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対談をする丹野智文氏と鎌田松代氏
2024.12.13

認知症当事者と支援者が語る、これからの共生社会【丹野智文氏・鎌田松代氏 対談】

認知症の診断は、ご本人にもご家族にも大きな衝撃をもたらします。支援する側・される側という関係のなかで、両者にとってより良い付き合い方をしていくためにはどうすればよいか、悩む方も多くいらっしゃいます。


今回は認知症当事者の丹野智文さんと、公益財団法人「認知症の人と家族の会」代表理事の鎌田松代さんをお招きし、異なる立場から認知症と向き合う二人に、これからの時代に必要な支援のあり方や目指すべき共生社会の姿をお話いただきました。


丹野 智文
宮城県仙台市在住。2013年、38歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断される。診断後仙台市内の自動車販売会社で就労を継続。同時に、認知症当事者として認知症関連の啓蒙活動や、認知症当事者が元気になるための企画、仕組みづくりに取り組む。2023年には自身の半生を描いた映画「オレンジ・ランプ」が公開された。
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鎌田 松代
公益社団法人認知症の人と家族の会代表理事。看護師として滋賀医科大医学部付属病院や特別養護老人ホームなどで勤務し、義父の介護を期に介護離職し、その後父母の認知症介護も行う。1990年に家族の会に入会。2019年に事務局長就任を経て、2023年6月に代表理事就任。
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目次
・認知症になっても、工夫次第で変わらない生活ができる
・失敗から生まれた工夫が自信につながる
・今を一生懸命生きることが認知症の備えになる
・「認知症になっても安心できる社会」、「安心して認知症になれる社会」を作る


認知症になっても、工夫次第で変わらない生活ができる

話をする丹野氏

丹野 智文 氏(以下、丹野):私が認知症と診断されたのが2013年。最初の頃は本当に大変で、1人になると不安と恐怖で涙が出るような日々でした。心が折れそうでしたが、幸いにも仙台の会社に戻って働かせてもらえたことと、鎌田さんが代表理事を務める公益財団法人「認知症の人と家族の会」との出会いもあり、徐々に生きる力を取り戻していきました。


鎌田 松代 氏(以下、鎌田):「家族の会」は1980年1月に京都で結成され、今年で44年目を迎えます。家族の会ができた当初は認知症への関心も低く、社会の支援体制も現在とは違うものでした。認知症と診断されたあとは、医師から「後は家族で頑張ってください」と言われることも……。


丹野:私が11年前に診断を受けたときも、役所や地域包括支援センターに行っても「会社を辞めてデイサービスに行ったらどうですか」としか言われなかったんです。介護保険が使えるという話もされましたが、私が欲しかった情報は介護保険のことではなく、どのようにすれば今までの生活を続けられるのかということ。


私には子どもがいます。この子たちを育てていかなければいけないのに、生活をどう続けていけばいいのか、誰も教えてくれませんでした。そんなときに「認知症と家族の会」に出会い、私の悩みを共感してくれてとてもほっとしました。


鎌田:私たちの電話相談の窓口には、軽度認知障害(MCI)の方や診断を受けたばかりの方から「これからどうしたらいいですか」という相談が増えています。今はいかに自立した生活を長く続けられるかが重要です。私たちも丹野さんに、日々の生活でITを使ってどのような工夫をしているのかを教わる研修会をしていただいたこともあります。


丹野:昔は、情報が少なく、ご家族もご本人も大変な思いをしていました。でも、今はIT技術が発達しており、私の脳の一部になってくれています。もし、みなさんが認知症と向き合うことになったとき必要なのは、このような新しい工夫や情報を取り入れることだと思います。


【丹野さんのIT活用例】
1.携帯電話の活用例
・起床時間、外出時間、講演時間など、アラームに予定内容を入れる
・「出かける時間だよ」「パソコン持ってってね」など、優しい言葉で入力することで嫌な気持ちにならない

2.外出時の工夫
・電車乗り換えアプリの使用
・Googleマップで道案内
・LINEビデオ通話で場所を伝達
・道に迷ったとき、映像で周囲を見せて場所を特定

3.その他、日常生活での活用
・カレンダーアプリでスケジュール管理
・SNSでの情報収集と発信
・メッセンジャーでの相談対応


携帯電話があれば道に迷うこともないですし、予定管理もできます。認知症の進行を止めるのは現代では難しいですが、ITを活用して工夫することで認知症と上手く付き合うこともできるのです。


失敗してもいい。失敗から生まれた工夫が自信につながる

丹野:今までは、認知症の方へのサポートは、ご家族や支援者が先回りをして、失敗させないようにすることが多かったんです。でも、失敗しなければ成功体験も生まれません。成功体験がないから工夫もしない。工夫しないからまた失敗してしまい、どんどん自信を失くしてしまうんです。私も失敗ばかりですよ。


鎌田:具体的にはどんな失敗がありましたか?


