{{ header }}
{{ body }}
スキップ
インタビューに答える「認知症の人と家族の会」代表 鎌田松代さん
2023.08.04

「認知症の人と家族会」新代表インタビュー(後編) 認知症を「自分事」に 手を差し伸べ合う社会を作っていく

2023年6月に「認知症の人と家族の会」の新代表に就任した鎌田松代さん(以下、鎌田さん)。同時期に『認知症基本法』が成立し、社会が変わろうとしているタイミングに、同団体は新しいスタートを切りました。


本インタビューでは、社会における認知症の変化、「認知症の人と家族の会」の今後の展望についてお話を伺いました。

(前編はこちら


認知症の人と家族の会

代表 鎌田松代さん

佐賀市生まれ。看護師として滋賀医科大医学部付属病院や特別養護老人ホームなどで勤務。1990年代に「認知症の人と家族の会」に出会い、2019年に事務局長就任し、2023年6月からは代表理事を務めている。

https://www.alzheimer.or.jp/


目次
・「何もわからない人」ではない 認知症へのイメージの変化
・「自分事」として考えることが街や社会を変えるきっかけになる
・当事者の視点を大切に 認知症の人が安心して暮せる社会へ


「何もわからない人」ではない 認知症へのイメージの変化


――認知症に対する社会のイメージは、ここ20、30年で大きく変わってきています。鎌田さんが初めて認知症の方の看護をされたのは、いつ頃ですか。

私が在宅分野の看護に関わるようになったときなので、今から20年以上前ですね。ボランティアをしていた宅老所(高齢者向けに介護サービスを提供している小規模な施設)は認知症の人ばかりでしたし、デイサービスにも認知症の方は多くいらっしゃいました。特別養護老人ホームに勤めていたときは、約50人のご入居者さんのうち8~9割は認知症の方でした。


ただ、認知症という言葉が使われるようになったのは2004年から。それまでは「痴呆」と呼ばれていました。認知症の人は何もわからない、言葉も通じない、と考えられていた時代。だから、ケアがうまくいかず、気持ちがすれ違うようなことも多々ありました。今でこそ認知症の人の思いを尊重し、その人の立場に立ってケアを行う「パーソン・センタード・ケア」の考えが浸透していますが、当時は認知症についてほとんど理解されていませんでした。


――ケアの現場はどのような状況だったのでしょうか。

今はなくなりましたが、身体拘束が当たり前のようにされていました。そうした背景を受けて、「認知症の人と家族の会」では、病院での認知症の人に対する身体拘束の実態調査を行ったことがあります。調査によって、身体拘束は人権を侵害するものであると同時に、心身が衰弱してしまう原因であることも報告されています。その調査報告書が一つのルールの基盤となり、現在のようなケアの仕方に変わっていきました。また、国をあげて「身体拘束ゼロ作戦」が展開されたことも、認知症の人たちに対するケアの改善につながりました。


――認知症についての理解が進んだのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

大きく変わったのは、2004年に京都で開催された国際アルツハイマー病協会の国際会議のときです。若年性認知症の越智俊二さんが、ご自身の言葉でスピーチをしたことで、認知症のイメージを変えるきっかけになりました。また同じ時期に、「認知症の人と家族の会」が、全国初となる家族の思いについての調査を実施したことも、認知症を理解するための一助になっています。


――調査ではどんなことがわかったのでしょうか。

認知症の人がどんなことを考えているのか、ご本人やご家族からのお話で明らかになりました。認知症の人は何も考えていないわけではない、考えていることが言葉でうまく表現できないだけだとわかったのです。認知症の人の多くは「周りに迷惑をかけてしまっている」という思いを持っていらっしゃることもわかりました。そうした調査の結果は、後に書籍『痴呆の人の思い、家族の思い』として出版されています。


私自身、調査によって認知症の人やご家族の思いを知ったときには、衝撃を受けました。「もしかしたら良かれと思って、一方的なケアをしてしまっていたのではないだろうか」と反省もしました。認知症の人たちは決して「何もわからない人たち」ではない。そう考えが変わったことが、できるだけご本人の思いを尊重し、やりたいことができるようにしたいという現在のケアにつながっています。


