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財布を探す高齢女性
2024.04.12

「盗んだ」と疑われた場合はどうする? 物盗られ妄想の原因や対処法を解説

認知症の方の介護をしていると、「私の財布を盗んだのでは?」と疑われることがあります。急にそのような疑いがかけられると、動揺したり、反発したりする気持ちが芽生えてしまうかもしれません。


しかし、認知症の症状の1つであるため、適切な対応をすることで、その症状を和らげることができます。本記事では、物盗られ妄想が発生する原因、認知症との関連性、その状況に対処するための具体的な方法について詳しく解説します。


目次
・物盗られ妄想とは
・認知症と物盗られ妄想の関係性
・物盗られ妄想が起こる原因とは
・「犯人扱いされた!」物盗られ妄想の対応法
・物盗られ妄想がひどい場合には
・まとめ

執筆者画像
【監修】精神科、心療内科医、認知症診療医 ブレインケアクリニック名誉院長 ・一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長 今野裕之先生
順天堂大学大学院卒業。老化予防・認知症予防に関する研究で博士号を取得。大学病院や精神科病院での診療を経て2016年にブレインケアクリニック開院。各種精神疾患や認知症の予防・治療に栄養療法やリコード法を取り入れ、一人ひとりの患者に合わせた診療に当たる。認知症予防医療の普及・啓発活動のため2018年に日本ブレインケア・認知症予防研究所を設立。 著書・監修に「最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術(青春出版社)」など。 医師+(いしぷらす)所属。

物盗られ妄想とは

物盗られ妄想は、個人が自身の所持品が周囲の人に奪われたと信じ込む心理状態を指します。特に認知症の方々に見られることが多く、認知機能の衰えによる記憶の混乱や現実の誤認が原因で起こるといわれています。


自分の物をどこに置いたか忘れたことが原因なのですが、人間の心理として、いつもあるはずのところから自分のものがなくなっていると「誰かが持ち去った」と考えてしまいがちです。そのような場合、物を持ち去る機会が最も多いのは、家族などの身近な人間です。そのような考えが背景にあり、「財布を盗ったのではないか」、「誰かに盗まれた」と疑いを持ってしまうのです。自分の周りの人々を不当に疑うため、信頼関係を崩すことにつながりかねません。しかし、疑われた人は、物盗られ妄想の背後にある原因や認知症との関連性、対応法について知っていれば、適切に対処することができます。



認知症と物盗られ妄想の関係性

物盗られ妄想は、認知症のBPSD(周辺症状)の妄想によって起こる症状であり、人によって症状の頻度や度合いは異なります。


アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の方々によく見られますが、血管性認知症の方々では、出現頻度が低いとされています。また、地域によっても差異があり、欧米での多くの研究では性差による頻度の差を認めていないのに対し、日本では女性にこの妄想が多く見られる傾向があります。

妄想についての詳細は、こちらの記事(被害妄想が激しい原因は?家族ができる対処法から病院受診についても解説)をご覧ください。


物盗られ妄想が起こる原因とは

物盗られ妄想が発生する背景には、認知機能の低下、記憶障害、感情の変化など、複数の要因が複合的に関与しています。


記憶障害

認知症に伴う記憶障害は、物盗られ妄想の根底にある主要な原因の一つです。認知症の方々は、日常的に使用する物品の置き場所を忘れることが頻繁にあります。過去に置いた場所と現在の場所を混同することで、物の置き場所を勝手に変えられたり、盗まれたりしたと感じます。


無意識のうちに思い込みから物語を作り上げ、その結果、存在しない「盗難」が現実の出来事として記憶されます。さらに記憶障害により自分で物の存在を確認することが難しくなるので、疑念が確信へと変わっていきます。

記憶障害についての詳細は、こちらの記事(【記憶障害とは】原因や種類と対処法について)で解説しています。


不安感や怒りなど感情の変化

認知症の方々が経験する感情の変化は、物盗られ妄想を引き起こす重要な要因の一つです。特に、自身の身体機能の低下や周囲の状況に対する不安、孤独感、そして怒りなどの感情は、自分の状況を誤解するきっかけとなります。


不安や疑念が高まることで、周囲の人々への信頼を失い、他者が自分に対して不利益をもたらしていると思い込むことがあります。また、日常生活での小さな挫折や認知症によるフラストレーションが怒りとなり、その怒りが妄想的な思考へと発展することがあります。感情の変化は、認知の歪みを引き起こし、実際には存在しない事象や行動を信じ込む原因となります。


そのほか

物盗られ妄想の背後には、記憶障害や感情の変動以外にも、多様な要因が関与しています。環境の変化、身体的な不調、さらには社会的な要素まで、これらの要因は認知症の方々の妄想形成に影響を及ぼすことがあります。


