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講演をする さとうみきさん
2023.10.18

若年性認知症当事者さとうみきさんからのメッセージ(後編) 認知症を“自分事”し、共生社会を実現するには

43歳のときに若年性アルツハイマー型認知症と診断された、さとうみきさん。認知症当事者が抱える不安や困っていること、日常生活での工夫などを社会に向けて発信しています。前編に続き、9月のアルツハイマー月間に開催されたセミナーの内容から、認知症の人たちと共に生きる社会を実現するためのヒントをお届けします。


前編はこちら(「ひと足先に認知症になった、わたしからあなたへ」


目次
・私が見た、経験した、認知症のこと
・苦手なことを克服するための工夫
・本人の目線で考える・工夫をする大切さ
・“できることは自分でする” 成功体験が自信につながる
・困っている人には声をかけてあげてほしい
・認知症を「他人事」ではなく「自分事」として捉えるには

執筆者画像
さとうみき さん
東京都在住。2018年秋、テレビドラマがきっかけで認知症を疑い、その年に医療機関を受診。2019年のはじめ、若年性アルツハイマー型認知症と診断された。現在、デイサービスで働きながら、メディアでの発信や講演活動などを通じて認知症に関する啓発活動を行う。2022年『認知症のわたしから、10代のあなたへ』(岩波書店)を執筆。令和5年9月1日より「とうきょう認知症希望大使」として活動をしている。

私が見た、経験した、認知症のこと

認知症のイメージで代表的なものは、もの忘れや一人歩きではないでしょうか。私が現在勤務している八王子のデイサービスでは、認知症の利用者さんが夜中に家を出て、一人で歩いて行ってしまったことがありました。ご本人に話を聞くと、「会社に行こうと思って家を出たものの、帰り道が分からなくなってしまった」とのことでした。自分の意思で、長年、勤務されていた会社に向かおうとしていたのです。


「一人歩き」といっても、ご本人にとっては何らかの理由や目的があって外に出ています。しかし、途中で記憶が曖昧になり、帰れなくなってしまう。その結果、行方不明になってしまう方もいらっしゃいます。


また、認知症の症状の一つに「視空間認知障害」というものがあります。視力が落ちるため、目の問題のように思われがちですが、認知症に伴う症状として高い確率で引き起こされます。目の前にあるコップを取ろうと思っても距離感がつかみづらかったり、お店などにある濃い色のフロアマットを見ると、足元が何もない奈落の底のように見えたりします。床に細かい柄や凹凸があるとデコボコして見えるので、「最初の一歩が踏み出せない」とおっしゃる方もいます。


他にも、視覚・聴覚過敏なども挙げられます。私自身、1年ほど前から聴覚過敏を発症しています。大きな音が苦手というよりは、そのときの体調によって苦手な音があります。例えば、雑居ビルの近くを歩いていると聞こえてくる、ネズミ除けの低周波装置の「キー」という音。普通の人ならば気付かないような音でも、頭に刺さるような耳障りで不快感があります。


認知症によって脳疲労も引き起こされます。よく認知症になると、怒りっぽくなる、無表情になると言われることがありますが、それは脳疲労によるものです。頭が混乱した状態になり、感情のコントロールができなくなるのです。健康な人であれば、眠っている間に頭の中の情報が整理されますが、認知症があると眠っても整理されないまま、起きてからもずっと脳が混乱している状態が続きます。私も経験がありますが、不安があっていろいろ考えこんでしまった翌日には、脳疲労になることがあります。


苦手なことを克服するための工夫

認知症の人が苦手なことはたくさんありますが、たとえ苦手なことでも上手に工夫をしながら生活をすることはできます。例えば私の場合、苦手なスケジュール管理は、活動パートナーと共有できるようなアプリを使っています。


また、認知症になると苦手になるのが家事です。私が一番難しいと感じるのは買い物です。スーパーに行くと、いろいろな音と香り、POPに書かれた文字など、あらゆる情報が脳に飛び込んできます。そうすると自分が買いたいもののリストが頭から消えてしまうのです。メモを持って買い物に行っても、情報が押し寄せた途端に、メモをどこに仕舞ったのかを忘れてしまいます。そこで携帯電話の背面にメモに貼り付け、必ず目に入るような工夫をしています。


言葉が出にくくなるのも認知症の症状の特徴です。私の感覚では、伝えたい言葉は頭の中あるものの、どもってしまったり、うまく言葉にすることができなかったりします。本人は慌てますし、イライラもします。だから、もし皆さんの周りに言葉が出にくい人がいたら、急かさず待ってほしいと思います。待ってもらえば、言葉に詰まりながらでもゆっくり話すことができます。認知症の人は会話の内容を整理することが難しいので、会話をするときには1つ1つの質問を短く簡潔にしてください。できるだけ要点を絞って伝えてもらうことで、うまく会話ができます。

時間の感覚も分かりにくくなるので、私の家にはデジタルとアナログの両方のタイプの時計を置いています。また、忘れ物に注意するためには、もの忘れ防止タグなどがあります。お財布や鍵にタグをつけ、スマートフォンのアプリと共有すれば、失くしたときに音を鳴らして場所が分かります。電池式のものもありますので、スマートフォンを持っていない方にもおすすめです。


本人の目線で考える・工夫をする大切さ

日常生活における工夫で大切なのは、認知症当事者の目線で考えることです。ご家族が一方的にやってしまうのではなく、当事者と一緒に、どうすれば目に入りやすいか、分かりやすいかを考えていきましょう。

