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2023.03.31

廃用症候群とは?原因や症状・日常的に取り入れたい予防方法を解説

「風邪で数日寝込んだ後に体のだるさや疲れやすさを感じる」

「ギプスで固定した骨折した部位が、ギプスを外した後に動かしにくくなる」


このような経験をしたことはありませんか?これらは廃用症候群による症状の可能性があります。廃用症候群という言葉を初めて聞いた人にとっては、どのような病気なのか、何が原因なのかがわからないと不安になるかもしれません。そこで本記事では、廃用症候群の定義や症状、原因、予防策について詳しく解説します。誰にでも起こり得る障害ですが、とくに筋力や臓器の機能が低下している高齢者が陥りやすいといわれています。体力の低下など気になる症状がある人は、ぜひ最後までご覧ください。


目次
・廃用症候群とはどのような状態か
・廃用症候群で表れる症状とは
・廃用症候群の原因とは?
・廃用症候群の予防・重症化を防ぐために取り組みたいこと
・まとめ

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【監修】医療法人ミチラテス 理事長 ファミリークリニックあざみ野 院長 石井道人 先生
北里大学医学部卒。東京都立多摩総合医療センターで救急医療、総合診療を学ぶ。2013年より北海道・喜茂別町で唯一の医療機関、喜茂別町立クリニックに管理者として赴任。乳幼児健診から看取りまで、町民二千人の健康管理を担う。2020年神奈川県横浜市にて開業。日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医、日本救急医学会認定救急科専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定認知症サポート医、キッズガーデンプレップスクール嘱託医。

廃用症候群とはどのような状態か

まず、廃用症候群の具体的な状態や発症しやすい人の特徴などについて解説します。また廃用症候群と似ている「フレイル」や「サルコペニア」とどのように違うのかにも詳しく見ていきましょう。


廃用症候群は長期間の過度な安静から起こる多様な症状

廃用症候群とは長期間の過度な安静により引き起こされる、多様な症状の総称です。活動の低下が原因で生じることから「生活不活発病」とも呼ばれます。廃用症候群はとくに高齢者や、慢性疾患を抱えている人に表れやすいですが、活動量が低下すれば誰でも引き起こすリスクがあります。例えば、風邪で数日間寝込んだ後、「疲れやすい」「体を動かしにくい」などの症状は、廃用症候群の可能性が考えられるでしょう。


また、廃用症候群と似た言葉に、「サルコペニア」や「フレイル」が挙げられます。サルコペニアは加齢や病気に起因する筋肉量の減少や筋力の低下を指し、フレイルは加齢による身体機能や認知機能の低下を表す言葉です。廃用症候群はフレイルやサルコペニアを招く要因にもなるため、予防することが何よりも重要となるのです。

フレイルやサルコペニアについての詳細は、こちらの記事(フレイルとは? 症状や予防法、チェック基準をわかりやすく解説)で紹介しています。


廃用症候群は診断が難しい

廃用症候群に明確な診断基準はありません。全身にさまざまな症状が表れ、原因となる疾患が多岐にわたるため、多面的に判断することが重要なのです。例えば、病気やケガによって安静にしなければならない時間が長くなり、以前は問題なくできていた活動ができなくなった場合は、廃用症候群による筋萎縮を発症している可能性が考えられます。近況をよく知る人からの情報が、診断する際に参考になることもあります。適切な治療につなげるためには医師による診察だけでなく、家族が気にかけておくことも大切です。


廃用症候群で表れる症状とは

廃用症候群によって引き起こされる症状は多岐にわたります。筋萎縮や関節拘縮(こうしゅく)など体の一部に表れるものや、うつ状態や知的活動低下など精神や神経の働きに起こるもの、さらには心肺機能低下や起立性低血圧などの全身に影響するものまであります。表れる症状は人によって異なるところも、廃用症候群の特徴です。

今回は、6つの症状について解説します。


1.筋肉量の減少・筋力の低下

廃用症候群による症状のひとつに、筋肉量の減少や筋力の低下が挙げられます。筋肉は体を動かさないと退縮するため、一定の量を維持できなくなるのです。具体的には、絶対安静で筋肉の伸び縮みが行われないと、筋力は1週間で10〜15%、3〜5週間で約50%にまで落ちるといわれています。筋肉量が減少し筋力が低下すると、関節の動きが悪くなるため、体を動かすことが億劫になるでしょう。さらに活動性が低下すれば、ますます筋肉量が減少するため、悪循環に陥ります。とくに、高齢者は気付かないうちに進行することが多く、ふとした瞬間に「起きられない」「歩けない」といった状況に陥ることも珍しくありません。筋肉を一定の量を維持するためには、体を動かす習慣を身につけることが大切です。


