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高齢者の夫婦
2023.12.01

認知症予防のポイントとは 食事や運動、トレーニング法を紹介

年を重ねると、自然と認知機能が低下するケースは少なくありません。しかし、「昨日の夕飯は何を食べたか思い出せない」「一昨年の旅行はどこに誰と行ったか…」など記憶があいまいになると、認知症を発症したのではと不安になったり、認知症を予防したいと考えたりする人は多いのではないでしょうか。


認知症の予防のためには、早くから対策をとることが重要と言われています。本記事では、認知症リスクを軽減させる脳トレや運動など日常生活で意識したいポイントを紹介するとともに、認知症予防はいつから行うべきなのか、また認知症に関する基礎的な情報についても詳しく解説します。


目次
・認知症予防の重要性
・認知症予防のポイントは「認知機能の低下」を防ぐこと
・「認知症予防の10か条」とは
・認知症予防のために取り入れたい運動やトレーニング
・認知症予防のために意識したい食事
・社会活動へ参加し、コミュニケーションの機会を増やす
・自宅で簡単にできる芸術療法(アートセラピー)
・40代から予防? 早く始めたい認知症予防
・まとめ

執筆者画像
【監修】医療法人ミチラテス 理事長 ファミリークリニックあざみ野 院長 石井道人 先生
北里大学医学部卒。東京都立多摩総合医療センターで救急医療、総合診療を学ぶ。2013年より北海道・喜茂別町で唯一の医療機関、喜茂別町立クリニックに管理者として赴任。乳幼児健診から看取りまで、町民二千人の健康管理を担う。2020年神奈川県横浜市にて開業。日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医、日本救急医学会認定救急科専門医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定認知症サポート医、キッズガーデンプレップスクール嘱託医

認知症予防の重要性

2020年現在、65歳以上の認知症の方は約630万人と推計されています。2025年には高齢者の約5人に1人にあたる約730万人が、そして、2060年には高齢者の3人に1人が認知症になる見込みです。認知症になられても、穏やかに過ごしている方はもちろんいますが、認知症により自身や家族の生活が一変する方が少なくないことや、急速に少子化が進行する現代において認知症高齢者の増加は介護職の人手不足に拍車をかけるなど、社会問題を増幅させる可能性もあります。


一人一人の生活の質(QOL)を高めるまたは維持するためには、個人個人が健康長寿への意識を持ち、予防トレーニングをはじめとした生活習慣に意識を向け、認知症の予防に努めることが大切なのです。


認知症予防のポイントは「認知機能の低下」を防ぐこと

認知症を予防するにあたり、「認知症」と「認知機能の低下」の違いや関係性を知っておくと良いでしょう。認知症とは、何らかの病気が原因となって脳の認知機能などが低下し、日常生活に支障が出る状態のことです。認知症の症状は、「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」に大別されます。中核症状とは、記憶力の低下をはじめ、思考・判断力の低下、見当識障害など認知機能に関わる症状です。BPSD(行動・心理症状)は、感情面や行動面に現れる症状で、暴言や暴力、行方不明、妄想などが挙げられます。


一方、認知機能とは、記憶力や判断力、学習能力、計算力などの知的能力を指します。認知機能が正常に働いている状態であれば、自身の周りや物事の状況を理解して適切な行動をとることができます。認知機能は、加齢に伴う神経細胞の死滅によって衰えるため、年齢を重ねるとともに認知機能が低下する方は多くいます。しかし、その方々がすべて認知症なのかといえば、そうではありません。


認知機能の低下と認知症は、原因や現れ方なども違うものです。たとえば、昨日の夕食の内容が思い出せないのは、加齢による認知機能の低下です。一方で認知症の場合は、夕食を食べたこと自体を忘れてしまいます。 また、認知機能の低下に比べて、認知症は症状の進行が早いことも特徴に挙げられます。認知機能の低下を防ぎ、遅らせることが認知症予防につながるのです。

「認知症予防の10か条」とは


続いては、認知症を予防するための生活習慣10か条を紹介します。「認知症にならないための10か条」は、公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事を務める川崎幸クリニックの杉山孝博院長が提唱されたものです。取り組みやすいものから挑戦してみましょう。


