{{ header }}
{{ body }}
スキップ
2023.05.22

胃ろうとは?後悔しないために手術費用やメリット・デメリットを解説

高齢者の方と食事をする際、むせたり、せき込む場面が度々に見られることがあります。健康的な状態であれば、食べ物が食道に入っても排出する機能が働きますが、介護が必要な状態や病気・疾患を抱えている状態で、飲み込む力が低下したまま放置してしまうと様々なリスクを伴います。


そんなとき、健康状態が回復するまで口を介さずに必要な栄養を摂取する「胃ろう」を行う場合があります。この記事では、胃ろうとはどのようなものか、メリットとデメリット、また手術などにかかる費用や日常のケアなどについて分かりやすく説明します。


目次
・胃ろう(PEG)とは?
・胃ろうのメリット4点
・胃ろうのデメリット4点
・胃ろうのカテーテルの種類とそれぞれのメリット・デメリット
・胃ろうにかかる費用はどれくらい?
・胃ろう造設後に必要な日常のケア
・胃ろうの方の介護方法は?
・まとめ

執筆者画像
【監修】東京国際クリニック 医科 副院長 宮崎 郁子先生
東京医科大学医学部医学科卒業後、東京医科大学病院 消化器内科、東京医科大学病院 内視鏡センター助教、牧野記念病院 内科を経て、2015年より東京国際クリニック/医科 副院長を務める。 医学博士、総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、食生活アドバイザー

胃ろう(PEG)とは?


胃ろうを造設する手術をPEG(ペグ)といいます。PEGとは術式の頭文字を取った略語で、正式名称はPercutaneous Endoscopic Gastrostomy(経皮内視鏡的胃瘻造設術)です。この項では、胃ろうとはどのようなものか、胃ろうが必要になる人、さらに回復の見込みなどについて具体的に見ていきましょう。


胃ろうの目的

胃ろうは、患者の健康状態が回復するまで口を介さずに必要な栄養をしっかり摂取させることを目的とした栄養補給方法です。胃ろうを造設する術式をPEG(ペグ)といい、腹部に小さな穴を開け、カテーテルを通して直接栄養分を胃に流し込みます。
PEGは内視鏡を使用して行う手術のため、腹部の傷は数cm程度、手術にかかる時間は約15~30分、入院期間は1~2週間と短く、患者の身体への負担は軽いといわれています。


胃ろうが必要になる人とは

胃ろうは、重度の認知症や身体機能の低下などが原因で、口から食べ物を取るのが難しい人や誤嚥(ごえん)しやすい人などに適用されることがあります。


誤嚥(ごえん)
唾液や食べ物が食道ではなく喉頭や気管に入り込んでしまう状態を指します。
詳細はこちらの記事(誤嚥とは?原因や誤嚥性肺炎等のリスク,自宅でできる予防のポイントを解説)で解説しています。


全日本病院協会が発表した資料※によると、全国の胃ろう造設者は約25.6万人と推計されています。内訳は、一般病院が17万人、特養(介護老人福祉施設)と老健(介護老人保健施設)の入所者が約5.8万人、訪問看護ステーションの利用者が約2.8万人と推測されています。ただし、胃を手術した直後の人や腹水が溜まりやすい人、内視鏡が通らない人などは胃ろうが適用されません。この場合は頸部食道からチューブを通すPTEG(ピーテグ)が用いられます。

胃瘻造設高齢者の実態把握及び介護施設・住宅における管理等のあり方の調査研究


胃ろうから通常食に回復する見込みは?

