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3丁目バンドの出演者の集合写真
2023.10.20

「認知症があっても ええやん!」「皆で支えあったら ええねん!」 “音楽”をきっかけに、認知症と社会が繋がる場所

2023年9月某日、横浜市のたまプラーザ駅近くにある「3丁目カフェ」で、ある音楽イベントが開催されました。明るいオレンジ色の洋服を着た人たちが集い、ある人は仲間と談笑をし、ある人は楽器の手入れをしながら緊張した面持ちで出番を待つ。


そこは、認知症の人も、そうでない人も、みんなが集う場所。街のカフェで行われる音楽イベントに、認知症と社会が繋がるヒントが隠されていました。


目次
・合言葉は「認知症があっても ええやん!」「皆で支えあったら ええねん!」
・“ごちゃ混ぜ”だからこそ、共感が生まれる
・集う人、奏でる人の思い
・主催者の思い~助けを求めることができない社会を変えたい~


合言葉は「認知症があっても ええやん!」「皆で支えあったら ええねん!」

3丁目バンドのライブの様子

「3丁目バンド SPECIAL LIVE(以下、3丁目バンド)」と題した本イベントは、認知症がある人・ない人のごちゃ混ぜで結成されたバンドが演奏する音楽イベントです。メンバーの年齢も境遇も音楽経験もさまざま。


このイベントに参加している人たちに共通しているのは、「認知症があっても、ええやん!」「皆で支えあったら、ええねん!」という思いに共感していること。そしてなにより、音楽が好きという思いを持っています。


イベントは、メイン会場である3丁目カフェに加え、日本全国のサテライト会場や自宅からも観客が参加。第2回目を迎える今回、認知症当事者はもちろん、医療、介護従事者や家族介護者、地域の方を含め、総勢100名以上の観客が集まりました。


“ごちゃ混ぜ”だからこそ、共感が生まれる

本イベントは、日本全国の認知症の当事者からリクエスト曲を受け付け、その曲を3丁目バンドが演奏するというスタイルで行われました。

3丁目バンドのライブの様子

若かりし頃によく聞いていた曲、落ち込んだときに元気を与えてくれる曲、認知症と診断された時に勇気をもらった曲など、当事者の方々の思いが込められた曲をみんなで共有していました。

ゲストの「町田Dバンド」

ゲストの「町田Dバンド」
3丁目バンドのライブの様子

7組のゲストバンドも参加し、中には、自らがリクエストした曲を歌い、その思いを伝えた当事者もいました。現地の観客の方たちは、手拍子をしたり、一緒に口ずさんだり、自分の思いと重なり涙したり……出演者と一体となって楽しんでいる様子が見られました。


年齢も性別も地域も、いろいろなものがごちゃ混ぜな状況ながら、生まれる一体感。それは、集まる皆が認知症のあるなしに関係なく、純粋に音楽を楽しんでいるからこそ生まれるものなのです。


集う人、奏でる人の思い

「3丁目バンド」に出演する方々は、どんな思いでこのイベントに参加しているのか。出演者の声を聞いてみました。

3丁目バンドのライブの様子

(写真左)菅生和正さん

菅生和正さん

私の母は認知症でした。父が介護をしていましたが、2人とも外に出ることはほとんどなく、自宅内で過ごしていることが多かったですね。結果、母の認知症は悪化し、父も介護の負担で体調を崩してしまう……。当時は、地域における認知症の活動も少なく、当時者が外に出て人と繋がる場がほとんどありませんでした。


そんな2人の姿がずっと頭の中に残っていました。


その後、私はある人に誘われて、この「3丁目バンド」に参加することに。この活動を通じて、認知症の人もそうでない人も、音楽を通じて一緒に楽しむ姿を見てきました。私自身も、人との繋がりがどんどん広がり、新しい世界が広がっていくことを感じでいます。今あらためて、“認知症と社会が繋がる”ことの大切さを実感しています。

(中央)山中しのぶさん、(中央右)佐野智美さん

佐野智美さん

私は認知症ケア専門士で、現在は、義理の両親を在宅で介護をしています。今回、高知家希望大使として活動する山中しのぶさんの応援のためコーラスで出演しました。山中さんとは、オンラインで知り合い、今日はじめてリアルで会いました。


コロナ禍で人と会う機会は減りましたが、オンラインでは気軽に繋がることができます。会ったことがなくても、会話を重ねることで、お互いの理解が深まり、繋がりが強くなることを感じました。結果、私と山中さんは、共通の思いを感じて、この場で出会うことができました。「音楽が好き」という共通した思いを持つこと。そして、みんなで分かち合うことの大切さを感じました。


山中しのぶさん

今回、私は高知県から参加させて頂きました。去年は、オンラインで参加させて頂きましたが、今年は絶対に会場で参加したいと思っていたので、とても嬉しかったです。出演者のみなさんが、ご自身の時間の合間に練習を重ねていた努力を知っていたので、本番はとても感動しました。会場では、認知症がある・なしに関係なく仲間の絆を肌で感じました。


新潟の佐野ちゃんとも一緒に歌えて良かったです。コリスライブの中田亮くんにも逢えて感激でした。来年も参加したいなぁと思ってます。運営のみなさん、本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。

(中央)さとうみきさん

さとうみきさん

私は、去年の第1回目のイベントでは観客として参加しました。このようなイベントでは、出演する方々に対して「認知症の誰々さん」という紹介をされる場面などをよく見てきました。でも、「3丁目バンド」では、そのような“肩書”にとらわれず、みんながごちゃ混ぜでステージに上がって音楽を楽しんでいる。認知症あるなし関係なく、みんなが当たり前に音楽を楽しんでいる。これこそがあるべき姿だなと感じました。


