加齢によって睡眠には変化が起こるため、睡眠リズムがずれて昼夜逆転になることがあります。介護をする方にとっては夜間の睡眠時間を取りにくくなるなど負担が増えることに加え、日中寝ていて食事をとらないことで栄養不足にならないかなども心配になりますね。この記事では、昼夜逆転する原因やその治し方、認知症による睡眠障害などについて説明します。
加齢によって睡眠には変化が起こるため、睡眠リズムがずれて昼夜逆転になることがあります。介護をする方にとっては夜間の睡眠時間を取りにくくなるなど負担が増えることに加え、日中寝ていて食事をとらないことで栄養不足にならないかなども心配になりますね。この記事では、昼夜逆転する原因やその治し方、認知症による睡眠障害などについて説明します。
睡眠障害には、夜なかなか眠れない「入眠障害」、寝ている途中で目が覚めてしまう「中途覚醒」、朝早く目が覚める「早朝覚醒」などがあり、そのために生活に支障が出る場合もあります。昼に眠り、夜に起きて活動する「昼夜逆転」も、睡眠障害の一つです。
シワや白髪がふえたり、足腰が弱くなったりするのと同じように、年齢を重ねるとともに睡眠も変化していきます。生体リズムを調節している体内時計が変化して、生体リズムが前倒しになり、睡眠も浅くなるため、健康な人でも朝早く目が覚めたり、ちょっとした音でも目が覚めてしまったりして、眠れなくなることが増えます。そのうえ、それまで勤務していた会社を退職したり、長年を共にしたパートナーと死別したり、痛みやかゆみ、夜間頻尿などといった体の不調が増えることによるストレスや、体の不調を改善するための薬による副作用など、高齢者には睡眠障害が起こる要因が多くあります。
睡眠障害の中でも、高齢者は中途覚醒や早朝覚醒が多い傾向がありますが、それ以外にも、眠っている間に呼吸が止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」や、足がムズムズする感覚があって十分に眠れない「レストレスレッグス症候群」、自覚がなく足がピクピク動いて脳波に覚醒反応が起こる「周期性四肢運動障害」、夢の中での行動がそのまま現実にも現れる「レム睡眠行動障害」などの睡眠障害にかかりやすいことが知られています。
これらが疑われる場合は、受診して検査を受け、診断してもらうことが必要です。
高齢者の中でも認知症の方の場合は、脳の機能が損なわれることに伴ってさらに睡眠が浅くなり、症状が進行すると1時間程度でも連続で眠れなくなってしまうといわれます。具体的には不眠や過眠、睡眠時無呼吸症候群のほか、「概(がい)日(じつ)リズム睡眠障害」などさまざまな睡眠障害が見られます。「概日リズム睡眠障害」では、体内時計と実際の時間とのずれを修正できないことによって入眠や覚醒の時刻が一般的な時刻とずれてしまい、昼寝が増えて夜に覚醒する昼夜逆転が起こります。
認知症では、脳の機能の低下以外にも、睡眠障害が起こりやすい要因があります。日中の活動が少ないことによる社会参加の低下とともに外出も減り、日光を浴びる量が減ること、また、身体的に不自由な場合や認知症以外の薬による治療も、睡眠障害の原因となっています。
特に、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、脳の睡眠と関連する部分が変性するため、睡眠障害が現れやすくなります。
アルツハイマー型の認知症は、食事をしたことを忘れるなどの記憶障害から始まりますが、次第に今がいつか、自分がどこにいるかがわからなくなるなどの見当識障害が現れてきます。そのため、さらに体内時計が乱れて、睡眠時間が少なくなる、浅い睡眠が多くなる、夜間に眠れなくなるなどの症状が出現し、昼夜逆転が起きやすいのです。
一方、レビー小体型認知症では、レム睡眠行動障害が多く見られます。寝ている間に大声を出したり、手足をバタバタと動かしたりするほか、重症になると起き上がったりすることもあります。声をかけたりすると比較的すぐに覚醒しますが、時にはせん妄との区別が必要なことも。また、レビー小体型認知症を発症する前に、その前触れとして現れることもあります。
「加齢によるもの忘れ」と「認知症」は異なります。認知症とはどんな病気なのか、種類や原因、症状や予防法など、認知症の基本を解説します。大切な家族のために、将来の自分のためにも参考にしてください。
認知症によって昼夜逆転が起こると、さまざまな症状が見られるようになります。症状が悪化すると、介護をしている方の負担が大きくなってしまうこともあります。
概日リズムがずれて夜間に眠れなくなることによって、1日のリズムのうち、日中が寝る時間に該当してしまい、居眠りをする回数が増えていきます。
活動する時間帯が夜間になるため、家の中をふらふらと歩き回るだけでなく、時には家から出ていって、行方がわからなくなってしまうこともあり、介護している人が探し回らなければならないこともあります。
通常、夕方から就寝する1~2時間前の時間帯は眠気を感じなくなり、これを「睡眠禁止ゾーン」と呼びます。たとえば夜9時ごろに眠る場合は、睡眠禁止ゾーンは夜7~8時ごろとなりますが、認知症の方の場合は、概日リズムがずれてこの睡眠禁止ゾーンが早まり、夕方の時間帯に眠くなってしまうことがあります。眠気により注意力や集中力が低下して、半分起きて半分寝ているような状態になり、興奮したり、自分がいる場所がわからなくなったり、大きな声を出したりなどの行動が見られます。これを「夕暮れ症候群」と呼んでいます。
