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2023.02.20

ケアスタッフより、家族介護者の方へメッセージ~第7回~「認知症の方の好き嫌い」

いつも頑張っている家族介護者の方々へ向け、笑顔倶楽部からの応援を込めた連載をスタートしました。


日々介護をするなかでは、「このやり方で正しいのかな」と疑問や不安を感じたり、「こんなふうにしてあげたいのに、うまくできない」と悩まれたり、葛藤したりされたりする瞬間があるのではないでしょうか。


お一人おひとりに応じておこなう介護の正解は、ひとつではありません。しかし他の方のケア事例から感じ取れるヒントやメッセージもあるかと思い、本コラムでは経験豊富なSOMPOケアスタッフが経験してきた介護エピソードをご紹介します。


今回のテーマ「認知症の方の好き嫌い」

今回ご紹介するのは、秋田県のSOMPOケア事業所で介護支援専門員(ケアマネジャー)を務める伊藤さんの実のお婆様(Bさん)のお話です。80歳代で認知症になり、在宅ケアを始め、最後は特別養護老人ホームでお看取りをされたそうです。在宅時代のエピソードをご紹介します。


執筆者画像
SOMPOケア 秋田仁井田 居宅介護支援 管理者兼主任介護支援専門員 伊藤 百子さん
大家族で育ち、高齢の方との関わりが好きだったことから、介護福祉士の資格を取得。介護職員として勤めていた際、ご自身の祖母が認知症になったことで在宅ケアに興味を持ち、専門性を磨かれ、ケアマネジャーの資格も取得されました。介護畑ひとすじで、地域の多くのご高齢者さんに向き合っているケアマネジャーさんです。

「好きなこと、嫌なこと」がケアのヒントになる

「チョコレートだと思ったのよ」


これはあるとき、松ぼっくりを食べようとしていた私の祖母がこぼした言葉です。


見かけた瞬間は、思わず「どうしてこんなものを食べるの!」と叫びそうになりました。しかし、そこでぐっと堪え、落ち着いて「どうして食べたの?」と聞いてみたところ、上記の言葉が返ってきたのです。


拍子抜けするような愛らしい答えを聞いて私の気持ちも和らぎ、「食べたかったのね。そういえば好きだったね、チョコレート買ってくるよ」と伝えることができました。


認知症の方の行動や介護のなかでの出来事には、「その方の個性」が必ず現れます。「どうしてそうしたのか」の原因を一緒に探ってみると、ケアのヒントが見えてくることもあるのだなと、このとき改めて感じました。


その時期の祖母は、すでに孫である私のことが認識できなくなっていました。誰だかわからない相手から、もしも「なぜそんなことをするのか」と強い言葉で責めていたら、私に対して恐怖心を覚えただろうと思います。「忘れたの?」「できないの?」と大きな声で言われ、ビクッとして顔がこわばってしまう高齢者の方々の様子は、仕事柄たくさん見てきていたからです。


怖がらせてはいけないという思いから、祖母が私のことがわからなくても努めて気にしないよう心がけていました。こちらがニコニコ接していると祖母の表情も柔らかくなっていきましたし、「親切な方、いつもありがとう」と私に対して手を合わせてくれることもしばしばでした。母に対しても「お世話になります」とよく頭を下げていた記憶があります。「誰だかわからないけれど、この人はサポートしてくれる」と安心感を覚えてくれていたのかもしれません。


穏やかに接していると時折、私や母のことをふっと思い出してくれる瞬間もあり、その際はとても嬉しかったのを覚えています。「人に優しくされた記憶は、認知症になっても残るのだな」と祖母に改めて気づかせてもらいました。


「孤独にさせない」ことの大切さ

祖母の認知症は、うつ病のような症状から始まりました。同じことばかり何度も話すようになり、夕方になっても電気をつけずに暗い家の中にいて、食事や着替えを忘れてしまう。私の母も仕事をしていたので、日中は独居の状態でしたが、たまに様子を見に行くと部屋の中でどんよりとして過ごしているのです。涙を流していたこともあり、「老年期のうつではないか」と母に相談をしました。


