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老々介護の夫婦
2023.12.04

認知症で行われる治療とは?

近年、認知症に関する研究が進み、新たな治療薬のニュースを目にすることも増えてきました。一方、治療は薬の服用だけでなく、他にもさまざまな手法があります。


本記事では、「認知症の治療」について解説します。薬物治療や非薬物治療、それぞれを実施する際の注意点やポイントなど、専門家監修のもと、ご紹介します。


目次
・認知症の治療方法とは
・認知症の薬物療法
・最新の薬物治療研究
・薬物療法についての注意点と知っておきたいこと
・認知症の非薬物療法
・非薬物治療におけるポイントや注意点
・まとめ

執筆者画像
【監修】精神科、心療内科医、認知症診療医 ブレインケアクリニック名誉院長 ・一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長 今野裕之先生
順天堂大学大学院卒業。老化予防・認知症予防に関する研究で博士号を取得。大学病院や精神科病院での診療を経て2016年にブレインケアクリニック開院。各種精神疾患や認知症の予防・治療に栄養療法やリコード法を取り入れ、一人ひとりの患者に合わせた診療に当たる。認知症予防医療の普及・啓発活動のため2018年に日本ブレインケア・認知症予防研究所を設立。 著書・監修に「最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術(青春出版社)」など。 医師+(いしぷらす)所属。

認知症の治療方法とは

「認知症になったら治らない」そんな言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。しかし、完治だけが治療ではありません。ここでは、認知症の治療に対する基本的な考え方を解説します。


認知症の治療は進行抑制と機能改善

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症などに代表される多くの認知症を完治させる治療法は、まだ確立されていません。しかし、進行を抑制することはできます。そのため、認知症の治療は、「進行を遅らせる」ことと「日常生活の支障となっている機能を改善する」ことを目的に行われます。


具体的には、薬を服用し脳機能の低下要因となっている疾患にアプローチする薬物療法と、薬を服用することなくリハビリテーションなどにより脳の機能を活性化させる非薬物療法が行われます。加えて、身近にいる家族や介護者の対応や接し方が、認知症の治療に大きな影響を与えます。

残された機能を維持し、日常生活の支障となる症状を軽減・改善することで、たとえ認知症でも穏やかに普通の暮らしができることを目指し、治療の効果が上がれば介護者の負担軽減にもつながります。


治すことができる認知症

上記で解説した認知症以外に、治療が可能な認知症もあります。それが、脳腫瘍・慢性硬膜下血腫・正常圧水頭症・脳血管障害などが要因となっている認知症です。脳外科手術など外科的治療によって、これらの疾患を治療することで、認知症の症状を改善できる可能性があります。



認知症の薬物療法

薬のイメージイラスト

認知症の治療において、中心的な役割を果たすのが薬物療法です。認知機能の低下を抑えて進行を遅らせることに加え、残っている機能を維持するための薬が処方されます。薬物療法は、中核症状に対する薬物治療と、BPSD(周辺症状)に対する薬物治療の大きく2つに分けられます。


中核症状は、物忘れや人の顔がわからなくなるなど、認知症の人に共通して見られる症状です。一方、BPSD(周辺症状)は、中核症状によって二次的に出現する症状であり、不安・抑うつ、幻覚、妄想、睡眠障害などが見られ、人によって症状が異なります。
【関連記事】認知症の主な症状1:中核症状
【関連記事】BPSD(周辺症状/行動・心理症状)とは? 具体的な症状や要因、対応方法について


中核症状に対する薬物療法

中核症状の薬物治療では、主に4種類の治療薬が処方されています。いずれも、保険適用対象となっており、症状の進行を遅らせる目的で処方されます。


アセチルコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬

認知症治療で用いられる代表的な薬物の種類に、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)の2種類があります。これらはアルツハイマー型認知症の中核症状に対する薬剤です。そのうちドネペジルのみ、レビー小体型認知症にも適応があります。

コリンエステラーゼ阻害薬は、脳内の学習や記憶に重要な役割を果たす神経伝達物質(アセチルコリン)の分解を防ぎ、神経細胞間の情報伝達を改善することで認知機能低下を抑制します。一方、NMDA受容体拮抗薬は、脳内の神経細胞が過剰に活性化することによる神経細胞へのダメージを減らし、認知機能の低下するのを防ぐことで、認知症の進行を遅らせます。


