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海岸に落ちている石とガラスの破片
2024.10.09

毎日をつなぐフォト日記 vol.13~ファインダーで覗く、小さな物語~ 【若年性認知症当事者 下坂厚さん連載】

2019年に若年性アルツハイマー型認知症と診断された下坂厚さん。現在は、フォトグラファーとしても活動しています。


下坂さんの日常の様子を、毎月のフォト日記としてお届けする本企画。今回は、石川県小松市の海で過ごしたエピソードを綴っていただきました。

執筆者画像
下坂 厚さん
京都府京都市在住。2019年8月、若年性アルツハイマー型認知症と診断される。認知症当事者として、SNSで趣味の写真を発信し、当事者以外にも大きな反響を呼ぶほか、認知症の啓蒙活動も展開中。ホームヘルパーとして働く妻と2人暮らし。著書に『記憶とつなぐ 若年性認知症と向き合う私たちのこと』(双葉社)がある。

認知症の講演のために石川県小松市へ行ってきました。


小松市と聞いて思い浮かぶのは、源義経と弁慶を題材とした歌舞伎の演目「勧進帳」。歴史に残る出来事が代々受け継がれ、今、自分が“物語の場所”に立っていると思うと、とても不思議な感覚になります。


この日はホテルに到着して、まだ約束まで時間がありました。講演などで全国を訪れた際は、その土地ならではの景色を見ることも楽しみの1つ。

この日もどこへ行こうか考え、タクシーを止めて、運転手にお任せしました。


「このあたりで一番きれいな海まで行ってください」


運転手は少し考えて、「とっておきの場所があるよ」と車を走らせました。

窓の外を見ていると、建物がだんだん少なくなっていき、空が広くなっていく。

石川県小松市の海

到着した先は、周りに何もない、砂浜と海だけが広がった海岸。



子供のころから、自然が好きで、川や海によく行っていました。自然のなかでも、景色や四季の変化に注目する人もいます。でも私は、自然の中にある、小さなものが好きです。ファインダーで覗かなければ、気が付かないようなもの。



この日も海岸を歩いていると、小さな石の集まりが目に付きました。その中央に、ガラスの破片がある。


ガラスの破片を太陽に照らす 下坂さんの手元

ガラスを手にとり、太陽の光に当ててみると、小さな傷やくすみが見える。このガラスの元の形はどんなものだったのだろう。別の形をした何かが、ぶつかって、ころがって、大きな衝撃によって割れたのか。


そばにある石を手にとってみる。この石は何十年・何百年(もしかしたら何千年?)も経過して、自分の目の前にあるのかもしれない。その間になにがあったのだろう。


“どこにでもある”ようなガラスの破片や石が持つ記憶を想像していくと、いろいろなストーリーが見えてくる。それに、自分がこの場所・この瞬間に来なければ、出会えなかったものたち。


“どこにでもある”ようなものこそ、特別なものなんです。

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