあります。これらの病気の評価が必要になるため、せん妄の症状がみられたら、ためらわずに医師に相談することが安全でしょう。


せん妄に対しては、患者さんの認知機能や内服薬の影響を評価すること、感染症や脱水などの身体疾患の評価も含めた広範囲にわたる病態の整理が必要になります。そのうえで、包括的な介入をすることが重要です。


せん妄は症状が強くなればなるほど改善も困難になります。悪化をする前に対応することが重要です。しかしながら、認知症かせん妄かの判断は難しいケースも多く、それぞれ適切な対応は異なるため、患者さんの様子がおかしい時にはどのようにすればよいか迷うことも多いでしょう。


家族や周囲の方にせん妄と思われる症状がみられる場合は、高齢者を専門に診療を行っている医療機関(老年内科、高齢者総合内科もしくは精神科や脳神経内科)の受診をし、現状の理解と適切な対応についての情報を入手し、今後よりよい生活を送るためのアドバイスをもらうのがよいでしょう。

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