新薬レカネマブとは

2023年、新しい治療薬として、レカネマブが承認されました。レカネマブは、アルツハイマー型認知症の原因である、アミロイドβタンパク質の蓄積に直接作用するものです。


アミロイドβタンパク質と認知症の関係性
健康な人の脳にも存在し、本来は脳内の不純物として短期間で分解、排出されるものです。加齢とともに毒性が強いタイプのアミロイドβが増加し、凝集すると排出されることなく、脳に蓄積。その結果、神経細胞が障害されて最終的には死滅し、徐々に脳が萎縮。その結果、アルツハイマー型認知症が発症すると考えられています。


レカネマブは脳内のアミロイドβを取り除くという新しい作用を持った薬剤で、記憶力の低下や判断力の衰えなどの症状の進行を遅らせます。

副作用としては、使い始めの初期に頭痛、発熱、吐き気などが現れたり、特に使い始めて数か月以内に脳の腫れや微小出血が観察されることがあります。多くの場合生命に危険を及ぼすような深刻な状況には至らないとされていますが、専門医療機関での注意深い観察、評価が必要とされています。


BPSD(周辺症状)に対する薬物療法

BPSD(周辺症状)には、対症療法として睡眠薬や抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬などが処方される場合があります。


睡眠薬…睡眠障害を持つ方に自然な睡眠リズムをサポートすることで睡眠の質を改善し、認知症の症状の悪化を防ぐことが期待されます。ただし、安易に使用すると、認知機能低下、転倒・骨折、日中への鎮静作用の持ち越しなどの副作用が生じる危険性があるため、慎重に検討する必要があります。

抗精神病薬…認知症の方々の幻覚や妄想、興奮などの精神症状を軽減するために用いられる薬剤で、神経伝達物質のバランスを調整します。しかし、副作用として、運動障害や代謝性変化、心血管系への影響、中枢神経系の影響があります。

抗不安薬…不安や緊張を和らげる効果があり、認知症の方々の気持ちを楽にするために処方されます。一方、依存性、認知機能への影響、運動機能の低下、離脱症状などのリスクを持ちます。

抗うつ薬…気分の落ち込みや不安など、気分に関する症状を改善する目的で処方されます。副作用としては、口の乾燥、便秘、尿留保、視覚障害、体重増加、睡眠障害、性機能障害が挙げられます。

これらの薬を処方する際は、医師の指導のもと、副作用のリスクを最小限に抑えるために最低有効用量から開始し、状況の変化を注意深く観察しながら必要に応じて用量を調整します。



最新の薬物治療研究

最新の認知症治療の研究では、レカネマブに加えドナネマブなどの抗アミロイドβ抗体医薬が注目されています。

レカネマブは、アルツハイマー病の治療薬として、2023年9月に日本で承認されました。臨床試験では、早期のアルツハイマー病の方々に2週間に1度、計18カ月間にわたってレカネマブを投与したところ、プラセボ(偽薬)の方々に比べ、脳内に溜まっていたアミロイドβが顕著に減少するという結果が出ました。


現在、承認申請中のドナネマブの臨床試験では、アルツハイマー病の方々の脳内アミロイドβ除去率が、ドナネマブを使用したグループは平均で約84%に達しました。


そして、レカネマブとドマネマブの臨床試験では、脳内のアミロイドβの減少に加え、認知機能や自立して生活を送る能力の低下を約30%遅らせる(症状進行を約7.5カ月遅らせる)効果が認められました。

出典:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「アルツハイマー病の新しい治療薬」

出典:https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2807533



薬物療法についての注意点と知っておきたいこと

薬物療法は認知症の効果的な治療手段ですが、効果とともに副作用もあるため、身体面・精神面の状態をよく把握し、十分に精査した上での判断が必要です。新しい薬を処方される際は、現在服用しているすべての薬品を医師に報告し、相互作用のリスクを最小限に抑えることが重要です。


認知症の高齢者は、記憶障害や病気への認識低下により、薬の飲み忘れや間違いが起こりやすいため、薬の管理状況を定期的にチェックすることが大切です。服薬回数を減らす、薬を一包化する、服薬カレンダーを使うなどの工夫が役立ちます。また、飲み込みにくい場合は、ゼリー剤、経口液剤、貼付剤など薬の形を変えることも一つの手段です。



認知症の非薬物療法

介護レクリエーションを受ける高齢者

薬ではなくリハビリテーションなどで、症状を緩和させるアプローチです。脳を活性化し、認知症の方が持っている能力を引き出し、生活能力を高める目的で行います。非薬物療法には複数の方法がありますが、代表的なものを紹介します。