「自分事」として考えることが街や社会を変えるきっかけになる

――「認知症の人と家族の会」の代表に就任されて、改めて認知症についてどのようなことを考えていらっしゃいますか。

自分が認知症の両親の介護を経験したことに加えて、理事の皆さんと一緒に会の方向性を話し合うようになったことで、より認知症を「自分事」として考えるようになりました。今まではどちらかというとサポートする側にいましたが、自分が認知症になった親の年齢に近付くにつれて、「次は自分の番かもしれない」という思いも生まれつつあります。そういった意味でも「自分事」です。たとえ認知症になっても安心して暮らせる社会にしていきたい、という気持ちはこれまで以上に強くなりました。


――安心して暮らせる社会とは、具体的にどんなイメージですか。

認知症がどんな病気なのかが理解されている社会ですね。何かおかしなことをしていても奇異な目で見られるのではなく、認知症によってそうした行動が出ているだけだとわかってもらえる。たとえば、発達障害の人たちは、何かを訴えたいときに大きな声を上げることがありますが、私たちがそうした情報を知っていれば、驚くことはありません。それと同じように、人々の認知症に対する理解が進めば、もっと認知症の人たちは暮らしやすくなるはずです。


そのために重要なのが、認知症を「自分事」としてとらえてもらうこと。自分の親が認知症になるかもしれない、自分もいつかなるかもしれない。そう考えれば、街中で困っている人がいたときに「声をかけてあげよう」という気持ちになりますよね。まずは「自分事」として考えるところから、社会は変わっていくのではないでしょうか。


――たしかに「自分事」としてとらえるのは大事ですね。認知症について知らなければ、周りに認知症の人がいてもどう接したら良いのかわからない、ということもありそうです。

認知症の人たちの行動によって、周囲の人たちの理解が進むきっかけになることもあります。私が交流会で知り合った女性で、認知症になっても上手に周りの皆さんと交流されている方がいました。

彼女に初めてお会いしたときに、一緒にお弁当を食べていたら「私はお弁当の中身が全然見えないんですよ。何が入っているのか教えてもらえますか?」と言われたんです。認知症の症状で、目は見えるけれども、物を認識できなくなることがあります。彼女もその症状があり、おかずの一つ一つが認識できなかったのでしょう。はたから見ただけでは、お話も普通にできますし、何かに困っているとは気付かれないかもしれません。でも、私にそうして伝えてくれたことで、私は彼女をお手伝いすることができました。


彼女は認知症になるまでPTA活動を一生懸命されてきて、今でもその友人たちが家に来ては、できないことをサポートしてくれるそうです。「認知症になってしまったから」といって離れていくのではなく、「自分に何かできることはないか」と考えて行動してくれる。そんな人たちが周りにいれば、誰でも安心して暮らせますよね。


――認知症になっても、それまでの関係性を続けられるのは嬉しいですよね。

私はそれを個々のつながりだけでなく、街づくりとして取り組んでいけたらと考えています。私が住んでいるのは、いわゆるニュータウンと呼ばれるエリアで、70~80代の方たちが多くいらっしゃいます。そうした高齢者の多い住宅街では、認知症の問題は身近にあります。


最近も、近所に住む友人から「知り合いが認知症のようなのだけど、どうしたらいいと思う?」と相談されました。どうやらその方は、友人のところに朝早く訪ねてきたり、道に迷ったりするなど、「ちょっと様子がおかしいな」と、周囲の人たちから心配されていたそうなのです。


――心配はあったものの、どう関われば良いのかわからないと。

そうなんです。それで、地域包括支援センターに連絡を取ってみたところ、すでに娘さんからも相談があったことがわかりました。ご近所の人たちにとっては、すでにご家族が対応されているとわかっただけでも安心ですよね。その後、娘さんはご近所の心配していた人たちに手紙を書き、今、お母さまがどんな状態で、どんなサービスを受けているのかを伝えたそうです。「もし道に迷っていたら声をかけてください」ということも書かれていたといいます。