丹野:この間は、2泊3日の出張で靴下を6足も入れたのに、下着を入れ忘れたんです。往復切符を買ったことを忘れてもう一度買ってしまったこともありました。


でも、こういう失敗を後から笑い話にできればいいかなと思っています。そのためには家族の声がけが大事で、ご本人の気持ちも全然変わります。例えば朝にコーヒーを淹れたとき、ちょっと違うことを考えていたら自分で淹れたのか、妻が淹れてくれたのか忘れちゃうんですよ。そこに妻が来たので「コーヒー入れてくれてありがとう」って言ったら、「いいよ、いいよ」と笑ってくれるんです。


鎌田:失敗をさりげなく共有しながら、コミュニケーションが生まれているんですね。


丹野:家族であれば、このようなときに「どうして自分で淹れたのに忘れてるの?」と言ってしまうこともあると思います。骨折した人に「走れ」と言う人はいないですが、認知症の方に「忘れないで」と言ってしまうことは意外と多いんです。そうするとご本人も自信を失ってしまいます。


鎌田:家族や周囲との会話が、認知症の本人の“能力を奪っている”可能性があるんですね。


丹野:あとは、自分で選んで決めることも、大切です。たとえば私が首から下げているネックストラップ一つとっても、ご家族や支援者が買ってきてしまうと、記憶に残りづらい。自分で選んで、自分で決めたものだからこそ、記憶に残る。周りが全部決めて、先に動いてしまうと、徐々にご本人が決めることを諦めてしまうんです。

話をする鎌田氏

鎌田:つい、家族が先周りして動きたくなる気持ちは、私もよくわかります。それは周りの人に自分の家族を悪く言われたくないというかばう気持ちや、社会の認知症への誤解や偏見から守りたいと思うのです。


今はそのような状況も少しずつ変わろうとしています。認知症基本法ができて、国民の責務として認知症という病気と認知症の人への理解を深めることが明記されました。行政が大きな方針を立てることにはなると思いますが、やがて市町村レベルまで浸透していけば、世間の理解も進んでくるのではないでしょうか。


今を一生懸命生きることが認知症の備えになる

丹野:国民一人ひとりが理解することは、とても重要です。私は、認知症になった当初、妻と一緒に役所を訪れたことがあります。そのときの担当者は、私ではなく、妻に名刺を渡して、あれこれ説明をするんです。私に関する話をしていて、目の前に本人がいるのに、なぜ私に説明しないのかと思いました。


鎌田:専門職の人達のなかには、中程度重度の認知症の人と接する機会が多いためか「認知症の人は、わからない人」との思い込みを抱いている人がいます。そのため、家族に目を向けてしまうことがあるように思います。


これから認知症の方と向き合うときがあれば、本人とまず向き合ってください。家族とばかり話しをされると、本人は「何もわからない人」と思われていると落ち込んでしまいます。

対談をする丹野氏と鎌田氏

丹野:他にも認知症の方と向き合うにあたって、周囲が気を付けるべき大切なことが3つあると思っています。


1つ目は「なんでも禁止してしまう」こと。携帯電話を使うことや外出を家族が止めると、本人は申し訳ない気持ちになり、いずれすべてを諦めてしまうようになります。

2つ目は「周囲の優しさ」です。自分で決めることを応援してあげないと、ご本人たちが諦めてしまいます。最初は楽な気持ちになりますが、ご家族や支援者がいなくなると不安になり、依存してしまうんです。

3つ目は「ご家族だけで支えないでほしい」ということ。認知症を発症した当初、私は家族に自分が不安なことや困っていることの本音が言えませんでした。「迷惑をかけてしまうな……」と自己嫌悪に陥ってしまうんです。でも、私には全国にたくさんの仲間がいて、その仲間には話せる。だから家族に対しても普通でいられるんです。


鎌田:実際に「家族の会」の本人会員さんのなかにも、病院に行って認知症の診断を受けたのに、家族には言い出せなかった方もいました。本人もショックですが、家族も同じくらいショックを受けてしまいますから、本人と家族それぞれに仲間が必要なんですよね。


丹野:認知症は、誰もが発症する可能性があり、決して他人事ではありません。だからこそ、日頃から認知症に備えて生活をしてください。例えば地震や台風は突然やってきます。自然災害は止められないけど、食料を準備したり、避難所を確認したりと備えることはできますよね。認知症も同じです。


そして、今を一生懸命に生きてください。今、携帯電話を使える人はどんどん使ってください。認知症になってから覚えようとしても難しくなります。また、今つながりのある友達や夫婦と仲良くしていないと、認知症になったときに支えてくれる人がいなくなるかもしれません。認知症になったとしても諦めずに生きていくためには、今を大切することが備えになるんです。


「認知症になっても安心できる社会」、「安心して認知症になれる社会」を作る

対談をする丹野氏と鎌田氏

丹野:認知症は特別な病気ではありません。誰にとっても身近なものであるからこそ、みなさんが「自分が安心して認知症になれる社会」を作ることが大切です。


「認知症になっても」というと、認知症になった人とならない人を区別するような印象を受けます。そうではなく、ここにいる全員が、自分が認知症になったときに、住んでいる街がどうあってほしいのか、周りの人にどのように関わってほしいのか、それを今から考えておくことが大切なんです。


鎌田家族の会の理念は「認知症になっても安心して暮らせる社会」ですが、丹野さんがおっしゃるとおり「安心して認知症になれる社会」という両方が大切だと思います。


認知症の診断を受けてショックを受けるのは本人も家族も同じで、そこから家族の新たな人生を再構築していくんです。本人は、認知症になっても一生懸命自分のできることを探して頑張っている。決して「もう駄目だから助けて」とは言わず、その都度できることを真摯に取り組む姿に、人としての素晴らしさを見出しているように感じます。それは家族にとっても、人として成長するきっかけになるんですね。私も振り返ればそうだったなと思いますし、そういう人生を生きたいです。

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