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菅野 範さんのインタビューの様子
2023.12.15

「噛む」ことで記憶力がUPする!? 研究者に聞いた、食事の工夫

「仕事で新しい知識を身に付けなければいけない」

「家族や知人から頼まれたことがたくさんある」

など、日常生活では、記憶をしなければいけない場面がたくさんあるでしょう。記憶力は、個人差がありますが、日々のちょっとした意識で向上させることができます。


本記事は、「噛む」ことについて研究をしている株式会社ロッテの「噛むこと研究部」へ、インタビューを実施。「噛む」ことによる脳への影響や記憶力との関係性、記憶力UPのためのポイントを伺いました。


噛むこと研究部
株式会社ロッテが、「噛む」ことを専門的に研究・活動する部署として、2018年に設立。様々な自治体や研究機関・企業と連携し、「“噛むこと”を通じて世の中に貢献したい」、「最適な“噛む”を提供することで皆さまの力になりたい」という思いのもと、研究開発や啓発活動を行う。


目次
・「噛む」ことで記憶力UPはする?咀嚼による脳への影響
・脳に影響する「噛む」ポイント
・「噛む」ことを促進する食べ物とは
・「噛む」ことをしなくなると、身体が衰える?
・まとめ:「噛む」ことの大切さを伝えたい

執筆者画像
噛むこと研究部 主査 菅野 範さん
大学時代は食品化学を学び、脂質の脳機能への影響に関する研究を経て、株式会社ロッテへ入社。噛むこと研究部設立当初より、「噛む」ことに関する様々な研究や啓発活動などに取り組んでいる。

「噛む」ことで記憶力UPはする?咀嚼による脳への影響

―――まずはじめに、「噛む」ことと脳の関係性について教えてください。「噛む」ことは脳にどんな影響を与えるのでしょうか?

食事は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚などの感覚を刺激します。こういった刺激は脳へ伝わりさまざまな反応を起こします。

「噛む」という行為による刺激も同様です。口周り、舌、喉など、多くの筋肉が関連しており、神経によって脳とつながっています。食べ物を噛んで口周りの筋肉を動かすことで、それらの刺激が脳へ伝わり活性化する要因となります。


「噛む」ことで刺激されるのが脳の「前頭前野」。「前頭前野」は、脳の中でも思考や判断、感情のコントロールや、記憶にも関係している脳の司令塔といわれる部位です。ここへ作用することで、記憶力への影響もあると考えられています。


―――口回りの筋肉を動かすことで、具体的にどのような刺激が伝わるのでしょうか?

「噛む」ことによる脳の血流増加です。食べ物を噛むことによる口の中への刺激は、脳につながる動脈の血流を増加させるといわれています 。

実際に「ガムを噛んだとき」「ガムを噛まないとき」に認知機能課題を行ってもらった時の認知処理速度や正答率、血流量の変化を調べる試験が行われています。すると、「ガムを噛んだとき」のほうが脳前頭前野の血流が増え、認知処理速度や正答率が向上することが分かっています。


―――脳の血流が促進されることは、記憶にも影響を与えているのでしょうか?

はい。実際に、高齢者1057人を対象に「ガムを噛んだとき」と「ガムを噛まないとき」の記憶力に関する試験も行われています。具体的には、事前に64枚の写真を覚えてもらい、20分後に写真を半分入れ替えて、覚えた写真と同じか否かを回答してもらう試験です 。

噛むことによる高齢者の記憶力への影響を表した図

結果として、「ガムを噛んだとき」の方が正答率は高く、記憶時に「前頭前野」や、記憶に関わる「海馬」の活性が高いことが分かっています。


脳に影響する「噛む」ポイント

―――次に、「噛む」ときのポイントについて詳しく伺えればと思います。まず、噛む力は意識的に強くした方が良いのでしょうか?