2.骨萎縮・関節可動域の制限

廃用症候群は骨にも影響を及ぼします。骨がもろくならないよう維持するためには、カルシウムの摂取と日光浴に加え、適度な運動も必要です。骨は、適度な負荷がかかることでカルシウムが蓄積し、成長が促されます。しかし、過度な安静状態が続くとカルシウムを摂取しても骨に蓄積されず、骨量が減少してしまうのです。とくに低栄養状態の人は、さらに骨萎縮が進行しやすい傾向にあります。骨密度が下がり骨自体がもろくなれば、何かにぶつかったり転んだりしたときに骨折するリスクが高くなります。
また、体を動かさなければ関節の筋肉や靭帯(じんたい)などが癒着(ゆちゃく)し、関節の動く範囲が制限されます。


3.うつなどの精神疾患や認知症

廃用症候群により、活動性の低下による社会的孤立が生じ、その結果うつやせん妄(目には見えないものが見える、混乱した行動をとる)、見当識障害(現在の時間や今いる場所がわからない)、睡眠覚醒リズム障害などを招くことがあります。
外出には、気分をリフレッシュしたり、人と会話する機会を得たりすることで、脳に刺激を与える効果があります。しかし、廃用症候群によって外出するのが億劫になれば、家に閉じこもるようになり、社会的孤立状態に陥ります。脳への刺激が減少すると、脳機能の低下を招き、意欲・興味の減退、集中力低下、知的機能の減衰、うつなどの精神疾患や認知機能が低下するリスクを高めてしまうのです。そのまま放置すれば、やがては認知症へと進行する可能性もあります。


4.誤嚥(誤嚥性肺炎)

誤嚥(ごえん)とは、飲食物や唾液が食道ではなく器官に入ることです。健康な人であれば、「咳」「むせ」などの防御反応が起こり、誤嚥物は吐き出されます。しかし、廃用症候群により誤嚥物を排出する力が弱まっていると、そのまま器官内に入り込みます。また、廃用症候群により筋肉が減ると免疫力が低下するため、誤嚥物と一緒に口や喉の細菌が肺に入り、肺炎が起きやすくなります。しかし、高齢者による誤嚥性肺炎は咳や痰、発熱などの症状が表れにくいのが特徴です。肺炎を起こしていても、元気がなかったり意欲が低下したりするだけの場合もあります。

誤嚥についての詳細は、こちらの記事(誤嚥とは?原因や誤嚥性肺炎等のリスク,自宅でできる予防のポイントを解説)で紹介しています。


5.心機能の低下

廃用症候群の全身に表れる症状のひとつに、心機能の低下が挙げられます。体を動かさないことで心筋機能が低下し、心拍出量や肺活量などが減少します。すると、起立性低血圧が起こりやすくなり、失神するリスクが高まるのです。失神したことがトラウマとなり、さらに活動性が低下すれば、廃用症候群による症状は進行し続けるでしょう。ほかにも、動かないことで静脈血栓を形成することもあります。下肢筋群の筋収縮や弛緩ポンプ作用の減少を招き、血流が悪くなると循環血しょう量が減少します。血液が血管内で凝固しやすくなることで、静脈血栓が形成されるのです。血栓が肺に移動すれば、最悪、死に至る場合もあります。


6.便秘

廃用症候群は便秘を招くことも少なくありません。活動性が低下すると、必要なエネルギー量が減少し、食欲不振に陥りやすくなります。その結果、食事量が減るため、便秘になりやすくなるのです。また、排便する際には腹筋の力が必要です。しかし、筋肉量の低下で便を押し出す力が弱まることも、便秘につながる理由になります。便秘によってお腹が張ると、さらに食欲低下を招き、筋肉量の低下・体重の減少につながります。体を動かすことが億劫に感じれば、安静時間が増えるという悪循環に陥りやすくなるのです。

廃用症候群の原因とは?

廃用症候群に陥る原因は、病気やケガによる長期入院や寝たきりであることがほとんどです。とくに、筋力や臓器の機能が低下している高齢者に起こりやすい障害ですが、病気や事故が原因で活動性が著しく落ちると、年齢を問わず誰でも起こり得る可能性があります。実際に、ギプスによる固定や安静の指示などが原因で、廃用症候群に陥るケースは少なくありません。

ほかにも、心臓や呼吸器、腎尿路系などの慢性疾患患者、がん患者の場合は、治療や薬の副作用の影響によって廃用症候群を引き起こすことがあります。また、認知症や抑うつ症状は、廃用症候群の症状である一方、これらが原因で廃用症候群になることもあります。