運動療法

研究により、定期的な運動は脳の活性化が促され、認知症の改善に効果があることが示されています。有酸素運動は海馬の体積を増加させ、記憶力や空間認識能力の向上に寄与します。さらに、運動は認知症の方々の身体機能の改善にも効果的であることが確認されています。


認知刺激療法/認知リハビリテーション

主にトランプやパズル、計算、音読など脳を活性化させる活動を通じて、思考能力や記憶力を刺激する手法を認知刺激療法といいます。これらの療法は、楽しみを提供しながら認知機能の維持・向上を目指し、特に中等度以下のアルツハイマー病の方々に有効であることが示されています。しかし、有効性は科学的に確認されておらず、日常生活での自然な脳刺激が推奨されます。


リアリティオリエンテーション/現実見当識訓練

リアリティオリエンテーションは、認知症の方々の現実認識を支援し、認知機能低下を緩和する手法です。認知症の方々が時間と場所の感覚を保ち、自己や環境に関する理解を深めることを目指します。実践には、日時や場所の確認、個人情報の再確認、日常活動の整理等が行われます。

効果的に訓練が行われるように、大きな時計やカレンダーを見やすいところに配置するなど環境を整えます。認知レベルや心理的状態を考慮し、個々に応じた適切なアプローチが必要であり、過去と現在の混同が混乱を招く可能性もあるため注意が求められます。

【関連記事】リアリティ・オリエンテーションとは? 効果的な手法やポイントを解説


回想法

昔の写真やビデオなどを活用し、思い出を語ることで脳を活性化する心理療法的なアプローチです。過去の思い出を誰かと共有することは、集中力や自発性の発揮にも繋がり、気持ちが安定する効果が認められています。

【関連記事】認知症の非薬物療法「回想法」とは|効果や実施方法を事例とともに紹介


光療法

目から光を受けると、脳の特定の部分が活動し、体内時計を正確にします。これにより、夜間の睡眠障害が改善され、気分の安定につながります。外で日光浴をする、家の中の照明を適切な明るさにすることなどがおすすめです。

光を浴びると脳内の神経伝達物質で精神を安定させるセロトニンが活性化して睡眠の質を向上させる効果が期待されています。


音楽療法

音楽療法では、専門の音楽療法士による個別またはグループセッションで実施され、歌唱、楽器演奏、音楽鑑賞などを通じて認知症の方々の感情調整、行動安定、社会的交流を促進します。


音楽療法は不安緩和、行動異常緩和、認知機能改善に効果があり、より穏やかで充実した日々を過ごし、自己表現や人との繋がりを深めることに寄与します。副作用が少なく、薬物療法との併用が推奨されます。


園芸療法

園芸療法は、認知症の方々が直接土を触ったり、種をまいたり、植物の水やりや剪定などの世話を通じてさまざまな感覚を刺激し脳を活性化させ、結果として記憶力や集中力の向上に寄与する可能性があります。また、グループ活動の形式で行われることが多く、他社との交流を促進する効果が期待されます。


その他セラピー

脳に刺激を与え、リラックスできる音楽療法や芸術療法、園芸療法、動物と触れ合い感情の安定を目指すアニマルセラピーなど、さまざまなアプローチがあります。本人が楽しんでできることを見つけましょう。



非薬物治療におけるポイントや注意点

認知症の非薬物治療は、一人ひとりの状態に合わせた個別化されたアプローチが重要です。個々の趣味や好むものを取り入れ、自立を支援することがポイントです。安全で安心できる環境整備、ポジティブな感情を引き出し、自己肯定感を高める工夫、社会参加を促す積極的なコミュニケーションが重要です。

一方、対象者に無理をさせないこと、行動・心理症状への適切な対応、家族や介護者のサポートと理解が必要です。



まとめ_認知症の不安を和らげる対応を

認知症の治療には、日々の生活環境や、周囲の接し方が大変重要なポイントになります。 適切な環境やケアで、行動・心理症状が軽減されることもあるのです。行動・心理症状は本人の不安や焦りの表れ。たとえば、ひとり歩きや暴力が見られたときにも本人なりの理由があります。その理由を探り、本人を安心させることができれば、症状の軽減に繋がるでしょう。介護者の負担は大きなものですが、まず認知症という病気をしっかりと理解し、本人の状態にあわせて信頼関係を築くことを第一に考えましょう。

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