胃ろうを造設した後でも口から食事を取ることが可能になり、通常食だけでも十分に栄養を摂取できるまでに健康状態が回復すれば、胃ろうを取り外せます。しかし、胃ろうは誤嚥性肺炎のリスクを避けるためのものなので、取り外せるようになるまでには地道な嚥下のトレーニングを積む必要があるでしょう。取り外した後は、3時間ほどで胃の粘膜が修復し、腹部の傷も次第にふさがっていき、最後にはほとんど目立たなくなります。


嚥下(えんげ)
食べ物を認識して口に入れるところから、それを飲み込んで胃に送るまでの一連の動作を指します。
詳細はこちらの記事(嚥下とは?高齢者が誤嚥性肺炎を発症しやすい原因や予防方法を解説)で解説しています。


胃ろうのメリット4点

栄養補給がスムーズにできることや生活に大きな支障を与えないことなど、胃ろうを造設することで生まれる4つのメリットを説明します。


①栄養補給ができる

嚥下機能の低下で口から食べ物を取り入れるのが困難になったり、食べられてもむせて思うように飲み込めなかったりすると、エネルギーが徐々に失われ、筋力や体力が少しずつ低下していきます。胃ろうを造設すると、生命維持に欠かせない栄養分を直接胃に送り込めるため、十分な栄養補給ができ、体重の減少も食い止めることが可能です。


②患者の不快感や介護者の負担が少ない

栄養補給には、胃ろう以外にも鼻からチューブを胃の中まで通す方法や静脈にカテーテルを留置して補給する経静脈栄養などがあります。胃ろうは、これらに比べると痛みや息苦しさなどが少なく、患者の不快感が軽減されます。さらに、栄養剤を注入するときの手間がほとんどかからず、介護者の負担が軽くて済みます。自宅でも栄養剤を注入できる簡便さもメリットの一つといえるでしょう。


③口から食べ物を取ることもできる

胃ろうは直接胃に栄養分を送るため、口から食べ物を食べる嚥下機能のリハビリや言語訓練がしやすい特徴もあります。口がふさがっていないので必要な栄養補給をしつつ、状態によっては食事を楽しむことも可能です。嚥下機能のリハビリが順調に行けば、胃ろうを外して、再び口から食事を取ることが可能になります。


④生活に大きな制限がない

胃ろうは造設する型によっては服で隠せるので、周囲の人に気づかれずに生活できます。また、医師から許可が下りれば、防水カバーなどで保護するといった特別な処置をしなくても入浴が可能で、運動も通常通りに行えます。行動制限もなく自由に外出が可能です。ほぼこれまでどおりの生活ができるので、生活の質(QOL)の面からも見てもメリットは大きいといえるでしょう。


胃ろうのデメリット4点

胃ろうには多くのメリットがありますが、デメリットといえる部分もないとはいえません。考えられる4つのデメリットを見ておきましょう。


①胃ろうの造設などには手術が必要

胃ろうの造設には外科手術が必要です。しかし、手術は内視鏡を使い短時間で行われるため、身体への負担は比較的小さいといえるでしょう。腹部に開けた穴に通したカテーテルが何らかの理由で抜け落ちてしまった場合、そのままにしておくと胃ろうの穴(ろう孔)がほんの数時間でふさがってしまいます。ふさがった場合は再手術が必要です。


②定期的なカテーテル交換が必要

胃ろうの造設後は、栄養分を胃の中に送り込むのに使うカテーテルを定期的に交換しなければなりません。胃ろうカテーテルは抜けないように「体外部」と「胃内部」の2種類の固定板で止められています。型によって交換時期は異なりますが、1、2カ月に1回または4~6カ月に1回のスパンで交換が必要となります。


③入念な口腔ケアが必要になる

口から食事を取らない場合も、これまでと変わらず歯ブラシやフロスなどを使った入念な口腔ケアが欠かせません。
口から食事を取らなくなると、唾液の分泌量が減少します。唾液には、感染を予防する免疫機能や食べかすなどを洗い流す自浄作用の役割があるため、唾液の分泌量が減ると、口内が乾燥して汚れが付きやすくなるだけでなく、口内細菌が増加し、細菌性肺炎になるリスクが高まります。


