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2021.02.19

【認知症専門医アドバイス】認知・身体機能の低下を予防するには? 新型コロナウイルス感染症予防のポイントや家族介護者の心構え

新型コロナウイルス感染症の流行が長期化し、認知症の方やご家族にとって不安な状況が続いています。「感染予防はどうしたらいい?」「認知症への影響が気になる」など、心配事を抱えている方も多いのではないでしょうか。収束の見通しが立たない日々をどのように過ごせば良いか、認知症の方やご家族のために感染対策パンフレットを作成した、広島大学大学院の石井教授にお話を伺いました。コロナ禍における介護現場の実情や、浮かび上がってきた課題についても考えていきます。


石井伸弥教授

広島大学大学院医系科学研究科 共生社会医学講座寄附講座教授。認知症地域包括ケアを含めた地域共生社会の実現に貢献することを目的として研究を進めながら、認知症専門医としても診察を行う。日本総合内科専門医、日本老年病科専門医、日本認知症専門医、米国内科専門医、米国老年病専門医、公認心理士。



――新型コロナウイルス感染症の流行が長期化し、これまでとは違った生活スタイルで過ごすことが増えてきました。しかし、認知症の方にとっては、新しい生活様式に慣れるまで困難なことも少なくなく、たとえば外出時はマスクの着用が推奨されていますが、認知症の方の中にはマスクをしたがらない方もいらっしゃいます。


石井教授が作成されたパンフレットには、そのような例と対応策が数多く紹介されていて、家族介護者にとって、まさに「こういうものが欲しかった」という内容になっていると思います。パンフレットを作成するに至った理由や、背景などを教えていただけますか? 


「もともと私の講座では、コロナ禍において、認知症の方やご家族にどのような支援が必要かについて調査研究を行っており、私自身も認知症の方を診察する中で、何かできることはないかと考えていました。そのような中、2020年の6月から7月にかけて、全国の医療介護施設や認知症疾患医療センター、ケアマネージャーの方などを対象に調査を行ったところ、認知症の方が新型コロナウイルス感染症に対応するには、さまざまな課題があることがわかってきました」

パンフレット

認知症の方のコロナ対策で、浮かび上がってきた3つの課題

「第一の課題は、感染予防そのものが難しいということです。認知症の特性上、記憶力や理解力が低下することがあり、マスクをずっとつけていられなくなったりします。ほかにも、ニュースで最新の感染状況を知るなど、日々の情報をアップデートするのが難しくなる場合もあり、感染予防に支障が出てしまう恐れがあります。


第二の課題は、認知症の症状への影響です。たとえ感染予防ができたとしても、3密を避けるために外出自粛をすると、体を動かす、社会的な触れ合いなど、外部から刺激を受ける機会が失われてしまい、認知機能や身体機能の低下といった悪影響が生じてしまう可能性があります。 


そして第三の課題は、感染した場合のリスクです。認知症の方は高齢者が多いので、感染した場合に重症化するリスクが高いと言われています。さらに、感染そのものの心身への負担で認知症の症状が悪化してしまったり、せん妄が発生してしまうこともあります。それにより感染拡大を防ぐための隔離など、治療に必要なことをするのが難しくなってしまう場合もあります。 

このように、認知症の方は新型コロナウイルス感染症の予防そのものが難しいだけではなく、予防をしても悪影響が生じやすく、感染したらきめ細かい対応が必要 ……と、さまざまな段階で課題があることがわかってきました」


コロナ禍の介護現場は日々の業務がひっ迫し、悪循環に陥っている状況

――多くの課題があることを考えると、今後、認知症の方に対してしっかりとした取り組みを行う必要があると思われます。そのためには、やはり初期段階で感染予防を徹底することがいちばんでしょうか。


「その通りです。ただ、先にも述べましたがそれは簡単なことではありません。介護現場では、感染予防の取り組みが介護事業所にとって大きな負担となり、日々の業務がひっ迫した状況になっています。そして、感染拡大の影響で介護事業所が休業したり、サービスを中断すると、利用者は運動の機会が減少したり、社会的な触れ合いの機会を喪失し、その結果、認知症の症状悪化、身体機能の低下などの影響が出ることになります。 


認知症の方の身体機能が低下すると、感染したときに重症化するリスクの高まりなどに繋がりますし、認知症の症状悪化は介護事業所の日々の業務をさらに圧迫し、感染予防の取り組みをどんどん難しくしてしまいます。このような悪循環が、感染時の対応や、クラスター発生時の対応の難しさにつながっているのではないかと考えています」


図:「新型コロナウイルス感染症流行下において認知症の人に起こったこと」(作成:石井教授)

