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2020.12.25

【医師アドバイス】新型コロナ・インフルエンザの感染予防、在宅介護はどこまでするべき? ~後編~

現在、第三波が到来している新型コロナウイルス感染症。季節柄、インフルエンザとの同時流行も懸念されています。自分や家族を守るため、今やるべきことは? 前編に引き続き、お話を伺ったのは長年在宅医療に携わり、感染症や認知症にも精通している佐々木 淳先生。ここでは、長期化するコロナ禍での感染症予防と、日常生活を送るうえでのバランスの取り方や、認知症への影響などについて伺いました。(取材日:2020年11月30日)
前編はこちらよりごらんください

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医学博士 医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 佐々木淳先生
筑波大学医学専門学群卒業。社会福祉法人三井記念病院内科/消化器内科、東京大学医学部附属病院消化器内科等を経て、2006年に最初の在宅療養支援診療所(MRCビルクリニック)を開設。2008年 医療法人社団悠翔会に法人化、理事長就任。現在、首都圏15の診療拠点において24時間体制の在宅総合診療を行っている。

基本的な感染予防は必須。ただ、過度に生活上の制限をかけているケースも……

――前編では現在の感染状況や、高齢者が感染した場合のリスク、インフルエンザを含めた予防法などを伺いました。現在(※1)、首都圏や北海道、愛知、大阪などは感染の第三波と言われる状況にあり、繁華街などにおける若者の感染が多かった第二派に対し、家庭内感染・職場内感染が目立ち、入院患者数、重症患者数も増えています。この状況を受け、これまで以上に感染予防につとめる方が多い印象を受けます。


「新型コロナウイルスは、とくに高齢者が重症化しやすく致死率も高いので、家庭内に持ち込まないために、同居されているご家族なども注意が必要です。感染予防の点ではマスク・手洗い・アルコール消毒・換気を行うことがとても大切である一方、感染を恐れるあまり、「それは本当に必要なのか」という過剰な予防をしていたり、生活上の制限をしている場合も見受けられます。ここで改めて、何のためのマスクなのか、何のための換気なのか、感染がどんな風に起こるかを考えて予防、行動することが大事で、そうすれば必要以上の制限はなくなると思います」 


(※1)取材は2020年11月30日に行いました。


感染拡大により、認知症の症状が悪化したという研究結果も

「感染予防のため、必要以上に生活制限を厳しくしている実際のケースとして、在宅介護で『家に歯科医を呼ぶのが怖いから』と、口腔ケアをやめてしまった方がいました。しかし、誤嚥性肺炎で亡くなる方は年間10万人以上います。口腔ケアを中止して誤嚥性肺炎になるリスクのほうが、実はずっと高いのです。 予防を徹底すれば新型コロナウイルスには感染しないかもしれませんが、それでほかの病気にかかったりしたら本末転倒ですよね」 


――確かに、感染予防を徹底するあまり、日常生活や健康面に影響が出てしまうのも問題です。認知症においても、外出を控えたり人との接触を避けることで、かえって症状に影響があるのでは……という不安の声があるようです。 


「そうですね。広島大学の研究では、新型コロナウイルスの感染拡大によって認知症の高齢者の身体機能・認知機能が低下したという報告がありました。それだけでなく、家族が介護をすることが増え、そのうち約4割に仕事への支障があったほか、約2割は収入が減る、約3割が抑うつ気味になった……(※2)ということも明らかになりました。このように、認知症の方だけではなく、介護をする家族にも影響が出ているのが現状です。もちろん感染予防は大切ですが、この状況がいつ収束するかは分かりません。ですから新型コロナウイルスとある程度上手に付き合っていくことが、これからは大事だと思います」 


(※2)

広島大学の研究成果「新型コロナウイルス感染症の拡大により、認知症の人の症状悪化と家族の介護負担増の実態が明らかに ~全国945施設・介護支援専門員751人のオンライン調査結果~」より



感染拡大下において認知症者にみられた影響グラフ

新たなコミュニケーションツールを活用するのも手

――新型コロナウイルスと上手に付き合っていくために、私たちはどのような対応をすればいいでしょうか? 予防法としてのマスク・手洗い・アルコール消毒・換気は習慣化してきていますが、人との交流や、外出、旅行などはどこまでOKなのか、判断しにくいところがあります。


「人とのコミュニケーションに関しては、新たなツールを使うのもおすすめです。私が先日登壇した講演会では、オンラインで参加している約8割が高齢の方でした。ほかにも、ある地域の団体ではZoomで集会を行っていて、高齢の方もたくさん参加しています。私たちは先入観で『スマホやパソコンの操作は難しい、できないはず』と思いがちですが、セットアップさえ完了していれば、あとは使いこなせる方が多いのだと思います。こういった新しい形の交流もいいですよね」 


年末年始、遠くの家族や親戚に会ってもいい?