(1)脳血管を大切にする

脳動脈が動脈硬化を起こすと脳の機能が低下します。高血圧などの生活習慣病が動脈硬化を招くため、治療や生活習慣の改善を心がけましょう。

(2)食生活を整える

脂質や糖分の摂りすぎは、細胞の老化を促します。抗酸化作用のある栄養素が豊富に含まれる緑黄色野菜や、脳梗塞予防に効果があるといわれる青魚を積極的に食べましょう。

(3)運動を心がける

毎日のウォーキング習慣は、動脈硬化予防のほか健康維持・増進全般に効果的です。

(4)飲酒・喫煙が過度にならないようにする

お酒やタバコは、さまざまな病気の原因になるため過度な摂取は控えてください。

(5)活動・思考を単調にしないように努める 

趣味の活動や新しいことへの挑戦で、脳に刺激を与えましょう。

(6)生き生きとした生活を

地域のボランティアなどに参加するなど、毎日を楽しく過ごす生きがいを見つけましょう。

(7)家族・隣人・社会との人間関係を普段から円滑にしておく

物忘れなどの症状が出ても、周りの人が助けてくれる環境があれば心強いでしょう。

(8)健康管理を心がける

不調を感じたら放っておかずに病院を受診し、医師や専門家の助言に耳を傾けましょう。

(9)病気や障害の予防や治療に努める

認知症はさまざまな病気が原因で発症します。まずは、病気にならないように予防に努めましょう。

(10)寝たきりにならないよう心がける

寝たきりとなると認知機能が衰えやすくなります。転倒は骨折、ひいては寝たきりを招きやすいため、家のなかの段差をなくすなど、可能な範囲で環境を整えてください。

※参考:「認知症にならないための10か条」川崎幸クリニック院長 杉山孝博

認知症予防のために取り入れたい運動やトレーニング

適度な運動を日常的に行うことで、認知症の原因の一つとされる高血圧や動脈硬化を防ぐことができます。ここからは、認知症予防につながる運動やトレーニング法を紹介します。

コグニサイズ

コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した、コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた新しいエクササイズです。中強度(軽く息がはずむぐらい)の運動をしながら、しりとりや計算などの課題(認知課題)を同時に行います。コグニサイズは体に軽く負荷がかかる程度、思考するのが少し難しいと感じるぐらいのレベルで行うことが大切です。もし慣れてきて簡単になってしまったら、運動強度を上げたり脳トレのレベルを上げたりしてみましょう。無理をせずにストレッチをしてから始めたり、痛みがあるときには休むなど、少しずつでもいいので継続するのが大切です。


コグニサイズの詳細は以下の記事で紹介しています。

コグニサイズの紹介

ウォーキングや散歩

東京都健康長寿医療センター研究所の研究によると、1日に5,000歩(そのうち速歩き時間7.5分を含む)歩くと、血管性認知症やアルツハイマー型認知症を予防できる可能性があることもわかっています。


厚生労働省が発表した調査データ※によると、1日あたりの歩数平均値は65歳以上の男性で5,396歩、女性で4,656歩でした。女性はやや少なく、しかも全年代で近年は歩数が減少傾向にあります。高齢者における「適度な運動」は、1日30分のウォーキングを週3回程度です。少し遠くのスーパーマーケットまで歩くなど、毎日の生活のなかで無理なく歩くことを取り入れて、歩数を増やしてみるとよいでしょう。

※参照:厚生労働省 令和元年「国民健康・栄養調査」

手遊び・指遊び

手遊びや指遊びは脳の刺激・活性化につながるため、認知症予防のトレーニングとして効果的です。例えば、右手と左手で一人じゃんけんをしたり、右手と左手で違うグー・チョキ・パーを出す拮抗運動なども良いでしょう。難しい場合は、簡単なものからチャレンジし始めて、徐々に難しいものへトライしてみてください。

ゲーム

ゲームのなかには知的活動を必要とするものも多く、脳の刺激に役立ちます。1人でできるものや家族・友人と楽しみながらできるものがあるので、好きなものにトライしてみましょう。ゲームは「認知症予防のため」と考えたり気負ったりしなくても楽しめるので、抵抗感が少なく取り組める点がメリットです。例えば、パズルや間違い探し、神経衰弱、クロスワード、ナンバープレイス、迷路などがおすすめです。


