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2024.02.01

ケアスタッフより、家族介護者の方へメッセージ~第17回~ 老老介護のご夫婦

日々、介護するなかで「このやり方で正しいのかな」と疑問や不安を感じたり、「こんなふうにしてあげたいのに、うまくできない」と悩まれたり、葛藤されたりする瞬間があるのではないでしょうか。


 お一人おひとりの状況に合わせておこなう介護の正解は、ひとつではありません。しかし、他の方のケア事例から感じ取れるヒントやメッセージもあるかと思い、本コラムでは経験豊富なSOMPOケアスタッフの介護エピソードをご紹介します。


目次
  ・今回のテーマ「老老介護のご夫婦」
  ・1年後ぶりにご夫婦再会するも自宅前には警察が……
  ・病識がない認知症のご夫婦
  ・信頼関係づくりの大切さ
  ・本人たちの意向と娘さんの思い
    ・ケアスタッフからのアドバイス

執筆者画像
SOMPOケア 雀宮 居宅介護支援 ケアマネジャー 比留間 恵美さん
東京生まれ東京育ち。6年前にケアマネジャーとしてSOMPOケアへ入社。介護職を目指したきっけは、友人が介護職員初任者研修資格(ヘルパー2級)を取得したことにより「私も」とヘルパー2級を取得。その後デイサービスで経験を積み介護福祉士を取得し、ショートステイ、特養を経験した後、ケアマネジャーの資格を取得。介護の信念は、誰に対しても誠実であること。行動の判断軸として、相手の立場で「自分だったらどうか」と置き換えて考えることを大切にしている。

今回のテーマ:老老介護(※1)のご夫婦

今回、私がご紹介するのは認知症のご夫婦のお話です。ご主人は90代、奥様は80代のふたり暮らし。当初はどちらも要介護1でした。最初の依頼は、他県に住んでいる娘さんからでした。


久しぶりに帰省したら家が散らかっており「とんでもないこと」になっていたと。ご夫婦は介護サービスの介入を「自分たちでできるから」と拒否されていました。その後なんとか信頼関係を築いて、デイサービスや訪問介護のサービス提供がはじまりましたが、結局本人たちの意向により3ヶ月で終了となりました。そして、サービスが終了してから1年後に再び私の元へ娘さんから電話がかかってきました。何事かと思って聞くと「父と母が大変なことになっている。様子を見に行ってほしい」と。


(※1)老老介護とは、認知症高齢者同士で介護している状況を指します。関連記事「【老老介護とは?】問題点と介護負担を減らすには」

1年後ぶりにご夫婦再会するも自宅前には警察が……

私がご夫婦のご自宅に到着すると、数台の警察車両が停まっていました。自宅前には数名の警察官がいて話をうかがうと、早朝、交番の前にご主人が立っていたとのことでした。


自宅を聞いても住所がわからない、名前もわからない、と混乱されている状況。言動も支離滅裂でしたが、なんとか警察官が身元を割り出して帰宅したとのことでした。奥様にお話しを伺うと「昨晩、現金を入れたバックを持って夫が出ていってしまった」「気づいたのが朝方で、慌てていたら夫が警察に連れられて帰宅した」とのこと。帰宅した時には現金の入ったバックは持っておらず、どこかに落としたのだろうとその時は判断されていました。


後日談ですが、その二か月後、現金の入ったバックは自宅で見つかりました。ご主人はその日、銀行から現金を引き出しており、それを見た奥様がバックごと台所に大事に仕舞いました。奥様はその事を忘れ、その日の夜にたまたまご主人が夜中に一人歩きをされたので、現金を持って出て行ったと勘違いをされたようです。実際はご主人はお金は持たずに外出しただけでした。ご主人はもともとレビー小体型認知症(※2)でした。以前はそこまで理解力の低下はない印象でしたが、これを機に再びサービスの介入がはじまりました。