――今年はゴールデンウイークや夏休みの帰省を中止したケースが多く、年末年始を利用して、遠くに住む家族や親戚に会いたいという方が、たくさんいると思います。地域によって違いはあると思いますが、やはり会うのは控えたほうがいいでしょうか。


「ほとんど感染者のいない地域に住まわれている方同士で行き来するのであれば、あまり神経質になる必要はないでしょう。ただ、感染拡大地域にお住まいの方は慎重になったほうがいいと思います。どうしても会いたい場合は、行く側、受け入れる側がお互いに、会う前後14日間はできるだけ人との接触を避けるなど、自主隔離をすることをおすすめします。そして親戚や家族が集まった際には、大人数の会食などで、感染を広げないように注意していただければと思います」 


新型コロナの感染リスクをゼロにしても、その人にとってすべてのリスクがゼロになるわけではない

「在宅介護において、生命の安全・尊厳・生活の継続を守るためには、バランス感覚が必要だと思います。新型コロナウイルスの感染リスクをゼロにできたとしても、その人にとって、トータルでのリスクをゼロにすることはできません。極端な例を挙げると、お風呂で溺れて亡くなる高齢者は年間5000人以上(※3)もいますが、だからといって『溺れるリスクがあるからお風呂には入らない』という方は、ほぼいませんよね。


感染症や病気に限らず、日常生活のあらゆる場面にリスクは存在します。生きていく上で、リスクを完全に排除することはできないのです。それを踏まえて、これからは『感染が怖いからできる予防策は全部する』ではなく、『ここまですればOK』というラインを各家庭で引くことが大切です。どこまで対策をするのが合理的なのか、ご自身やご家族が許容しうるリスクはどこまでなのかを考えてみましょう。訪問介護などについても、『基本的には来訪者を入れないようにしているけれど、口腔ケアだけはやってもらおう』と、合理的に判断していただきたいですね」 


(※3)

消費者庁ホームページより

高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による自己の死亡者数のうち、約7割は浴槽における溺水で死亡しています。

平成30年の高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による死亡者数は7,088人、そのうち家及び居住施設の浴槽における死亡者数は約7割の5,072人となっています。



自分が「許容しうるリスク」はどこまでか、考えてみよう

――あれもこれもダメと制限するのではなく、大切なのは1人1人が自分の許容ラインを探すこと。これを実践できれば、「どこまでやれば良いのだろう」という迷いがなくなり、日常生活や気持ちにも余裕が出てくる気がします。


「そうですね。外出することに関しても『外に出たら危ない』ではなく、『どうすれば安全に外出できるか』を考えてみてください。認知症で地域を歩き回ってしまう方もいますが、人混みの中に行くことはあまりないので、感染するリスクはそれほど高くないと思います。 


外食は、密集した空間で飲食をしながら大声でしゃべるのが危険なのであって、風通しの良い場所で、家族と穏やかに食事をするのとではリスクの度合いも違います。感染が拡大している地域はのぞきますが、時と場所、相手さえきちんと選べば、外食や旅行も可能です。何が危ないのか、どうすれば感染を防げるのか、きちんとご自身の中で整理をして、日々の生活を楽しみましょう」 


新型コロナウイルスは高齢者が感染すると重症化しやすく、注意が必要です。しかし極端に外出を控えたり、コミュニケーションをとらなくなると、身体機能や認知機能が低下する恐れもあります。先の見えない自粛生活だからこそ、許容しうるリスクはどこまでかを考え、ラインを引くことも必要になってきます。感染拡大の防止を念頭に、送りたい日常を過ごすことへの意識も持っていたいものです。

取材・文/遠藤まゆみ 構成/山本幸代(SOMPO 笑顔倶楽部)


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