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講演で話をする さとうみきさん
2023.10.16

若年性認知症当事者 さとうみきさんからのメッセージ(前編) 「ひと足先に認知症になった、わたしからあなたへ」

43歳のときに若年性アルツハイマー型認知症と診断された、さとうみきさん。認知症当事者が抱える不安や困っていること、日常生活での工夫などを社会に向けて発信しています。今回は、アルツハイマー月間に合わせて開催された、啓発セミナーの内容を前編・後編に分けてお届けします。


前編では、さとうさんのこれまでの歩みや活動、家族との暮らし、日常の様子をお話いただきました。


目次
・ドラマがきっかけで物忘れ外来を受診
・目に飛び込んでくるのは、ネガティブな情報ばかり
・引きこもり生活から社会との結びつきを求めて
・認知症当事者を孤立させないために
・「かわいそうだとは思わないでね」支えてくれた家族の存在
・失敗を笑いに変えて、毎日が宝探し

執筆者画像
さとうみき さん
東京都在住。2018年秋、テレビドラマがきっかけで認知症を疑い、その年に医療機関を受診。2019年のはじめ、若年性アルツハイマー型認知症と診断された。現在、デイサービスで働きながら、メディアでの発信や講演活動などを通じて認知症に関する啓発活動を行う。2022年『認知症のわたしから、10代のあなたへ』(岩波書店)を執筆。令和5年9月1日より「とうきょう認知症希望大使」として活動をしている。

ドラマがきっかけで物忘れ外来を受診

私は、今から4年前、2019年に若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けました。現在は、夫と21歳になる息子、甥っ子、愛犬と暮らしています。高齢の父に食事、買い物などのサポートをしながら、若年性アルツハイマー型認知症について知ってもらうための講演会活動を行っています。


私が認知症の診断を受けたきっかけは、2018年の秋に放映された「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS系)というドラマでした。主人公は若年性アルツハイマー型認知症と診断された女性で、私はドラマを通して初めてその病名を知りました。回を重ねるごとに、物忘れがひどくなる主人公。ドラマのストーリーを通じて、症状が進行していく様子を見ていく過程で、私はあることに気が付いたのです。


「自分にも同じようなことが起こっている」。

当時は意識していませんでしたが、こんなことが起きていたんです。


ある日、自宅に突然、ガス業者の方が点検作業に来ました。家の中が片付いていなかったので「また改めて予約をして来てください」と伝えました。ところが、業者の方からは「奥さんが事前に予約をされたので今日来たんですよ」と。自分が電話で予約をしたという記憶がすっぽりと抜け落ちていたのです。それまでは、ぼんやりとでも自分がしたことを思い出すことができていたのに、全然思い出せず、記憶が欠落している感覚がありました。


ドラマを見たときにそうしたことが思い当たり、年が明ける前に物忘れ外来を受診。その日のうちにMRI検査や記憶を検査するテストを受けました。気軽な気持ちで受診したのですが、実際にテストを受けてみると思ったような回答ができませんでした。そこで初めて自分に何か起きているのではないか、と不安になりました。


そして年が明けたころ、私は、若年性アルツハイマー型認知症だと診断を受けたのです。


目に飛び込んでくるのは、ネガティブな情報ばかり

診断を受けてから、自分の病気についてインターネットで調べました。「若年性アルツハイマー型認知症」と検索をすると、「寿命○年」などネガティブな情報ばかりが目につきます。ドラマの主人公も診断から10年で亡くなってしまうストーリーだったので、つい悲観的になり、「私の人生もあと10年なんだろうか……」と思ってしまいました。今もそうですが、認知症についての正確な情報や当事者の声は、なかなか届かない状況だったのです。私が今、発信活動をしているのも、そのときの困った経験があるからです。


当時は、息子が高校2年生になり、やっと将来が見えてきたところでした。それなのに今度は自分の介護で負担を背負わせてしまうのか、と思うと気持ちが塞ぎました。ショックで半年間は自宅に引きこもった生活をしていました。


引きこもり生活から社会との結びつきを求めて

引きこもりの生活から外に出ようと思ったのは、息子の存在があったからです。私の息子は生後3、4カ月の健診で発達の遅れを指摘され、2歳のときに自閉症と診断されました。一人っ子なので、私や夫がサポートできなくなったときに、この地域で一人で暮らしていかなければなりません。そのときのために、私は自分の認知症のことをカミングアウトし、周囲の人たちに息子を支えてもらえるようにしたいと考えるようになりました。


認知症になった今、地域や社会とのつながりの大切さをより実感しています。私は今、八王子のデイサービスで、認知症の当事者として働いています。その施設では利用者の方たちが地域の活動を有償ボランティアとして行い、そこからメンバーさんたちにお給料をお支払いしています。