夕暮れ症候群についての詳細は、こちらの記事(夕暮れ症候群が起こったときはどうする? 原因や対処法、注意点を紹介)で解説しています。
認知症の睡眠障害には、残念ながら、効果的な薬による治療方法はありません。そのため、日常生活の中で対処していくことが基本になります。すぐに効果が出ない場合もありますが、続けていくことが大切です。
午前中に日光を浴びることで、体内時計が活動状態になるようにリセットされるとともに、眠気を誘う働きがあるホルモン・メラトニンの分泌が抑えられます。朝は決まった時間にカーテンを開けて、部屋に日光を取り入れましょう。ただし、家の中に入る日光だけでは十分ではありません。適度な運動での疲労も夜に寝つきやすくする効果がありますので、午前中に散歩をしたり、一緒に買い物に行くなど、本人が好むことやストレスなくできることで活動量を増やしましょう。昼寝をしすぎないようにする、昼寝はあくまで仮眠のため布団やベッドで寝ないように注意することなどもポイントです。
部屋が明るいと体内時計の働きが乱れ、メラトニンが分泌されにくくなります。認知症の方が不安に感じない程度に照明を暗くし、リラックスできる環境を整えましょう。音が気になって眠れないという場合もあるので、テレビや時計の音なども今一度チェックを。
ほかに、部屋の中が暑かったり、寒かったりしないか、乾燥していないか、体が冷えて眠れないことはないかなども確認するといいでしょう。就寝2~3時間前に入浴や足湯などで体を温め、汗をかくことで体の深部体温が下がり、眠りに入りやすくなります。入浴や足湯がむずかしい場合は、湯たんぽで足を温めるのも効果的です。
午前中の散歩など適度な運動をするにあたって、起床時間や就寝時間を決めましょう。起きる時間や布団・ベッドに入る時間を一定にすることで、体内時計が整い、スムーズに入眠できるようになります。年齢を重ねると腎臓の機能が衰え、夜間のトイレ回数も増える傾向にあるので、トイレで目覚めて眠れないことがないよう、寝る前の水分の摂り過ぎは控え、トイレを済ませることも忘れないようにしましょう。また、食事の時間なども規則正しくすると、朝昼晩を認識しやすくなります。あまりきっちり決める必要はありませんが、おおまかなスケジュールを立ててみるのがおすすめです。
眠りに入るためには、リラックスすることが大切です。認知症の方は暗かったり、自分がいる場所がわからなくなったりすると、不安を感じてしまいます。また、日中の出来事がきっかけで、不安を感じたまま眠りに入ることもあります。その場合は、よく話を聞いたうえで、不安を取り除くような声かけをしましょう。体に痛みがある場合も安眠が妨げられますが、認知症の方は痛みをうまく伝えられていないことがあります。足や腰、背中などに痛みがないか確認して、痛む箇所があった場合は、受診するなどして痛みを軽減するようにしてください。
夜間にトイレに起きる原因になるため、夕方以降は水分の摂り過ぎを避けましょう。アルコールは膀胱を刺激しますし、カフェイン入りの飲み物には利尿作用があるので、特に気をつける必要があります。また、ニコチンの摂取は交感神経が活発になり、眠りに入りにくくなるので控えましょう。
生活の改善を図っても効果が出ない場合は、服用している薬の副作用で、睡眠が妨げられている可能性もあるので、医師や薬剤師に相談してみましょう。適切に睡眠薬を使うことで、認知症の方と介護する方の双方がきちんと休めるようになることもありますが、睡眠薬には副作用もありますので、必ず医師に相談のうえで服用をするようにしてください。
ちなみに普段から入眠時間や起床時間、睡眠時間の長さ、睡眠時の状態など、認知症の方の睡眠について記録をつけておくと、医師に相談する際に役立ちます。「いつもより長く昼寝をしていた」など日中どのように過ごしていたか、排便や排尿はどうだったか、寝室の環境などについても可能な範囲で記しておくと、生活改善のヒントにもなります。
また、認知症治療薬のコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト等)には、覚醒作用がありますので、午前中に服用するようにしてください。
国が掲げる認知症施策「新オレンジプラン」の7つの柱のうちのひとつに、「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」を推進する取り組みがあります。この記事では、全国で設置が進められている、認知症治療の中核的役割を担う「認知症疾患医療センター」について説明しています。
高齢になると睡眠が変化し、睡眠障害が起きやすくなります。特に、脳の機能が低下している認知症ではその傾向が強まり、昼夜逆転もしやすくなるため、介護をする方が疲れきってしまうこともあります。まずは、日々の生活や環境に睡眠を妨げている要因がないかどうか確認しましょう。改善しない場合も、介護している方だけで抱え込まないことが大切です。医師に相談したり、ショートステイなど介護サービスを利用するなど、介護をする方の心身のケアも忘れないようにしましょう。
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