気付いたら私もステージに上がっていましたね(笑)。


音楽の力ってすごいなって思います。たとえ、認知症が進行し、会話することが難しくなった方でも、音楽が流れると自然と口ずさんだり、リズムを刻むことがあります。記憶に刻まれている感情や心が動くんですよね。認知症があるなしに関わらず、みんなが一緒に楽しむことができる。今回のイベントで、改めて実感しました。



主催者の思い~助けを求めることができない社会を変えたい~

『たまプラーザ・みまもりあいプロジェクト~やさしさのエネルギーチャージ~』 
(左)副代表_弘瀨 美加さん、(右)代表_小松礼次郎さん

本イベントは、『たまプラーザ・みまもりあいプロジェクト~やさしさのエネルギーチャージ~』が主催したものです。同団体の副代表である弘瀨さんにお話しを伺いました。


――『たまプラーザ・みまもりあいプロジェクト~やさしさのエネルギーチャージ~』がスタートしたきっかけを教えてください。

私は、20代のころに在宅介護の経験があります。当時は、今よりもっと認知症に対する偏見も大きく、現在のように地域包括などの相談をするところもありませんでした。そして、自分自身も認知症に対する知識もなかったことから、介護に対する悩みや不安を常に感じていたけれど誰も言えず、助けを求めたくても、誰にも頼れない状態でした。ただ辛いだけで、どうしていいかわからず、一人で抱え込んでいたのです。


その頃から、随分と月日が経ったけれど、「今もあの頃の私と同じ思いをしている人は、まだ、沢山いらっしゃる……」と、社会の課題を感じました。


――自身の経験が活動の原点になっているんですね。

はい。そこで、地域でゆるやかに繋がる関係性ができれば、悩みや不安を抱えている人が助けを求めやすくなる。そうすることで、見守り合える街になる。そんな思いで、2019年、“誰もが見守り合えるまちづくり”を目指して『たまプラーザ・みまもりあいプロジェクト~やさしさのエネルギーチャージ~』がスタートしました。


――なぜ、まちづくりに目を向けたのでしょうか?

かつては、地域社会のなかで近所の人同士の繋がりは強かったと思います。今は、核家族化が進み個人を大切にするようになったことから、地域における人と人のつながりの希薄化も進んで、近くにいても繋がりづらい世の中になっています。困ったことがあっても、地域の人にSOSを発しづらいこともあるのではないでしょうか。


そんななかで、困った時に助けを求めるには、自分を取り巻く環境も大切なもののひとつだと思います。地域の住民がお互いさまと互いに助け合う「互助」の気持ちを持って、SOSを発しやすい、助けを求めやすい環境をつくることが重要なのです。そうすると、介護をする人、される人の負担も軽減され、自立した地域社会ができると思いました。


――『たまプラーザ・みまもりあいプロジェクト~やさしさのエネルギーチャージ~』の結成に伴い、具体的にどんな活動をはじめたのでしょうか?

“誰もが見守り合える”まちづくりとして、まず、社会の大きな課題である「認知症」の理解を広めることからはじめました。社会のなかで認知症に対する理解はまだまだ広まっておらず、「認知症になったら人生が終わってしまう……」と思っている方もいらっしゃいます。そこで、どうしたら関心のない人にも認知症のことについて関心を持ってもらえるか。いろいろな人たちと議論をしました。


――認知症の啓発活動からスタートしたんですね。

議論を重ねるなかで、まだまだ偏見がある中で、“認知症についての理解を”と真正面から伝えても、関心のない方には響かないのではないかという意見がでました。そこで、自らも楽しみながら、自然に認知症を理解するきっかけが作れないか、ということから着いた答えが“音楽(バンド)”でした。


音楽(バンド)は、複数の人で一つの曲を演奏します。


たとえ誰かが音を間違えても、他の仲間がフォローし音が重なり合うことで、メロディーを奏でることができる。それに、音楽は聴く人もいる。奏でる人と聴く人が1つの曲を共有することで、繋がり合うことができるのです。結果、今の「3丁目バンド」の活動がスタートしました。


――どのように広がっていったのでしょうか?

2022年の年始からメンバーの募集をはじめ、5名からスタート。その後、認知症のある方々などが「自分もやりたい!」と手を挙げてくれメンバーが増えていき、2022年9月には、第1回目の「3丁目バンド」のライブを実施し、2回目となる今回は、更にお手伝いがしたいという、認知症のある方や介護家族、企業なども集まりました。


活動をしているなかで、バンドメンバーやゲスト出演する方の家族が見に来てくれたり、地域の方の参加も増えていきました。オンラインで参加される方も増え、遠方の介護施設にいる方も楽しんでくださっています。


――なぜここまで広がったと思いますか?

みんなが一緒に楽しめるからではないでしょうか。

参加を強制されているわけはない。

しょうがなく参加しているわけではない。


みなさんが、知症のあるなしに関係なく一緒に心から楽しみたいと思って参加しているので、その思いが繋がり、広がっているのだと思います。


――昨今、認知症との共生社会の実現が叫ばれていますが、一人ひとりの人がどんな意識を持つことが大切だと思いますか?

私自身、介護の経験から認知症のことを学ぶ中で、たくさんの認知症当事者と関わってきました。介護をしていた頃は、今思うと認知症についてわかっていなかった。だからこそ、悩み苦しむことがあったのです。


でも、これまでの学びや活動の中で、認知症の症状は十人十色で、サポートして欲しいことも一人ひとり違っているという事を学びました。なので、“認知症のある人”ではなく、“一人の人”として接し、その方を知ることが大切だと思います。認知症のあるなしに関係なく、仲間として、友人として、何か特別なことをしなくても、自分の出来ることで、互いが自然にサポートすることが出来ていくのではないでしょうか。




取材・文/SOMPO笑顔倶楽部



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