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にしおかすみこさんのポートレート写真
2024.10.11

認知症の母と向き合う日々のなかで“見つけたもの” 【にしおかすみこさんの介護生活に学ぶ】

「母、80歳、認知症。姉、47歳、ダウン症。父、81歳、酔っ払い。ついでに私は元SM女王様キャラの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。全員ポンコツである」――。

これは、タレントのにしおかすみこさんが、家族とのリアルな日常をつづったエッセイ『ポンコツ一家』の一節です。


認知症のお母さんと同居をはじめて4年目。


時には専門家のアドバイスを受けながらも、自力で介護を行ってきた、にしおかすみこさん。お母さんと向き合う日々を、どんな思いで過ごしてきたのか。その心の内を語っていただきました。


目次
・“自分の幸せ”と“母の人生”の狭間で揺れる気持ち
・母が私を思う気持ちは変わらない。だからこそ、私も好きでいれる
・認知症の症状ではなく、本人に目を向ける

にしおか すみこ さん
1974年生まれ。千葉県出身。2007年日本テレビ「エンタの神様」で女王様キャラのネタでブレイク。現在はテレビ東京「なないろ日和!」など、リポーターとしても活躍中。趣味のマラソンでは、2019年にフルマラソンで3時間05分03 秒、2015年ウルトラマラソン100キロ女子の部にて第2位!! 最近はベジタブルカービングにハマりクオリティーの高さで話題になる。デジタルメディア「FRaUweb」にて認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父との同居生活を赤裸々につづる「ポンコツ一家」連載中(毎月20日更新)。最新刊に『ポンコツ一家2年目』がある。

“自分の幸せ”と“母の人生”の狭間で揺れる気持ち

── 2020年に千葉県の実家に帰省した際、部屋にゴミが散乱している状況に直面。当時は一人暮らしをしていたようですが、そのような状況に直面し、家族との同居を決めたそうですね。当時のお気持ちはどのようなものだったのでしょうか?


「腹をくくって実家に帰ろう」とか、そこまでの決意があったわけではないんです。当時、部屋のごみを片付けようとしたら、母が突拍子もない言葉を口にしました。


「頭かち割って死んでやる」と。


一度、その場を離れてから、数時間経ってまた私が片付けようとすると、また「頭かち割って死んでやる」と。そのやり取りが、毎回「初めまして」みたいな感じで数回繰り返されたんです。それで「何かが起きているな」と思いました。


私が家に帰ったから何ができるというわけではないんですが、“傍にいた方がいいだろう”、と思い、戻りました。


── その後、お母さんは初期のアルツハイマー型認知症と診断。ただ、要介護認定を受けずに、自力で介護をされてきたことから、迷いや後悔が生じることも多かったと思います。どう解消していたのですか?


認知症に関する本を数冊読んだり、ネットで調べたり、介護経験のある友人や先輩、かかりつけ医の先生に聞いたりしていました。それと今現在も、母はまだできることがたくさんあります。徘徊でも寝たきりでもない。介護というよりは家事をしながら見守っているだけな気もします。


とはいえ疲れることもたくさんあります。イライラし母に暴言を吐くこともあります。母も負けてませんけど(笑)。そのときはやっぱり「あんなこと言わなければよかった」と後悔します。でも、後悔したところで誰も幸せにならない。「次からやめよう」って思うだけですね。後悔することより、「自分が元気になることに体力と時間を使おう」と、なるべく切り替えます。


── 書籍の中では、にしおかさんがお母さんに強い口調で言葉をかけてしまい、自己嫌悪になるシーンもあります。どのように気持ちを切り替えていますか?


そう、その切り替え方が難しいですよね……。時間がなくても無理やり作って、昼間は息抜きに外出します。でも、夜はうちの周りに何もないので場所を変えることができない。とにかく自分の部屋のベッドに潜って、イヤホンをして、焚火とか雨とか、そういうヒーリング系BGMを聞くっていう(笑)。


深く病んでしまうと、なかなか立ち直れない気がするので、こまめに息抜きすることを意識しています。私は自分の幸せが1番大事だと思っています。


── 書籍内にも介護について「自分ファーストで」とありました。自分ファーストを貫くために心掛けていることはありますか?