ある実験では、ガムにある程度の硬さがあったほうが噛んだ後の認知課題中の脳血流量が増えて、より脳が活性化することが分かっています。また、「噛み締め」の試験も行なわれており、強く噛みしめるほど脳への刺激が多いとされています。

ただ、必ずしも強いほうが良いというわけでもありません。作業をしているときに「噛む」ことを意識し過ぎると、「強く噛む」「作業する」というふたつを同時に意識することになります。これでは、かえって集中しづらい状況になるでしょう。個人によって噛む力は異なるので、その人にとって噛みやすい強さが良いと思います。


―――やわらかいものを食べるときに、歯を使わず舌だけでつぶすときもありますが、やはり噛んだ方が良いのでしょうか?

そうですね。実際の試験で「ガムを噛んだとき」「ガムを舌の上に乗せたとき」の差を比べたものがあるのですが、「ガムを噛んだとき」のほうが脳の血流への影響が大きいという結果が出ています。


―――「噛むときの姿勢」はどうでしょうか?

姿勢に関する試験では、「姿勢を整えて噛んでいる状態」のほうが、脳の反応が良いことが分かっています。具体的には「背筋を伸ばして足を地面につけて噛む」こと。背筋を伸ばすことで脳への刺激が高まり唾液がしっかり分泌されます。


また、足を地面につけることで、力が入りやすく噛む効率があがります。寝た状態では脳の反応が悪くなることが報告されているので、そこは注意してください。


―――効果的な、食べる(噛む)タイミングを教えてください。

タイミングは「作業する直前」または「作業しながら」が良いでしょう。噛む刺激は、噛み終えると途絶えますが、脳への影響は残ります。


「作業する直前に噛む場合」では、噛んだことで作業中も脳血流や、反応が活性化することが報告されています。また、「作業しながら噛む場合」では、「周囲がうるさく気になる場合」「緊張しやすい環境」でも、ストレスを低減することも報告されています。


スポーツ選手がわかりやすい例でしょう。彼らは、より集中したい場面、ストレスを和らげる、気持ちを切り替えるためにガムを噛んでいます。一般的には、試験の前や勉強中、高速道路を運転する際などにガムを噛むと、集中力、覚醒といった面で良い影響があると思います。


―――たしかに、プロスポーツ選手がガムを噛んでいる場面を見ることがあります。

ガムにフォーカスすると、フーセンガムは子どもの口腔機能の発達に良い影響を与えるという結果も得られています。というのも、フーセンガムは「ガムを噛む」「丸めて上あごで押しつぶす」「口をすぼめて膨らませる」など、口周りのさまざまな筋肉のトレーニングになるためです。


「噛む」ことを促進する食べ物とは

インタビューを受ける菅野 範さん

―――ここまでのお話のなかで、「噛む」ことが脳に作用することがわかりました。続いて、「噛む時間」や「噛む回数」で気をつけるポイントはありますか?

よく噛んで食事をとると、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という五感の情報が脳に送られるといます。1口30回噛んで食べることも推奨されていますので、意識してよく噛むことは大事です。しかし、だからといって過剰に意識しすぎなくて良いと思います。


たとえば、豆腐のようなやわらかいものを何十回も噛むというのも無理があるでしょう。食事が滞らないためにも、「ストレスなく食べられるのか」も大切にしてください。基本的に、「噛んで」「口の中で食べ物をまとめて」「飲み込む」のは無意識のうちにやっていることなので、人によって「噛む時間」や「噛む回数」は違いますが、食材を大きく切ったり、歯ごたえのある食べ物を選ぶことで自然と「噛む時間」や「噛む回数」は増えます。


噛むリズム運動が幸せホルモンともいわれるセロトニンを増加させることも報告されていますので、「自分が一番心地いいリズム」で、噛むのが良いと思います。


―――日常生活の中でよく噛むにはどんな食べ物が良いのでしょうか?