――ご近所の皆さんで見守っていかれるのですね。

それを聞いて、私が目指すのは「これだ」と思いました。ご家族やご近所の皆さんがいっしょになって、認知症の方を見守っていくような街が作れたらいいなと。周囲の方たちは、認知症の人にどう接したら良いのかわからなかっただけで、実際には「できることがあれば手助けしたい」と思っている人はたくさんいるのです。その思いを、ご本人やご家族につなげられれば、手を差し伸べることもできます。


どんなに気を付けていても、誰しもが認知症になる可能性があります。それならば、親や自分がなっても安心して暮らせるように、社会や街を変えていくことが必要なのではないでしょうか。認知症を他人事ではなく、「自分事」として引き寄せて関心を持ってもらえたら、そんな社会や街を作っていけるのではないかと思います。


当事者の視点を大切に 認知症の人が安心して暮せる社会へ

インタビューに答える「認知症の人と家族の会」代表 鎌田松代さん

――2023年6月に成立した認知症基本法にもつながるお話ですね。

そうですね。認知症基本法でも、認知症の人が「社会の一員として尊重される」と位置付けられています。これまで「認知症の人は何もわからない」「認知症になったらおしまいだ」という誤った認識で、偏見や差別を受けられてきた方も少なくありません。基本法が成立したことで、認知症の人たちが「一人の人」として生きていけるようになるのを期待しています。


今後は、いかに自分が住んでいる街で、認知症の人たちに優しい社会を作っていくかを考えることが重要です。そのためには当事者の声を聞きながら進めていくことが欠かせません。行政が一方的に進めるのではなく、当事者の参画型で決める。当事者の目線と、歩調に合わせるようにして、一緒に作り上げていってほしいと思います。


――私たちが、認知症の人たちに関われるような機会はありますか。

認知症カフェやボランティア活動などで、当事者の方たちと接することができます。京都市内にも認知症の方たちが集まって活動をされている場はたくさんあります。同じ場所で一緒に過ごすことで、認知症の人やご家族の思いに触れることができる。それが、認知症を理解することにもつながります。


――最後に、「認知症の人と家族の会」の展望をお聞かせください。

自治体との連携は、それぞれの都道府県にある支部が中心となって進めています。そうした支部の活動をサポートしていくのが、私たち本部の役割です。そのために時には国に働きかけていくことも必要だと考えています。また、会員の方たちの交流も積極的に支援していきたいです。コロナ禍ではオンラインでの交流会も開催しました。今は働きながらご家族の介護をされている方も多いので、昼間だけでなく、夜に会員さん同士が話せるような機会も作れればと考えています。


当事者のリアルな体験を聞いて、「自分も頑張ろう」と思える。同じ立場の仲間たちが励まし合い、助け合うことが、「認知症の人と家族の会」の原点でもあります。そうした活動の原点は、現在の状況に合わせて発展させながら、これからも大事に受け継いでいきたいと思っています。


文/安藤 梢 取材・構成・撮影/SOMPO笑顔倶楽部



関連記事

・「認知症の人と家族会」新代表インタビュー(前編) 鎌田松代さんと認知症の歩み

・【認知症の人と家族の会 鈴木代表理事 インタビュー】 「家族介護者を孤立させない」コロナ禍で見えてきた可能性と忘れたくないもの

・認知症になっても安心して暮らせる社会を目指して〜認知症の人と家族の会代表インタビュー

楽しく、あたまの元気度チェック(認知機能チェック)をしましょう

あたまの元気度チェックへ

メール会員のおもな特典

メール会員には、「あたまの元気度チェックの結果記録」に加え、以下のような特典があります。

身長や体重・運動習慣等を入力するだけで、将来の認知機能低下リスクをスコア化できます。

認知症や介護に関する最新のニュースやお役立ち情報を月2回程度お知らせします。

関連記事

  • 認知症知識・最新情報
  • 「認知症の人と家族会」新代表インタビュー(後編) 認知症を「自分事」に 手を差し伸べ合う社会を作っていく