COVID-19

「これを防ぐために重要なのは、介護事業所への支援です。介護保険サービスが中断すると認知症の方の生活に大きな影響が生じてしまうので、介護事業所の感染症対応力を上げたり、BCP(事業継続計画)をしっかり行うことが大切です。 ご家庭においても、感染予防を行うことは避けられませんが、その上で運動機会の減少や社会的な触れ合いの消失などが起こりにくくなるよう、またなるべく悪影響が起こらないよう、取り組んでいただきたいと思います。こういった悪循環を早い段階で食い止めるための一助になればと、パンフレットの作成に至りました」 


――パンフレットには、感染予防や外出自粛に伴う、認知・身体機能への影響をできるだけ減らすための日常生活の送り方が、細かく紹介されています。認知症の人とそのご家族が把握しておきたいポイントなどを教えていただけますか? 


「パンフレットには、日々の生活で心がけていただきたい3つのことを記載しています。1つ目は、新型コロナウイルス感染症の基礎知識、そして認知症の症状に合わせた感染予防の具体的な方法です。たとえば、マスクや手洗いをしようとしない、ご家族がマスクを着用したとき意思疎通が難しくなる、感染予防の必要性が伝わらない、家の中や外を歩き回る症状がみられる場合など、さまざまなケースについて、どう対応すれば良いかをアドバイスしています。 


2つ目は、介護保険サービスが縮小したときや、ご家族が感染した場合に必要な準備について紹介しています。介護保険サービスに関しては、日ごろからケアマネージャーと相談して、代替サービスを検討しておくことと、ご家族が介護を担う必要が生じる場合もあるので、その準備もしておくのが大切です。 

もしご本人が感染したら、一時的に認知症の症状が悪化したり、せん妄がみられ、意思表示が難しくなることがあるので、普段からご本人の思いや価値観を共有するようにしてください。ご家族が感染した場合は、どのサービスを利用して認知症ご本人の生活を守るのか、あらかじめ検討しておきましょう。


そして3つ目は、コロナ禍でも認知・身体機能をできるだけ悪化させないために、毎日続けていただきたいことを紹介しています。もっとも大事なことは、できるだけ今まで通りの生活を続けること。具体的には、生活リズムを保つ、3密を避ける形での交流を継続し、地域での顔なじみの関係を保つ、自宅での運動を取り入れ、続けることが大切です」 

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日常生活を支える重要な介護サービスは、感染対策をしたうえで、できるだけ継続を

――パンフレットでは、介護保険サービスが縮小した場合についても触れられています。実際に一部のサービスを受けられなくなったり、感染を恐れて、みずからサービスを断る方もいらっしゃるようですが、石井教授はこのことについて、どのように思われますか。


「昨年、ケアマネージャーの方を対象に行った調査では、『介護サービスの利用状況に変化があった』という回答が約8割を占めていて、その中でほとんどの方が『一部のサービスが受けられなくなった・受けなくなった』と回答しています。そして最終的には『ご家族が介護を担うことになった』という回答が7割を超えていました。 これは介護するご家族にとって影響が大きく、そのために『仕事を休んだ』という方が一番多く、その他にも『体調が悪くなってしまった』『抑うつ気味になってしまった』という方も2割を超えていて、身体的にも精神的にも、そして金銭的にも負担が大きいことがうかがえました(※1)。 


感染を恐れて介護サービスを断る気持ちもわかりますが、日常生活を支える重要なサービスもあります。なくなると生活に悪影響が生じるようなサービスについては、いろいろな工夫をしながら継続することも考えてみてはいかがでしょうか。また、ご家族が急に介護をすることになると、そのための準備が不十分だったり、逆に頑張りすぎてしまうケースがあります。そうするとすぐに疲れてしまったり、イライラするなど、努力が裏目に出てしまうことも。しっかり準備をしておけば、急に介護を担うことになった場合でも気持ちに余裕が生まれます。準備の際に気を付けるべきポイントはパンフレットでも紹介していますので、チェックしてみてください」 


(※1) ■介護サービス利用状況の変化に対し家族が介護した事による家族への影響 

(広島大学大学院医系科学研究科共生社会医学講座、一般社団法人 日本老年医学会、広島大学公衆衛生学講座によるオンライン質問票調査・2020年2月~6月頃)

・図に示した%は影響が見られたと回答した介護支援専門員の割合を示している。

・緊急事態宣言の対象となった7都道府県の回答者、特定警戒都道府県に指定された上記以外の6道府県の回答者、それ以外の都道府県の回答者に分けて結果を示した。


家族が介護したことによる家族への影響グラフ

もし新型コロナウイルスに感染したら?認知症の方が家に取り残されたら……

――コロナ禍において在宅介護をするご家族が気にされているのは、「もし家族が感染したら」ということです。ご家族の方へ、これだけは準備しておいたほうが良いというような事はありますか?