④唾液で誤嚥性肺炎になるリスクがある

胃ろうを造設することで食べ物による誤嚥リスクは下げられますが、唾液を誤嚥して誤嚥性肺炎に陥る恐れがあります。
また、栄養剤の誤嚥トラブルを起こすリスクもあります。栄養剤を注入する際の体勢が悪いと胃から食道の方向に逆流してしまい、誤嚥を招く恐れがあるので注意が必要です。


胃ろうのカテーテルの種類とそれぞれのメリット・デメリット

胃ろうのカテーテルには「体外部」と「胃内部」で使う2種類があり、組み合わせによって4パターンを選べます。それぞれのメリットとデメリットを説明します。

・体外部1:ボタン型

ボタン型はチューブが体外に露出していないため、目立たず動作の邪魔になりづらいメリットがあります。
また、間違って自分で抜いてしまうリスクがほとんどなく、栄養剤の逆流防止機能がついているのも大きな特徴です。しかし、チューブが付いていない特性上、栄養剤を注入するときにはチューブを準備し接続する手間と時間がかかります。


・体外部2:チューブ型

チューブ型は元からチューブがつながっているため、栄養剤を注入する際にボタン型のように差し込み口を閉じたり開けたりする手間が不要で、投与時の栄養チューブとの接続が簡単です。一方、チューブが露出しているため、誤って抜けてしまうリスクが高いといえます。

・胃内部1:バルーン型

バルーン型は形状が風船に似ており、蒸留水で膨らませることで胃の中のカテーテルが抜けないように固定します。カテーテルの交換は水を抜くだけです。ただ、バルーンは破裂する恐れが少なからずあり、破裂した場合は交換が必要です。また1~2カ月に1回の頻度で交換しなければいけません。


・胃内部2:バンパー型

バルーン型以外のものをバンパー型と呼びます。バンパー型はバルーン型と比べてカテーテルが抜けにくいメリットがあります。カテーテルの交換サイクルが4~6カ月に1回の頻度でよい一方、交換時に圧迫感や痛みを伴うケースがあり、身体への負担はバルーン型より大きいといえます。


胃ろうにかかる費用はどれくらい?

初めての胃ろう造設手術にはどれくらいの費用がかかるのか、また、胃ろうを交換する場合や胃ろうに用いる栄養剤の費用についても説明します。


胃ろう造設時にかかる費用

一般的に胃ろうの造設手術には10万円ほどかかりますが、手術や入院は医療保険が適応されます。高額療養費制度は食事代は対象外なので「入院の際は更に費用が高額になりますが、 その場合でも「高額療養費制度」の対象となる可能性があります


胃ろうの交換にかかる費用

胃ろうの交換は、使用しているカテーテルや型によって費用が異なります。
バルーン型は材料代が約8千円、手数料が約2千円かかります。バンパー型は材料代が約2万円、手数料が約2千円です。バルーン型とバンパー型の費用を比較すると、交換1回あたりの費用はバルーン型の方が安いですが、交換サイクルはバルーン型が1~2カ月に1回、バンパー型が4~6カ月に1回のため、長期的に見るとバンパー型の方がコストを抑えられます。


胃ろうの栄養剤にかかる費用

胃ろうの栄養剤は医療品扱いとなり医師が処方するため、医療保険が適応されます。
処方箋があれば調剤薬局や通販で購入できます。使用する栄養剤が1mlで1kcal、1日のエネルギー量が1,200kcalとすると、1カ月で2万~3万5千円ほどの費用がかかります。


胃ろう造設後に必要な日常のケア

胃ろうの造設後は、口腔や胃ろう周辺の衛生管理、カテーテルのチェック、栄養剤の逆流防止や自己抜去対策などをはじめ、日常の定期的なケアが必要となります。注意すべきポイントを取り上げます。


口腔ケアを入念に行う

歯磨きなどの口腔ケアをおろそかにすると、口内細菌が増えて口臭や感染症、気管支炎などを招く恐れがあります。万が一、病状が悪化すると、命に関わるケースもあります。歯磨きができない場合は、ガーゼやスポンジを湿らせて口内をやさしく拭く、舌の白い汚れを取り除くなどの方法が一般的です。しかし、自己流で行うと思わぬ事故を招きやすいので、口腔ケアは歯科医師の指導を受けて行いましょう。


