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2023.12.06

認知症が寿命に与える影響とは 症状の進行と生活の心得

もしも、自身や家族が認知症と診断されたら、これからの生活のこと、仕事のこと、介護のことなど、さまざまなことを考えるでしょう。どのように症状が進行し、人生にどのような影響を及ぼすのか、今後の変化はとても気になるのではないでしょうか。


本記事では、認知症と診断されたあとの症状の進行や寿命について解説します。症状の進行に応じて、どのようにケアを進めていくべきなのか。どのように認知症に向き合っていけばよいのか。詳しく説明をしていきます。


目次
・認知症の症状の変化と進行について
・認知症になった人の寿命について
・認知症の人の寿命に影響を与える主な要素とは
・認知症との向き合い方

執筆者画像
国立長寿医療研究センター もの忘れセンター センター長 武田 章敬 先生
2004年国立長寿医療センター第一アルツハイマー型認知症科医長。2008年厚生労働省老健局認知症対策専門官。2010年国立長寿医療研究センター第二脳機能診療科医長。2013年在宅医療・地域連携診療部長。2016年から医療安全推進部長。2020年長寿医療研修センター長。2022年からもの忘れセンター長。

認知症の症状の変化と進行について

認知症の症状や進行スピードは、原因となる疾患や個人・環境によって大きな差があります。ここでは、認知症の原因として最も多いアルツハイマー型認知症について、症状の典型的な経過について説明します。


1.軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害(MCI)は正常と認知症の中間に位置する状態です。認知機能は低下しているものの日常生活にはほとんど支障のない状態を指します。MCIの人は、年間で約5~15%が認知症に移行すると考えられていますが、逆に正常に戻る人もいます。


アルツハイマー型認知症の前段階としてのMCIは同じことを何度も言ったり、物の置き場所がわからなくなるなどの記憶の障害を来すことが多くみられる一方、時間や場所の見当識は比較的保たれていることが多い状態です。


軽度認知障害(MCI)の詳細について、こちらの記事(MCI(軽度認知障害)とは? 症状や認知症との違い、予防法を解説)で解説しています。


2. 軽度認知症

認知機能の障害が進み、日常生活に支障が見られるようになると認知症と診断されます。日常生活活動には買い物や交通機関での移動、金銭や内服の管理といった手段的日常生活活動と呼ばれるものと、更衣や整容、食事や排泄といった身の回りの基本的日常生活活動と呼ばれるものがあります。


軽度の認知症では手段的日常生活活動に支障が出てきていますが、基本的日常生活活動は保たれている状態です。アルツハイマー型認知症では、手段的日常生活活動の中でも交通機関での移動や金銭の管理から困難となってくることが多いようです。認知機能は最近の記憶の障害が著しくなり、日付など時間の見当識の障害が明らかになります。


3. 中等度認知症

症状が更に進行して身の回りの基本的日常生活活動に支障が出てくると中等度認知症と呼ばれます。アルツハイマー型認知症では基本的日常生活活動の中で更衣が困難となってくることが多いと言われます。


認知機能では十分に学習した記憶のみが保たれ、新しいことはすぐに忘れてしまいます。また、ここがどこであるかといった場所の見当識の障害もみられるようになります。判断したり、問題を解決することも困難となってきます。


4. 重度認知症

身の回りの基本的日常生活活動が全面的に障害されると、重度認知症と呼ばれます。アルツハイマー型認知症で重度となるとわずかな断片的な記憶のみ残り、良く知っているはずの人でもわからないなど人に対する見当識障害がみられる場合もあります。また、判断したり、問題を解決することはできなくなります。家庭内でも家庭外でも意味のある活動は困難であり、身の回りのことに多くの手助けを必要とします。

アルツハイマー型認知症とは/原因や症状、治療法について

認知症のおよそ7割を占めるといわれるアルツハイマー型認知症。誰しもが発症する可能性のある疾患ですが、早期に発見して治療を始めれば、進行を遅らせることができます。 この記事では、症状や原因、診断方法、治療、対応や介護、予防方法について解説していきます。


認知症になった人の寿命について

これまでの調査研究では、認知症と診断された人の寿命は一般の人よりも短いと報告されていました。

国立長寿医療研究センターでは、もの忘れ外来を受診した人を対象として、認知機能正常、軽度認知障害、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症と診断された人のその後の状況を調査しました。


その結果、認知機能正常の人と比べて、軽度認知障害、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症の人では生存期間が短くなっていました。死因としては肺炎とがんが多く、血管性認知症では心疾患も多くみられました。