「実のところ一番難しいのは、認知症の方のご家族だけが感染して、ご本人は濃厚接触者になり、介護保険サービスが受けられなくなってしまうというケースで、これについては結論が出ていません。同居されている以外のご家族がいなかったり、遠方に住んでいてすぐに来られないとなると、認知症ご本人が自宅に一人で取り残される形になってしまいます。そうすると、しばらくの間は一人暮らしになるわけですが、この対応はとても難しく、解決方法が見つかっていません。東京都など一部の自治体では、介護家族が感染または濃厚接触者となって、要介護者が自宅で一人になったときに備えた支援の枠組みを準備しているので、そうした取り組みが拡がると良いと思っています」  


――認知症の症状によっても違いがあると思いますが、要介護の方にとって一人暮らしというのは厳しい状況ですよね……。


「認知症の症状が出始めて、最初に出やすい困りごとはお金と薬だと言われています。たとえば、日々のお薬がきちんと飲めない、お金が使えなくて買い物ができない……。このように薬とお金の2つがうまく管理できないと、すぐトラブルになりがちで、日常生活に支障が出てしまいます」 


――このようなケースは、親と同居する家族が減少し、核家族化が進んでいることなど、ほかに頼れる人がいない状況も関係しているのでしょうか。 


「そうですね。最近は、介護する方もされる方も高齢である『老老介護』や、認知症の方が認知症の方の介護をしている『認認介護』の世帯も増えています。新型コロナウイルス感染症の流行により、これまでそういった世帯への目配りが不十分だったことが浮き彫りになりました。現在、厚生労働省で認知症の方だけの世帯を対象とした調査研究を行っているということで、今後このような世帯を支援していく枠組みを作っていく必要があると思います」



コロナ禍だからこそ、介護するご家族もメンタルケアを大切に

――現在の状況は、認知症の方だけでなくご家族の方も、さまざまな面で負担が大きいと思います。感染予防にはご家族のサポートが必要不可欠ですが、ご本人がマスクをしてくれない……などの悩みを抱えている方も多いのが現実です。家族介護者はどのような心持ちでこのコロナ禍を乗り越えていけば良いのでしょうか。


「なるべく良い形で介護を続けるために大切なのは、ご本人とご家族の距離感です。距離が近すぎると介護が生活の中心になり、ご家族が認知症の症状に一喜一憂してしまうなど、ストレスが増加して、精神的に疲れてしまいます。また、過保護になりすぎるのも認知症の症状には良くないと言われています。ご家族のためにも、ご本人のためにも、適切な距離感を保つようにしましょう。 


感染予防に関しても、できるところはしっかり行い、それを超えたらできない部分もある、と割り切ることも大事だと思います。たとえば外出の際、マスクをしてくれないと周囲の目が気になり、そのストレスの矛先が『なぜマスクをしてくれないの』と、ご本人に向かってしまうことがあります。 


しかし、ご本人からすると家族が怒るからマスクをつける、でも忘れて外してしまう、また怒られる……、というふうに『よくわからないけれど怒られ続けている』状態になり、精神的に大きな負担となってしまいます。それを見て、ご家族もさらにストレスを感じ、イライラの悪循環に陥ってしまう。感染予防も介護も、何から何まで真面目にやろうとすると追い詰められてしまいます。ときには配食サービスやテイクアウトを利用するなど、少し気を休める機会を作りましょう。 


また、認知症の方だけでなく介護する側も、社会的交流が減るとストレスを発散する機会を失ってしまうので、ご自身のメンタルヘルスを意識して、人と関わる機会を作ってみてください。みなさん不安を抱えていると思いますが、このような状況下で健康を維持しながら生活できているという事自体が、ご本人やご家族の取り組みの成果です。そのことに自信をもって、今の取り組みをできるだけ続けていきましょう」 


新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、認知症の方のご家庭にも、介護の現場にも、想像以上にさまざまな影響が生じていることがわかりました。認知症の方やご家族にとっては不安なことも多いと思いますが、感染予防も介護も、今行っている取り組みは必ず明日につながります。迷ったときはパンフレットのアドバイスも参考にしてみてください。


■パンフレットは無料でダウンロードできます。ダウンロード、詳細は以下の外部リンクをご覧ください。

http://inclusivesociety.jp/project.html


パンフレット

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