「噛みごたえのあるもの」を選んでいただくのが大切だと思います。たとえば「乾きもの」や、やわらかいお肉より噛みごたえがあるお肉を選ぶといった感じです。


食材選びの参考になるよう、和洋女子大学の柳沢先生、キユーピーさんと共同で、計142品目の食品の咀嚼回数を10段階にランク付けした表なども作成しています 。

食品の咀嚼回数を10段階にランク付けした表

参照:https://www.lotte.co.jp/kamukoto/body/1641

ランク1が1口(10g)あたりの咀嚼回数0〜20回未満、ランク2(20〜30回未満)以降はそれぞれ10回ずつ回数を増やして、食べ物ごとの咀嚼回数をまとめたものです。


―――あまり意識したことがなかったですが、食べ物によってこんなにも咀嚼回数が違うんですね。

ランクの高い食品を献立に盛り込んでもらえれば、自然と食事の噛む回数が増えるかと思いますので、ぜひ普段の生活で活用いただければと思います。

チューインガムは噛み続けられる食品ですので、5分間の咀嚼回数が430回となり、手軽に取り入れられる点でもお勧めです。


――お勧めの噛み方があれば教えてください

ポイントは奥歯を使い、口を閉じて、左右のバランスよく「噛む」こと前歯を使うとあごの動きが小さくなりますが、奥歯で噛むとよくあごが動きますので口周りの筋肉のトレーニングにもなります。噛み合わせのバランス的にも、片方で噛み続けるよりも、左右両側の奥歯を使うのが大切ですね。


「噛む」ことをしなくなると、身体が衰える?

インタビューを受ける菅野 範さん

―――近年は食生活の変化などにより、食べ物を小分けにしたり、硬さを抑えたりするなど、食べやすさを工夫することがかえって、噛む機会を減らしているようにも感じます。「噛む」ことが減るとどのような影響がでるのでしょうか?


年齢を重ねていくと、筋力の衰えとともに噛む力が低下しやすくなり、特に高齢者ではその変化が顕著に表れます。その結果、口腔機能の衰えである「オーラルフレイル(※)」につながり、全身の機能低下にも関連しているといわれています。ある試験では、口腔機能の衰えを放置すると要介護認定や、死亡リスクが上がるとされているほど。さらに、機能低下が進むと食べられる物の選択肢が狭くなり、栄養状態の悪化にもつながっていくのです。


加えて、噛む力のおとろえは認知機能にも影響をあたえることが報告されています。理由の一つとして、噛む力が低下することで脳への刺激や血流が行きにくくなるためと考えられています。


(※)オーラルフレイルとは…「オーラル」は口腔、「フレイル」は虚弱という意味で、「オーラルフレイル」とは口腔機能のおとろえが全身の老化につながる、という考え方を指す。「口のおとろえ」は身体的、精神的、社会的な健康と大きな関わりを持つといわれている。


―――身体的なリスクにつながることからも、「噛む」ことの重要性がわかりました。口腔機能の衰えは改善できるのでしょうか?

はい、大人になっても、日常生活で意識をすることで改善することができます。先ほど紹介したようなポイントを意識すると良いでしょう。


一方で、子どもの頃からの意識も重要です。噛む力は子どもの頃から養われるものであり、その力が弱いまま大人になると、口腔機能低下につながりやすくなります。そのためには、子どもの頃から噛む力をつけておくことが大切です。


―――年齢が若いときから意識することが大切なのですね。

しかし最近は、子どもの食生活も変わり、「手づかみ食べ(手でつかんで食べる)」で前歯で噛み切って食べたり、歯ごたえのあるものを食べたりせず、小さく切り分けられたやわらかく食べやすい食事を食べる傾向にあるかと思います。結果、咀嚼回数が減り、口腔機能の低下につながるのです。


そして、口腔機能の低下は、いつも口をポカンと開けた状態「お口ポカン」につながることも。「お口ポカン」は、歯並びが悪くなる原因や乾燥による口臭発生、むし歯の原因になるといわれています。こうした状態を防ぐためにも「噛む」ことは重要です。


まとめ:「噛む」ことの大切さを伝えたい

―――本日は、「噛む」ことをさまざまな観点からお話いただきありがとうございました。とても勉強になりました。

本日のお話したように、「噛む」ことにより様々なメリットがあります。先ほど「オーラルフレイル」という言葉もでましたが、噛む能力は、どの年代、どの世代でも改善できます。ガムを利用してもらっても良いですし、硬いものを意識的に食べてもらっても良いでしょう。食生活が変化しているなかで、改めて「噛む」ことの大切さを認識してもらえたらうれしいです。



文/藤本皓司


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