生存期間中央値は、軽度認知障害3,000日(8.2年)以上、アルツハイマー型認知症3,000日(8.2年)以上、血管性認知症2,397日(6.6年)、レビー小体型認知症2,290日(6.3年)、前頭側頭葉変性症2,586日(7.1年)でこれまでの研究(3年~6年)よりも長いことが示されました。


このように生存期間が長くなった要因として考えられるのは、一般の方への認知症に関する情報の普及・啓発が進んで早期に受診する人が増えたこと、抗認知症薬により進行が遅くなったこと、医療や介護保険サービスの進歩などが考えられます。この調査では、アルツハイマー型認知症の人で生存期間が短くなる要因としては、男性であること、診断時の認知機能が低いこと、教育歴が短いこと、BMIが低いこと(やせていること)、基本的日常生活活動が障害されていることが関係していました。一方レビー小体型認知症の人では男性であること、診断時の認知機能が低いことが生存期間を短くする因子であることがわかりました。


認知症の人の寿命に影響を与える主な要素とは

抗認知症薬

現在、認知症の人に使える薬としてドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンといったコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンといったNMDA受容体拮抗薬があります。主にアルツハイマー型認知症の認知機能の悪化を遅らせる薬ですが、これらの薬が認知症の人の寿命を長くする可能性が示されています。


また、これらの薬が使用できるようになってから世界的に認知症の人の寿命が、認知症のある人もない人も全て含めた寿命に近づいたというデータもあります。ただ、これらの薬もメリットばかりではなく、怒りっぽくなったり、ふらついたりといった副作用がある場合もありますので、一人ひとりの状態や家庭・社会環境も含めて判断する必要があります。


認知症の原因に直接働きかける疾患修飾薬と呼ばれる薬が間もなく使えるようになりますが、これらの薬が認知症の人の寿命を延ばす効果があるかどうかは今後明らかになると思われます。


抗精神病薬

認知症の人の興奮や妄想といった行動・心理症状(BPSD)と呼ばれる症状に対して抗精神病薬が使用されることがありますが、これらの薬の使用が死亡リスクを高める可能性が示されており、やむを得ない場合を除き、できるだけ使用しないことが推奨されています。


多剤併用

多くの薬を使用することは副作用が起こりやすくなったり、転倒しやすくなったりすることが知られていますが、認知症の人の死亡リスクを高くする可能性も示されています。お薬手帳を活用し、かかりつけ薬局を持ち、医師や薬剤師と使用する薬について相談することはあらゆる面で有益です。


認知症の人の寿命について説明してきましたが、まだまだわからないことの方が多いと言った方が良い状態です。また、生存期間を長くすることよりも、そのときそのときの人生の質を高めることの方に重きを置く人も少なくないと思われます。


認知症との向き合い方

かつて認知症になると何もわからなくなる、何もできなくなると恐れられていましたが、認知症になってもわかることはたくさんある、できることはたくさんあることがわかってきました。また、認知症になっても自分のやりたいことをあきらめず、笑って生き生きとその人らしく生きている人もいますし、人の役に立って喜ばれている人もいます。認知症になっても家に閉じこもらずに、外に出て、地域や社会とつながり、良き仲間とともにより良い地域や社会作りに尽力している人もいます。このように充実した人生を過ごすことが認知症の進行をゆっくりにしたり、寿命を延ばす効果があると現時点では証明されていませんが、いずれ証明されることを期待しています。


ご家族も一人で悩んだり孤立したりせず、ケアマネジャー、地域包括支援センターや認知症カフェ、家族会など相談に乗ってもらえるところはたくさんありますので、是非相談していただきたいと思います。また、介護保険サービスなどの制度を利用することはご家族の負担を軽減することになり、ひいてはご本人のためになることも少なくありません。


認知症の進行を遅らせる方法はまだ確立していませんが、心身ともに健康を維持することは、認知機能の低下を遅らせ、全体的な生活の質を改善します。多品目の食品をバランスよく、かつ適切な量(高齢者は栄養不良になりがちのため注意が必要)を摂取することは、脳や身体の健康を維持するために必要です。特に、青魚などに多く含まれ血圧を下げる効果のあるオメガ3系多価不飽和脂肪酸に加え、ビタミンB、D、E、および抗酸化物質を豊富に含む食事が推奨されます。また、適度な運動は心臓の健康を保ち、血流を改善します。これにより、認知機能の低下を抑制し、認知症の進行を遅らせます。


これらのことは認知機能だけでなく身体の健康にも良いことばかりです。認知症の人の死因について肺炎、がん、心疾患が多いと述べましたが、これは認知症のない人でもそれほど変わりはなく、認知症があろうがなかろうが健康に良いと思われることは行った方が良いと思われます。

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