環境的変化:新しい住環境への移動や、生活習慣の変化は、認知症の方々にとってストレスの源となり、妄想を引き起こす可能性があります。

身体的不調:痛みや不快感などの身体的な不調は、認知症の方々の心理状態に影響を与え、物盗られ妄想を引き起こす引き金となることがあります。

薬物の副作用:一部の薬物は、認知機能に影響を及ぼし、妄想や幻覚を引き起こす可能性があります。

社会的孤立:友人や家族との関係が希薄になることで感じる孤独感は、疑心暗鬼になりやすく、物盗られ妄想を引き起こす原因となることがあります。



「犯人扱いされた!」物盗られ妄想の対応法

物盗られ妄想を抱いている方への対応は、感情を尊重し、信頼を築きながら、安心感を提供することが重要です。以下に、物盗られ妄想が起こった際の対応法を紹介します。


落ち着いて話を聞く

物を盗られたと訴えることに対して、落ち着いて耳を傾けることは、症状の軽減と信頼関係の構築において非常に重要な役割を果たします。物盗られ妄想の症状が見られる方々の話を聞くうえでの具体的なポイントを紹介します。


話の内容を最後まで聞く:認知症の方々が自分の感じていることをすべて話せるように、じっくりと聞きます。中断せず、話を最後まで聞くことが重要です。

落ち着いた態度で接する:感情的にならず、落ち着いて話を聞くことで、認知症の方々も安心感を得ることができます。

安心を与える言葉を選ぶ:「一緒にいるから大丈夫だよ」「ここは安全だよ」といった、安心感を与える言葉を使う。

非言語的なサポートを提供する:肩に手を添える、手を握るなどの身体的な接触は、言葉以上に安心感を与えることがあります。ただし、不用意に触れるとかえって感情が高ぶってしまうことがあるので、むやみに触れるのはやめましょう。


否定しない

物盗られ妄想を持つ認知症の方々に対して、その感情や信念を否定しない対応は、不安や怒りを悪化させず、かえって安心感を提供する方法です。認知症の方々の現実感を尊重することは、心理的な負担を軽減し、信頼関係を築く上で重要です。


妄想の内容を直接否定しない:「そんなことはないよ」と直接否定するのではなく、「それは大変だね、困りましたね」というように、認知症の方々の感情に寄り添いましょう。

理解を示す:認知症の方々の言っていることが真実でなくても、その感情は本物です。たとえ疑われた場合でも感情を受け止め「あなたがそう感じるのは理解できるよ」「その気持ちわかるよ」と理解を示しましょう。


一緒に探す

物盗られ妄想に苦しむ認知症の方々を支える上で、失くしたとされるものを本人とともに探す行動は、認知症の方々に大きな安心感を与えるとともに、信頼関係を強化する効果があります。以下に、ともに物を探す際の具体的な方法と対応例を挙げます。


信頼感を育む:物を一緒に探すことで、犯人ではなく協力者であることを認識させ、信頼感を生むことができます。その際、「一緒に探しましょう」などと提案し、積極的に参加する姿勢を見せることで、認知症の方々の孤独感を和らげます。

探しものが見つかったときの反応:物が見つかった場合は、その喜びを共有し、肯定的な反応を示すことで、認知症の方々の自尊心を高めることができます。

もしも探しものが見つからない場合:見つからない場合でも、「一緒に探せてよかったね」「またあとで一緒に探そう」といった前向きなコメントで終えることが大切です。また、「大切なものはいつもあなたと一緒にあるよ」と安心を与えるような言葉をかけると良いでしょう。


話題を変える

物盗られ妄想に囚われてしまった認知症の方々にとって、気分転換は精神的な安定を取り戻すための有効な手段の一つです。本人が好きなことや趣味などを提案することで、認知症の方々の興味を引き、呼び起こすことが可能になります。


環境を整える

物が盗まれたと感じないように、大切なものの定位置を作るなど、環境を整えることも有効です。財布や本人が大切にしているものは、目に見える場所に置くようにし、定期的に置き場所を確認するとよいでしょう。



物盗られ妄想がひどい場合には

日常生活に大きな支障をきたすほど物盗られ妄想が深刻な状態に達した場合、精神的な安定を維持するためには、専門的な支援が不可欠です。以下に、深刻な物盗られ妄想に対応するための具体的な手段を挙げます。


かかりつけ医や専門家に相談する:認知症の方々の状態を詳細に説明し、必要に応じて専門的な評価や治療を受けるために、かかりつけ医や精神科専門医に相談します。

介護サービスの利用を検討する:在宅介護サービスやデイサービスなど、それぞれに適した介護サービスを利用することで、日常生活のサポートと精神的な安定を図ります。

カウンセリングやサポートグループの活用:認知症の方々や家族が感じるストレスや不安を軽減するために、カウンセリングサービスやサポートグループへの参加を検討します。

適切な薬物療法の導入:医師の指導の下、症状を軽減するための薬物療法を開始することが選択肢となる場合があります。

生活環境の改善:認知症の方々が安心して過ごせるような生活環境を整え、ストレス要因を最小限に抑えます。



まとめ

物盗られ妄想が起こった際は、落ち着いて本人の気持ちに寄り添いながら対処することが重要です。犯人として疑われることに対して、不快感を感じることがあるかもしれませんが、対応次第で本人との信頼関係構築にもつながります。対応が難しい場合には、なるべくはやく専門家に相談するようにしましょう。

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