(※2)レビー小体型認知症とは:脳内に「レビー小体」という異常なタンパク質が出現して起こる認知症です。関連記事「代表的な認知症3:レビー小体型認知症」

病識がない認知症のご夫婦

はじめてご夫婦にお会いしたとき、ふたりとも要介護度(※3)は「要介護1」でしたが、再依頼時のご主人は要介護3に上がっていました。ご主人は認知症の症状による幻覚が見えているようで、「10人と暮らしている」と言ったり、娘さんの名前が分からないこともありました。奥様もまた短期的な記憶が欠如している印象でした。しっかりされている部分と、そうじゃない部分があるといった感じでしょうか。ご主人の病気については認識できていないようでした。


ある夏の日、奥様から「主人に熱がある」と言われて訪問したのですが、室内は蒸し風呂状態。奥様は冷房のスイッチの入れかたが分からなかったようです。奥様はご主人が風邪をひいていると思ったのかもしれません。ご主人に布団とタオルケットをかけて、額にアイスノンを乗せている状態でした。意識レベルも落ちているようだったので、私がすぐに救急車を呼びました。診断は「熱中症」「脱水」に加え、腎機能障害も起こしていたようで、現在も入院中です。


(※3)要介護度とは:介護保険法により運用される「介護を必要とする程度」をさす指標です。関連記事「要支援と要介護の違いは?認定基準や使えるサービスの違いを解説」

信頼関係づくりの大切さ

ケアマネジャーとしてご夫婦に介入するときに、大切にしたのは信頼関係づくりでした。もともと前の担当だったケアマネジャーが「お手上げ」で、訪問しても家に入れてくれず「もういいです」と拒否を示されるご夫婦だったので娘さんに聞くと、もともと娘さんを信頼しておらず、そこからの依頼だと受け入れてくれない、という話になりました。


そこで、娘さんからの依頼ではなく「主治医の先生からの依頼」という形にして、娘さんと私は他人のふりをしてご夫婦と会うことにしました。これが良かったのか、ご夫婦とも主治医の先生からの紹介だと思ってくださって、信頼関係を築くことができました。娘さんからの依頼だとわかったら信頼されず介入できなかったかもしれません。

本人たちの意向と娘さんの思い

今は信頼関係が構築できていて、私のことを家族みたいに思ってくれているように思います。何かあると娘さんより私に連絡があるくらいです。これからについては、娘さんはあくまでも施設入所を希望しているのですが、ご夫婦ともご自宅での生活継続を希望しており、断固として施設入所を拒否されています。過去にはご主人が便失禁することがあり、奥様もそのときは「もう施設に入りなさい!」と言っていたのですが、しばらくするとそれ自体を忘れてしまう様子で、話が先に進まない状況です。先ほど話したとおり、現在はご主人が入院中です。


退院後はやはりご本人はご自宅での生活を継続したいという意向が強いようです。ただ、ご主人は入院生活で日常生活動作が難しくなっているので、自宅に帰るとしてもサービスの調整が必要な状態です。娘さんはご両親を心配されて、施設への入所をご希望されていますが、私達ケアマネジャーは出来る限りご本人の意思を大事にしたいと考えております。まずは訪問介護、訪問診療、介護ベッドレンタルなどの、サービスを調整しながら娘さんとも今後について話そうと思っています。

ケアスタッフからのアドバイス

今回のご夫婦は人に対する警戒心が強く、信頼関係を築くのが大変難しい例でした。娘さんの協力もあり信頼関係を築けたのですが、逆に「お金を取った」などの金銭的なトラブルにならないように、そこはしっかり一線を引くようにしていましたね。具体的な信頼関係作りで大切だったのは本人のところへ毎日行ったことです。


当時はサービスが介入できるか分からない状況だったのですが、「元気ですか」「大丈夫ですか」と声をかけに行っていました。サービスが一旦終了になった時期にもお会いしたこともありました。そのときは「携帯の使い方がわからないから」と連絡があって。サービスが終了になったときに、介護保険サービスの必要性が高い方だったので、付かず離れず見守っていこうと決めていました。


※次回は比留間さんがケアマネジャーとして介入した80代の夫婦の話です。


取材/SOMPO笑顔倶楽部  文/藤本皓司

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