廃用症候群の予防・重症化を防ぐために取り組みたいこと

廃用症候群から回復するには、廃用に陥っていた期間より多くの時間をかけてリハビリに励まなければなりません。とくに、高齢者は元の状態に戻るのが難しいため、予防することが何よりも重要です。 具体的に、どのような取り組みが必要なのか、「運動」「食事」「社会参加」の3点について解説します。早期発見と早期対応が必須になるので、本人はもちろん家族が気にかけることでも予防・重症化を防げます。


家事から運動まで症状に合わせたリハビリを行う

廃用症候群の予防には、リハビリを行い適切に体を動かすことが大切です。手術直後でも、すぐにリハビリが始まるケースは多くありますが、これは長期的に体を動かさなかったことにより筋肉量が減少し、動きにくくなることを防ぐためです。人の体は動かさない日が続くと、筋力が1週間で10〜15%、3〜5週間で約50%も低下するといわれています。さらに、腸の活動も低下し、食欲不振や便秘を招き、体重の減少につながります。そのため、安静状態が続いている人は、自主的にリハビリに取り組むことが重要です。

具体的な例を挙げると、ウォーキングや障害者スポーツなどの低負荷の運動がおすすめです。とはいえ、運動能力は人によって大きく異なるため、無理のない範囲で行ってください。とくに、廃用症候群が重症化している人は運動よりも家事や買い物など、生活リハビリから取り組むとよいでしょう。自分に合うリハビリがわからないときは、理学療法士や作業療法士といったリハビリの専門家に相談してください。体調や症状に合わせたリハビリを立案してもらえます。リハビリはご家族の協力も必要です。過度に介助したり不必要に安静をとらせたりしないよう、注意してください。


バランスの取れた食生活を心掛ける

廃用症候群の予防には、食生活を意識することも大切です。筋肉や骨などを作るのに必要な栄養素は、食事から摂取する必要があります。筋肉の源であるタンパク質、骨の形成をサポートするカルシウムなどを十分に摂取することが重要です。廃用症候群患者の91%が低栄養との研究結果もあり、とくに高齢者は低栄養に陥っているケースが多くあります。1日3食取っていても高齢者は1食の食事量が少なく、あっさりした味や、やわらかいものを好みやすく、食が固定化されやすい傾向があります。気付かないうちに偏食している可能性があるため、一度食生活を見直してみるとよいでしょう。

また、寝たきりにつながりやすい脳血管疾患(脳卒中)は、高血圧や動脈硬化、糖尿病が主な原因です。 これらを予防するためには暴飲暴食やコレステロール・中性脂肪の多い食事、食塩の過剰摂取を避けることが大切です。その結果、寝たきりになる要因を潰せるため、廃用症候群の予防につながります。


人との関わりを増やして気持ちを前向きに

精神面をケアするためには、人と関わることが効果的です。他者とおしゃべりしたり、一緒に作業したりすると脳が刺激されます。それは脳が活性化するため、認知症の予防につながるといわれているからです。

しかし、仕事をしてきた高齢者の場合は退職をきっかけに、周囲とのコミュニケーションが減りやすくなります。人との関わりを減らさないためにも、趣味のクラブ活動に参加したり、シルバー人材で活躍したりするなど、前向きに活動することが重要です。また、デイケアやデイサービス、訪問リハビリを活用すると、活動量が増えるため、他者とのコミュニケーションをとる機会を増やせます。介護するご家族の負担軽減にもつながるため、積極的に活用するとよいでしょう。


薬物治療が有効なケースも

廃用症候群の症状によっては、薬物治療が有効に働く場合があります。具体的には心機能低下や関節痛、誤嚥性肺炎は投薬治療が中心となる症状です。精神障害のせん妄には、精神神経用の薬を使用することもあります。薬物治療を行うかどうかは、医師の診断に基づき決定されます。自己判断で市販薬を服用するのは避け、医師の診断を受けて薬を処方してもらいましょう。


まとめ

廃用症候群とは長期間の過度な安静により引き起こされる、さまざまな症状の総称のことです。具体的な症状には筋肉量の減少・筋力の低下や誤嚥(誤嚥性肺炎)、精神疾患、認知症などが挙げられます。廃用症候群に陥ると改善するのが難しいため、無理のない範囲で廃用症候群の予防や重症化予防に取り組むことが重要です。
今回紹介した取り組みは、どれも自宅で実践できるものばかりです。自発的に行うのはもちろん、ご家族や専門家のサポートを活用しながら取り組むとよいでしょう。また、介護施設ではレクリエーションも行われるため、体だけでなく精神的なリハビリにもつながり、廃用症候群の予防として有効です。

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