胃ろう周辺は常に清潔にする

胃ろう周辺は肌が赤くなる、腫れる、膿が出るといった皮膚トラブルが起きる可能性があるため、常に清潔を保つことが大切です。入浴時は、胃ろう周辺をボディソープや石鹸などを使い、なでるようにやさしく洗いましょう。入浴後は、しっかり乾かし清潔な状態を保ってください。病気やケガのために入浴ができないときは、温かく湿らせたガーゼや綿棒などを使って胃ろう周辺の汚れを拭くとよいでしょう。


栄養剤注入時や注入後は姿勢に注意して逆流を防ぐ

栄養剤を注入するときや注入した後は、逆流に注意してください。横たわったまま注入すると栄養剤が食道に逆流し、誤嚥を起こす恐れがあるため、上体を30度以上起こしてから流し込むようにしましょう。注入後1時間程度は上体を起こしたままにし、逆流のリスクを減らしてください。栄養剤注入時にどのような体勢でも逆流を起こしやすい人は、液状の栄養剤に粘度を加えて半固形化させた「半消化態栄養剤」を検討してみましょう。逆流のリスクを減少させることができるといわれています。


カテーテルのチェック

バンパー型のカテーテルは、動かさずに固定したままにしておくと胃壁に埋没する恐れがあります。そのため、最低でも1日1回はカテーテルを回転させましょう。バルーン型を使用する場合は、バルーン内の水が抜けていないかを確認します。水は簡単には抜けませんが、1~2週間ぐらいの間隔で確認し、水量が減っていれば補充してください。

使用器具の衛生面に注意

栄養剤は高カロリーのため、清潔に保管しておかなければ雑菌が繁殖する可能性があります。栄養剤を入れる容器は、6カ月を目安に新品と交換しましょう。使用後の器具はきれいに洗浄し、しっかり乾燥させて埃などがつかない衛生的な場所に保管してください。


自己抜去を想定した対応を

認知症が進行している患者の場合、カテーテルをつけている意味が分からず、自分を抜いてしまうことがあります。このとき大切なのは、手術で開けた穴がふさがらないように早急に対応することです。チューブ型は抜ける可能性が高いため、自己抜去をする可能性の高い人には外れにくいボタン型がおすすめです。


胃ろうの方の介護方法は?


胃ろうは、食事介助が不要な人であれば自分で栄養剤を注入できます。介助が必要な場合、これまでは栄養剤を扱えるのは医師や看護師など医療行為に携わる人や家族でした。しかし今は法改正が進み、研修を修了していれば介護士でも対応が可能です。そのため、胃ろう患者の受け入れを表明している老人ホームも増えています。もし施設を探しているなら、胃ろうと痰の吸入に対応できる職員が24時間常駐しているかなど施設の体制がどうなっているかをしっかりチェックしておきましょう。



まとめ


胃ろうは、患者本人の判断力が低下している状態で造設するケースが多いため、延命治療と捉えられることが少なくありません。また人間の尊厳という観点からさまざまな意見が出ているのも事実です。しかし、胃ろうを造設した後でも嚥下トレーニングなどの訓練をしっかり受けられたら、胃ろうを取り外し、再び食事を楽しむことができるようになります。胃ろうの目的やメリット・デメリットを総合的に考え、さらに本人の意思をしっかり確かめた上で、胃ろうを造設するかどうかの決断をすることが大切です。


楽しく、あたまの元気度チェック(認知機能チェック)をしましょう

あたまの元気度チェックへ

メール会員のおもな特典

メール会員には、「あたまの元気度チェックの結果記録」に加え、以下のような特典があります。

身長や体重・運動習慣等を入力するだけで、将来の認知機能低下リスクをスコア化できます。

認知症や介護に関する最新のニュースやお役立ち情報を月2回程度お知らせします。

関連記事