認知症の人に多く見られる視空間認知障害があると、洋服を着替えるときに袖に手を通すことや、ボタンをかける、ファスナーを上げるといった動作に時間がかかります。このような症状が出てきた場合は、ご家族は焦らずに、一緒に工夫する方法を考えてあげてほしいと思います。


例えば、大好きなワンピースを着たいと思っているのに、突然、ゴムが入ったスカートを履くように言われたらどうでしょうか。好きではない洋服を着なければならなくなったら、がっかりしてしまいますよね。ワンピースを着たいのであれば、ボタンのない羽織るタイプのものを選んだり、マジックテープに替えたりすることもできます。本人が好きなものをどうすれば着られるのかを、ぜひ一緒に考えてあげてください。


若年性アルツハイマー型認知症は、まだ働き盛りの若い年代で発症します。以前と比べれば、仕事を辞めずに働き続けるという選択肢も考えられるようになってきました。もし一緒に働く人たちの中に若年性アルツハイマー型認知症の人がいたら、なるべくその人の目を見て、ゆっくり話しかけてあげてください。そして質問は1つずつにして、結論を先に言うようにすると伝わりやすくなります。

認知症になると視線が上にいきにくい方がいます。そのため案内板が高い位置にあると目に入りません。床に表示したり、低い位置に配置されていたりすると、スムーズに見ることができます。色分けや番号などで伝えてもらえるのも分かりやすいです。


相手の目線に立って考えることは、認知症の人に対してだけでなく、高齢者やあらゆる立場の人に向けて大切だと思います。同じ目線で物事を見ることで、相手が何を思っているのかを感じとることができるからです。


“できることは自分でする” 成功体験が自信につながる

私自身、認知症になり、はじめはできないことばかりに目を向けていました。家の鍵を挿したまま出かけたときには、家族から指摘されてケンカになったこともあります。でも、認知症になったからといって何もかもできないのではなく、私にもまだまだできることがたくさんあります。毎日、できないことや失敗を探すのではなく、できることに目を向けていきたいと思っています。


認知症は記憶が曖昧になっていくことがあります。家族で旅行に行っても、その思い出を忘れてしまうこともあります。そんなとき、家族はショックを受けるでしょうし、がっかりしてしまうと思います。でも、とえ忘れてしまったとしても、一緒に旅行をしているその瞬間は、楽しいと感じているのです。一緒に楽しい時間を過ごしたという事実は、記憶が消えてしまっても変わりません。


できることは自分でする、というのも大切です。私が認知症と診断を受けた直後は、家族も優しさから、家事を引き受けてくれました。私の様子を心配して「今日はもうやらなくていいよ」と言われることも多々ありました。


もちろん優しさから言ってくださっているのですが、前日までは一人で買い物に行っていたのに、認知症と診断された途端に「危ないから」と行けなくなるのは、違和感があります。もし自分だったらどうだろうか、大切な家族が言われたがどうだろうか。そんなふうに認知症を「自分事」として考えてもらえたらいいなと思います。


代わりにやってあげることは簡単ですが、たとえ時間がかかったとしても、1つでも自分でできたという成功体験があることが、本人の自信にもつながります。自分でできることは自分でする。それが家族の負担を減らすことにもなると考えています。


困っている人には声をかけてあげてほしい

講演をする さとうみきさん

その上で、困っている人やサポートが必要な人には、積極的に声をかけてあげてください。私自身、自分が認知症でありながら、これまでに認知症の方に声をかけて保護につなげた経験が何度かあります。意識して気にかけていると、街中で「もしかしてあの人は困っているかもしれない」と、自然と目が向くようになります。


ただ、そのときに注意が必要なのは、「大丈夫ですか?」と声をかけると「大丈夫です」と言われてしまうことです。日本人は特に「大丈夫です」と言ってしまう人が多いのではないでしょうか。そうした場面では「何かお手伝いしましょうか?」「お持ちしましょうか?」と具体的な言葉をかけるとよいと思います。直接、声がかけにくいときには、周囲の人やお店の人に知らせることでも助けになります。


認知症を「他人事」ではなく「自分事」として捉えるには

認知症は決して「他人事」ではありません。誰にでもなりうる「自分事」として捉えてほしいと思います。私が講演活動をしているのも、認知症になった当事者の声を発信することで、正しい知識を知ってもらいたい、認知症になることを恐れずにいられる社会になってほしいと願っているからです。


私たちが求めているのは、一方的な支援ではなく、本人の意志が尊重されることです。自分がされて嫌なことや恥ずかしいことは、認知症の人にとっても同じ。認知症になると怒りっぽくなると言われますが、それは嫌なことをされているからかもしれません。認知症の人が怒ってしまうときには、そこに必ず理由があると知ってほしいです。


私たちは「認知症の誰々さん」ではないのです。一人の人として当たり前に生きていきたい。自分事とは、もし自分が認知症になったら、大切な家族が認知症になったら……と、考えるところから始まります。そんなふうに自分事として捉えて関心を持つことから、この社会は変わっていくのではないでしょうか。



文/安藤 梢

【認知症当事者の体験談 まとめ記事】~当事者が語る、認知症との歩み~

認知症は、「100人いれば100通りの症状がある」と言われています。一人ひとり、症状が異なるため、発症のきっかけや症状の変化、日々のケア方法なども異なります。 本記事では、認知症当事者の方々のさまざまな体験談を紹介します。日々の予防やケア、認知症の当事者の介護の参考にしてみてください。

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