その時点では私のことを認識してくれていましたが、「買い物に出かけた先で計算ができず、小銭が出せなくなった」と聞いて病院に連れていったところ、アルツハイマー型認知症と診断されました。


介護度1の診断だったため、ショートステイを使いながらお世話をしていましたが、転倒して骨折し、入院となったことを機に一気に物忘れが進行。ベッドの柵を乗り越えようとして転んだり、風呂敷に荷物をまとめて帰ろうとしたりするようになり、介護度3の状態に悪化していきました。


家で涙を流していた頃の祖母を思い出すと、認知症になりつつある方を孤独にさせないことの大切さを実感します。症状が進んでからの祖母はニコニコして静かに過ごしていましたが、当時の祖母は感情的になることも多く、「わかんなくなったら殺してけれ」「面倒をかける」と何度も口走っていました。本人も自分の状態にかなり混乱していたのだろうと思います。心の拠りどころになるような存在を見つけてあげるだけでも、多少孤独感を和らげられたのではないかと後になって感じました。


仕事などで一日中は寄り添えないご家族も少なくないと思いますが、もし同じような状況で悩まれている方がいらっしゃいましたら、ペットでもぬいぐるみでも※、何かご本人の安心につながるようなものを用意してみることをおすすめします。


※明日も笑顔になれますように。第6回を参照

明日も笑顔になれますように。第6回「趣味やペットの存在が力に」

Aさんは93歳で、転倒をきっかけに、寝たきりの状態になり、次第に耳が遠くなり、コミュニケーションが成り立たない場面が出てきました。ご家族は皆仕事をされていますし、もともと人付き合いが盛んな方ではなく、そのうえコロナ禍で近所の方と顔を合わせる機会も激減。会話ができにくくなった状況でも「お母さんをどんなふうに楽しませてあげようか」という相談を重ねた結果、おしゃべりインコを飼おう、ということになりました。人だけでなくペットも良い話し相手になってくれるというお話です。


ケアスタッフからのアドバイス

祖母のケアマネジャーさんは、家族のいろいろな希望を調整しながら寄り添ってくださり、私がこの職種を志すきっかけにもなりました。私も母も福祉関連職に就いていたので多少の知識はありましたが、「介護をするご家族がどんなふうに感じるのか」ということについては、祖母の介護を通じてより深く学ばせてもらった実感があります。


前向きに介護に向き合える日ばかりではなく、「いつまでこんな状態が続くのだろう」とネガティブに思い悩んでしまうご家族の気持ちも、よくわかりました。私たちはそうしたご家族やご本人を支えるための専門的知見を持った第三者として存在しています。「自分たちで面倒を見なくては」と気負いすぎず、ぜひ気兼ねせずにSOSを出していただければと思います。


悩んでいるご家族に対しては「余裕があるときに、たくさんケアをしてあげてください」とよくお伝えしています。「介護する側に気持ちの余裕がないと、おばあちゃんのためにもならないから私たちを頼ってくださいね」と。


また、多くの方のケアに入っていて感じることですが、認知症になり、自分や周りのことがわからなくなったとしても、「何が好きか、嫌いか」「どういうことをされると嬉しいか、されたくないか」という感覚は決してなくなることはありません。


私の祖母がチョコレートを食べたがったように、その方の好きなものを理解できていると、ほんのひとときでも、幸せな気分を味わってもらえることがあります。元気なうちに、あるいは認知症の症状が軽いうちに、できるだけ「何が好きか、何が嫌か」をたくさん聞いておくと、その後のケアで役立つと思います。


次回は北海道第2事業部 事業部長 秋保さん(介護福祉士)の現場で勤務されていた時のエピソードをご紹介します。



取材/外山 ゆひら ・ 下村 涼子(SOMPO笑顔倶楽部)   文/外山 ゆひら  

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