デイサービスで働いていると、高齢者の利用者さんから「まだまだ働きたい」「誰かのために何かしたい」という声を多く聞きます。地域のボランティア活動でも、家族に料理を作ることでも何でもいい。とにかく自分が地域や社会、家族のためにできる役割を持っていることが、重要なのだと思います。

認知症当事者を孤立させないために

認知症になると「孤独」や「孤立」を感じることがあり、私自身もさまざまな場面で感じた経験があります。


「さとうさんには分からないでしょう」と思われて、話に入れなかったこと。会議や打合せの場にいても、私以外の人たちの間で話が進んでいく。まるで私がその場にいないかのように……。もしかしたら聞いたことをすぐに忘れてしまうかもしれません。でも、みんなと同じように、意見を求めたり、話をしてほしいんです。


もし皆さんの周りに認知症の人がいたら、「認知症だから分からない」と決めつけずに、情報を共有してあげてください。認知症になっても地域や社会の中で役割を持ち、「孤独」や「孤立」を感じることなく生きていけたら、きっと認知症の人以外にとっても暮らしやすい社会になるのではないかと思います。


私が講演会などの活動で情報発信をしているのも、そこに社会との結びつきがあるからです。デイサービスで働き出したことをきっかけに、現在は八王子市内の小学校に行き、子どもたちの前でお話をするキッズサポーター講座も担当しています。これからも全国に範囲を広げて、発信活動をしていきたいと思っています。


「かわいそうだとは思わないでね」支えてくれた家族の存在

私が若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けたとき、自分はこれからどうなってしまうんだろうという気持ちと同時に、家族に迷惑を掛けたくないという思いが込み上げてきました。隣にいた夫に、私は何度も泣きながら謝りました。「ごめんなさい、ごめんなさい」と。その時、夫は私の手をそっと握ってくれたんです。


息子も、息子なりの考えで、工夫をしながら生活をしてくれています。わたしの自宅の空気清浄機には、ある付箋が貼ってあるんです。息子の手書きの文字で「メンテナンスをするときは僕に言ってください」と。以前は注意書きがあっても目に入らないことがあったのですが、今では私の目線に立って考え、目に入りやすいようにと工夫をして貼ってくれるようになりました。


去年の夏、息子の言葉に驚かされたことがありました。息子の学校の先生とお話をするために、高校に行ったときのことです。先生には、私が認知症と診断されてから早い段階で、お手紙で病気のことをお知らせしていました。ところがその場に一緒にいた息子の友達は知らなかったので、私と先生のやり取りを見て「え!さとう君のお母さんは認知症なの?」とびっくりさせてしまったのです。そして息子に対して、優しさから「かわいそうだね」と。それに対して息子が言った言葉がずっと忘れられません。


――かあさんは認知症だけど、かあさんをかわいそうだとは思わないでね。


失敗を笑いに変えて、毎日が宝探し

私の日常には面白いことがたくさん起こります。台所の引き出しを開けたらお箸と一緒にケチャップが並んでいたり、携帯が冷蔵庫にあったり……。先日は、ゴーヤ料理を作ろうとしたら1本足りなくて、おかしいなと思いつつ作り終えて、冷蔵庫を開けたところでドリンクホルダーに刺さっているのを発見しました。


毎日、「こんなところになぜ?」と思うようなことばかりです。そんな失敗があると、これまではショックを受けて、家族に見つからないようにこっそり戻したりしていたのですが、最近では失敗してもFacebookで「こんなことがあった!」と笑い話にして投稿しています。みんなに笑ってもらうことで、私もスッキリして、気持ちを切り替えられるようになりました。今では、自分の失敗も楽しみながら、毎日が宝探しのようだなと感じています。

もしかしたら皆さんの身近にも、認知症の人やその家族がいるかもしれません。私たち当事者は自分が変化していくことに不安がありますが、それを支える家族はまた違った不安やつらさがあると思います。認知症の人もその家族も、近くにいる誰かが気にかけてくれることが救いになります。近くに困っている人がいたら、ぜひ声を掛けてあげてほしいです。私は認知症があってもなくても、誰しもが安心して暮らせる地域と社会になることを願っています。


後編はこちら(若年性認知症当事者さとうみきさんからのメッセージ(後編) 認知症を“自分事”し、共生社会を実現するには


文/安藤 梢

【認知症当事者の体験談 まとめ記事】~当事者が語る、認知症との歩み~

認知症は、「100人いれば100通りの症状がある」と言われています。一人ひとり、症状が異なるため、発症のきっかけや症状の変化、日々のケア方法なども異なります。 本記事では、認知症当事者の方々のさまざまな体験談を紹介します。日々の予防やケア、認知症の当事者の介護の参考にしてみてください。

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