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2023.04.03

嚥下とは?高齢者が誤嚥性肺炎を発症しやすい原因や予防方法を解説

嚥下(えんげ)は、食べ物や飲み物を摂取するのに欠かせない体のメカニズムの一つです。しかし、さまざまな要因によって嚥下機能が低下してしまうと、食べ物をスムーズに飲み込めなかったり咳き込んだりするだけでなく、命にかかわる重篤なリスクを招く恐れがあります。


本記事では、嚥下機能の低下に悩んでいるを対象に、嚥下機能が低下する原因や嚥下障害で見られる症状、改善する方法を分かりやすく解説します。


目次
・ 嚥下とは?嚥下の仕組みや工程について
・嚥下障害とは
・嚥下機能が低下する原因
・嚥下を補助するポイント
・嚥下機能を改善させるトレーニング方法
・嚥下機能の検査
・ まとめ

執筆者画像
【監修】医師 木村聡子 先生 
医学博士、日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本アレルギー学会専門医、補聴器適合判定医。大学病院、総合病院などを経て都内クリニック勤務。耳鼻咽喉科疾患全般において年齢層を問わず幅広く対応。丁寧な説明を心掛けている。

嚥下とは?嚥下の仕組みや工程について

食べ物を認識して口に入れるところから、それを飲み込んで胃に送るまでの一連の動作を摂食嚥下といいます。一般的に、摂食は「食べる」ことを意味し、嚥下は「飲み込む」ことを指します。この流れは、以下に述べる「先行期」「準備期」「口腔期」「咽頭期」「食道期」という5つの工程に分けられます。これらの工程のうち、口腔期から食道期の動作を嚥下としています。
それぞれの工程についてご説明します。


●先行期:食べ物を認識し口の中に入れるまでの段階で、認知期とも呼ばれます。目や鼻、手などで食べ物を認識し、固さなどを判断します。食欲を感じ、唾液の分泌が促されます。
●準備期:食べ物を口に入れ咀嚼します。歯で食べ物を噛み砕いて唾液と混ぜ合わせ、食べ物が咽頭を通っていきやすい柔らかい塊(食塊)にします。
●口腔期:舌を使って食塊を咽頭に送り込みます。口腔期あたりから嚥下が始まります。
●咽頭期:食塊を咽頭から食道の入り口へ運びます。気管に食塊が入らないように気管の入り口が塞がり、誤嚥を防ぎます。
●食道期:食塊が食道から胃に送られます。食道上部の筋肉が収縮し、食塊の逆流を防ぎます。


このように、嚥下はさまざまな器官が上手に連動してはじめて機能する、非常に複雑なメカニズムです。しかし、この優れたシステムも加齢などによって機能が低下してしまいます。


嚥下障害とは

嚥下機能が低下し、うまく飲み込めない状態を嚥下障害または摂食嚥下障害といいます。具体的な症状や嚥下障害に伴う健康上のリスクを説明します。


嚥下障害が起きた場合に見られる症状

嚥下機能が低下した場合によく現れる症状は、食べ物を飲み込むのが困難になる、むせるといったものが挙げられます。食事中のほか、就寝中にも症状が出ることがあり、さらに人によって現れる症状には違いがあるので、周りの人の注意深い観察が非常に大切です。


具体的な症状としては、食事中に飲み込むのに時間がかかる、食べこぼしが増える、食事を中断しがちで食べる量が減る、食後に声がガラガラしている、といった症状が現れることもあります。また、水分は喉頭や気管に入り込んでしまいやすいため、お茶や水などの水分を取りたがらなくなるのも症状の一つといえます。ほかにも、食後に痰がよく絡むようになったと感じるときは、嚥下機能が低下している可能性があります。


さらに嚥下機能の低下すると、食べ物がスムーズに飲み込みにくくなり、喉頭や気管に入り込んでしまう「誤嚥」を起こしてしまうことがあります。


誤嚥とは
唾液や食べ物が食道ではなく喉頭や気管に入り込んでしまう状態を指します。
詳細はこちらの記事(誤嚥とは?原因や誤嚥性肺炎等のリスク,自宅でできる予防のポイントを解説)で解説しています。


嚥下障害で生じるリスク

嚥下機能が低下し、嚥下障害を起こすと多くの健康上のリスクが生まれます。放置すれば命にかかわる場合もあるので油断できません。


嚥下障害によって食べ物をしっかり食べることが難しくなれば、栄養を十分に摂取できなくなる恐れがあります。また、食べ物や唾液と共に口内細菌が気管に入ると、誤嚥性肺炎を招くリスクがあるほか、しっかり飲み込めないと食べ物をのどに詰まらせ、窒息して死に至るケースもあります。ほかにも、嚥下障害により食事自体が苦痛になると、食事の楽しみがなくなりQOL(生活の質)が低下するという問題も生じます。