その他にも、脳トレを取り入れることで、認知機能低下予防につながります。脳トレの詳細は以下の記事で紹介しています。

高齢者におすすめの脳トレ12選 認知機能低下予防との関係も紹介


認知症予防のために意識したい食事

体に不調を抱えていたり、病気になって寝たきりになると、日常生活で刺激が減るため、認知機能の低下につながります。とくに、高血圧や高脂血症、肥満、糖尿病といった生活習慣病は、認知症の危険因子である動脈硬化を引き起こす恐れがあります。


栄養バランスに配慮した食事をとり、体を健康に保つために、認知症予防の近道となるのです。高血圧や動脈硬化などの引き金となり得る、食塩・糖質・脂質の摂りすぎは控え、バランスの良い食事を心がけましょう。メディアで「〇〇を食べれば認知症予防に良い」などと取り上げられますが、そればかり食べると栄養バランスが崩れてしまいます。毎日栄養バランスを意識して食事を用意するのは大変なことなので、レトルト食品や宅配サービスをうまく活用して、楽に長く継続できる工夫をしてみましょう。

認知症予防と食べ物の関係性についての詳細は、以下の記事で紹介しています。

認知機能低下予防と食べ物との関係とは? 免疫力が上がるバランスのいい食事はコロナ等の感染症予防にも効果的!


社会活動へ参加し、コミュニケーションの機会を増やす

社会参加で人との関わりを増やす同居家族がいる、友人との交流を持っているなど、人とのかかわりが多い高齢者は認知症リスクが低下するという研究があります。そして、コミュニケーションをとることで認知症予防に効果があります。とはいえ、定年退職後はなかなか人との交流の場が少ないという方も多いでしょう。そのような場合は、高齢者(シルバー)雇用している職場への就労や、地域でおこなわれているサークル活動やボランティア活動への参加、友人との交流を検討してみてください。また、自治体でレクリエーションや運動を交えた認知症予防トレーニングを行っているところもあるので、探して参加してみるのもおすすめです。


認知症の方と接する機会の家族や周囲の人は、「傾聴」と「共感」を大切にして感情や話を受け止め、丁寧にコミュニケーションをとってみましょう。

自宅で簡単にできる芸術療法(アートセラピー)

そのほかに、自宅で簡単にできる認知症予防として、芸術療法(アートセラピー)があります。絵画、音楽、俳句、書道などの鑑賞や製作、演奏など、何らかの形でアートに触れてみてください。たとえば、音楽には脳を活性化させる作用があり、リラックスやストレス軽減にも役立ちます。家族と一緒に好きな音楽を聴けば、コミュニケーションをとるきっかけにもなるでしょう。


40代から予防? 早く始めたい認知症予防

認知症は、日常生活にトレーニングを取り入れることで発症リスクを低減させることができるといわれています。結論からいえば、認知症予防のためのトレーニングは早く始めるほど効果が期待できます。まず、記憶力は40代頃から低下し始め、脳の萎縮は45歳前後から始まると考えられています。さらに、アルツハイマー型認知症の原因物質といわれるアミロイドβという脳内で作られるたんぱく質は、発症の約20年前から蓄積し始めるとも考察されています。つまり、認知症は40代ごろから徐々に進行している可能性があるので、認知症予防トレーニングを始めるタイミングは早ければ早いほど良いのです。


認知症予防には、ゼロ次予防~3次予防までの4段階あるといわれていますが、なかでも特にゼロ~2次予防が大切だとされています。ゼロ次ではまだ認知症の症状は出ていなくとも、「健康への気づきを得ることで健康の維持・促進を促す」ことが大切だとする考えに基づいています。なお、1次予防は認知症にならないよう生活習慣の改善や運動などに気を配る段階で、2次予防は認知症の早期発見や早期治療をする段階です。3次予防では認知症の進行防止を目指します。

まとめ

認知症は、高血圧や糖尿病といった生活習慣病が原因で起きる側面もあるといわれています。認知症を必ず予防できる食べ物や運動などは現時点ではなく、誰しもが認知症になる可能性があります。とはいえ、栄養バランスの取れた食事や適度な運動の継続、他者との交流など、予防のための取り組みが一定の効果を発揮することは研究でわかっています。認知症予防と聞くと、「難しいもの」「面倒くさそうなもの」と感じる方もいるかもしれませんが、今回ご紹介したように自宅で気軽に取り入れられるトレーニングも多くあります。健康のためには、少しずつでも良いので毎日継続して行うことが重要です。


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