嚥下機能が低下する原因

嚥下機能の低下にはいくつかの要因がありますが、大きく機能的原因・器質的原因・心理的原因の3つに分けられます。それぞれを詳しく説明します。


機能的原因

舌やのど、食道など嚥下に関わる器官には異常がないものの、それらを動かす筋肉や神経に障害があることで嚥下機能の低下が見られるケースを機能的原因といいます。加齢に加え、脳血管障害、脳腫瘍、パーキンソン病、筋炎などの疾患により、筋肉や神経に異常が起きる場合があります。嚥下機能の低下する機能的原因としては、とくに脳血管障害と加齢による割合が高いので、この2つについてさらに詳しく説明します。


機能的原因1:脳血管障害(脳卒中)

脳血管障害(脳卒中)とは脳の血管が詰まったり破れたりする重篤な疾患で、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが含まれます。高血圧が最大の要因とされています。
脳血管障害(脳卒中)を起こすと、嚥下機能にかかわる神経や筋肉に支障が出ることがあり、それが嚥下障害の原因となります。嚥下障害の原因疾患としてアルツハイマー病なども挙げられますが、全体の約60%を脳卒中が占めるとされています。脳卒中の発症から約2週間までの期間(急性期)には70%近くの人に嚥下障害が起きるといわれています。


機能的原因2:加齢

加齢も嚥下障害の大きな要因です。加齢に伴い、嚥下機能にかかわる筋肉が衰えたり、嚥下反射の反応が遅れたりするようになります。また、加齢による認知機能の低下も起こります。認知機能が衰えると、食べ物を食べ物として認識することが難しくなったり、集中して食べることができなくなったりします。
高齢になると、唾液の分泌量が減少しますが、それも嚥下障害を招きます。唾液は食塊をまとめる、食道に入ったあとスムーズに落下させるなど重要な働きがあります。しかし、唾液の分泌量が減ることで、食塊をうまく飲み込めなかったり食塊がのどで詰まったりするといった症状が出やすくなるのです。
歯周病や虫歯などが原因で歯が失われたり、義歯のかみ合わせが悪かったりすると、食べ物を十分に咀嚼できず、飲み込みやすい食塊が形成されにくくなるという問題が起きます。


器質的原因

口腔や咽頭、食道など嚥下にかかわる器官が障害をきたし、正常な動作ができなくなったことが原因で嚥下障害が起きることを、器質的原因といいます。
器質的原因として先天的な奇形以外に、炎症や腫瘍、切除など後天的な障害があります。たとえば口腔や咽頭で生じる障害として口内炎や歯槽膿漏、扁桃炎、咽頭炎、腫瘍などがあります。こうした炎症などによって咀嚼がうまくできなかったり食塊を食道の入り口に運ぶのがつらかったりすると、飲み込むのに時間がかかったりむせたりするといった嚥下障害の症状が出ます。
そのほか、食道で食道炎や潰瘍、食道狭窄、腫瘍などが原因で食塊が通る道が塞がれ、嚥下障害が起きる場合があります。


心理的原因

口腔や咽頭などに器質的な問題がなく、さらに病気など疾患に由来する機能的障害もないのに喉の違和感や飲み込みづらさが感じられる場合は、心理的原因が疑われます。心理的原因となりうるのはストレスや精神疾患です。ストレスは嚥下障害と強い関連性があることが指摘されています。ストレスで嚥下障害が引き起こされ、嚥下障害が新たなストレスの原因となるという悪循環に陥る恐れがあります。
精神疾患には神経性食欲不振症、心気神経症、うつ病、強迫性障害、パニック障害などがあり、これらの疾患の身体症状障害の一つに嚥下障害があります。


嚥下を補助するポイント

むせや咳など嚥下障害による症状を減らし、スムーズに飲み込めるようにするためにできる嚥下を補助するポイントを2つ紹介します。


嚥下食など飲み込みやすい食べ物を取り入れる

食材を咀嚼しやすい形や大きさ、嚥下しやすい柔らかさになるよう調理することで、食べ物を飲み込んだときに誤嚥するリスクを減らせます。これを嚥下食(嚥下調整食)といいます。たとえば一口サイズの大きさにカットする、筍やれんこんなど固い食材は柔らかくなるまでしっかり煮る、水分が少ないイモ類は、牛乳やスープなどに浸して水分を含ませるといった工夫をします。

さらに、市販のとろみ材でとろみをつける、マヨネーズなどの油脂、ゼラチンなどのゲル化剤をつなぎとして利用することで、ばらつきやすいひき肉を使った料理やみじん切り野菜を食べるのに役立ちます。お茶や水を飲むときにもとろみをつけたりゼリー状にしたりすると、むせが減り嚥下しやすくなります。


嚥下しにくい食材の特徴としては、粘りが強いもの、上あごやのどにくっつきやすいものがあります。たとえば海苔やお餅、団子などです。酢の物や柑橘類など酸味が強いもの、口の中に入れるとバラバラになるひじきやピーナッツなども飲み込みにくい食品です。ほかには、パン類、カステラ、クッキーなど水分が少なくパサパサしているものもむせやすい食品といえるでしょう。


食事中と食後の姿勢を意識する

椅子の座りが浅かったりあごを上げたりした状態で食事をすると、飲み込みにくさを感じやすくなります。正しい姿勢で食べるとむせを減らせます。背もたれのある椅子に座り、深く腰掛け背筋を伸ばします。テーブルとの距離をこぶし1個分ほど取ります。かかとをしっかり床につけ、あごを引きぎみにして食事をします。テーブルの高さにも気を配りましょう。腕を乗せてひじが90度ほど曲がるくらいが良いとされています。


ベッドの上で食事をするときも姿勢に気をつけましょう。無理がなければ上体を45度以上、可能であれば60度ほど起こします。頭の後ろや背中に枕やタオルなどを入れると、体勢が安定しやすくなります。ひざを曲げてひざ裏にクッションを置き、椅子に座っているような体勢を作ったあとは、足がずり下がらないように足裏にクッションを当てると良いでしょう。


食後は、すぐに横になると胃の中に入ったものが逆流する恐れがあるので、2時間ほどは状態を起こしたままにし、食事と睡眠の間には十分な時間をとってください。


嚥下機能を改善させるトレーニング方法

嚥下機能は加齢などの要素によって低下しますが、トレーニングを地道に積み重ねれば機能を改善させることが可能です。幾つかの方法を紹介します。


パタカラ体操

「パ」「タ」「カ」「ラ」の音を発声することで口周りや舌の筋肉を動かす体操です。一音ずつ数回発音し、それを数セット行います。


あいうべ体操

「あ~」「い~」「う~」「べ~」と、それぞれ1秒間ずつ発声します。顎関節が悪い人は「い」「う」から始めましょう。


嚥下体操

(1)口をすぼめて深呼吸をする

(2)首を回して肩を上下させる

(3)両手を頭の上で組んで上半身を左右に揺らす

(4)頬を膨らましたりすぼめたりする

(5)前後に舌を出し入れし、左右の口角を舌先でなめる

(6)息を強く吸い込み、「パ・タ・カ」と5回発音する

(7)口をすぼめて深呼吸する。

全部ができなくても問題ありません。できそうな項目からゆっくりやってみましょう。


唾液腺マッサージ

3か所の唾液が出やすいポイントをマッサージして唾液の分泌を促します。

(1)耳下腺マッサージ:噛みしめたときに膨らむ耳の付け根あたりに指を2、3本当て、円を描くように10回ほどマッサージします。

(2)顎下腺マッサージ:あごラインの内側にあるくぼみ部分を3、4か所順番に押します。1か所につき5回ほど押すとよいでしょう。

(3)舌下腺マッサージ:あごの真ん中あたりにある柔らかい部分に両手の親指の腹を当て、上に向かってゆっくりと押し上げます。10回ほど繰り返します。


嚥下機能は40代ごろから衰え始めるといわれています。早めにトレーニングを行うことで誤嚥性肺炎などの健康リスクを減らすことができます。


嚥下機能の検査

嚥下機能が正常かどうかを調べられる簡易検査(スクリーニングテスト)があります。具体的には、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)、フードテスト(FT)、頚部聴診法が挙げられます。RSSTは唾液を30秒間でどれだけ嚥下できるかを見るものです。3回未満は嚥下障害の疑いありと判断されます。MWSTは冷水3mlを嚥下させて誤嚥の有無を評価します。FTは3、4gのプリンなどを嚥下させてMWSTと同じように誤嚥の有無を見ます。頚部聴診法は嚥下前後の呼吸音と嚥下音を聴診して判断します。 嚥下機能の評価は一つのテストだけでは判断が難しいといわれています。そのため、複数の検査を受けて検査精度を上げたり、全身的所見や口腔の診察結果を組み合わせたりするなど、多面的なアプローチをした上で判断することが大切です。


まとめ


食事は体に必要なエネルギーを摂取するだけの作業ではありません。心を豊かにするなどQOL(生活の質)を高めることにも大きく関係しています。本記事で取り上げた嚥下を補助するポイントを参考に、食事の調理方法を少し工夫するだけで、今まで食べていたものをこれまで通り楽しむことが可能です。

心身ともに健康を保つためには、嚥下機能の低下を防ぐことはとても大切です。嚥下機能は訓練することで改善できます。トレーニング方法は自宅で簡単に行えるものばかりですので、ぜひ無理のない範囲で少しずつ取り入れていきましょう。


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