毎日一緒に暮らしていると、危なっかしく見えることが多々あるので、つい「これはダメ」「あれはやっちゃダメ」って言いそうになることも……。でも言わないです。


母の人生は母自身のものなので、好きなようにしたらいいと思っているんです。


極端な言い方をすると、例えば母がどこかに行って迷子になって帰ってこられなくなったとしても、最悪亡くなったとしても、母の人生です。私はとても後悔すると思うんです。でも私の後悔のために、母の残りの人生の行動範囲を狭めたくないから「ダメ」とは言いたくない。


本当は、母も自分ファーストで生きたらいいのにって思います。母が荒れるときはだいたい、姉の行く末を想って、自分が最後まで守り切れるか、無理なんじゃないかと気持ちが揺れているときな気がします。それでも踏ん張らなければという強い意志が、母の生命線なのかなと。私の想像です。本人に聞いたことはないのでわかりません。


母が私を思う気持ちは変わらない。だからこそ、私も好きでいれる

インタビューに答えるにしおかすみこさん

── 同居を始めて4年経ちますが、その間にしおかさんはどう変わりましたか?


私はふてぶてしくなったかな。家族みんな歳をとりますし、母の症状は進んでますが、3人の個性がパワーアップしているんです。その分、私の経験値もちょっと上がって強く図々しくなりましたね。


── 書籍からは、にしおかさんは一貫してお母さんが大好きなのが伝わります。好きであり続ける秘訣はありますか?


好きなときも、そうじゃないときもあります。お互い様だと思います。認知症って、そりゃあ本人が一番しんどくて不安ですよね。それでも母は、私と姉をずっと想ってくれています。


たくさん一緒に笑いたいですね。


── 一方で、介護生活でつらかったことはどんなことですか?


以前、宅配詐欺に遭ったときです。うちでは宅配物を受け取るとき、母が混乱してしまうので、着払いにしないことにしています。でも、ある日、私の不在時に着払いで宅配が来て「5500円払ったけど大丈夫?」って母からメールが来たんです。「あれ、今日は宅配が来る日じゃないのに」と不思議に思って調べると、送り付け詐欺だと分かりました。


最終的にお金は返ってきたのですが、母は詐欺に遭ったことですごくショックを受けてしまい……。それで「もう絶対騙されない」と、あらゆる人を疑うっていう(笑)。


── そうだったんですね……。


しばらくして、今度は私のミスで、その日に宅配物が届くことを母に伝え忘れたまま、仕事に行ってしまったことがありました。それで、宅配業者さんが来たときに、母は聞いてないから「騙されるもんか」と揉めてしまったようで……。


その日、私が夜中に仕事から帰ってきたとき、母は電気もつけずに玄関にポツンと座っていました。


母が「ママなんだったらできるのかな。ママなんだったら覚えていられるのかな」と言って、ぶわっと涙が溢れて、スッと頬の皺(しわ)に吸収されていったんです。一瞬のことでした。母がしょげている姿は、私もショックでした。


── お母さんとしても、“できていたことができなくなる”ことへの喪失感があったのでしょうか?


あると思うんですよね。でも、今までそういうことを嘆いたりしたことがなかったんです。いつだって強くたくましい母だったから。でも、そんなわけないですよね。私の知らないところで、今までも現在も、泣きたいことはいっぱいあっただろうな。母ってすごいなって思います。


── そのとき、にしおかさんはどう声をかけたのですか?


「大事なことはみんな覚えてるじゃん。大丈夫だよ。こんなクソみたいなこと覚える必要ない!」と。私としては、世の中優しい人ばかりじゃないから。なんとしても母に助かってほしいんです。だから、「身の危険を感じたら、大声出して、ご近所さんとか警察とか誰でもいいから助けを求めるんだよ」と言いました。


認知症の症状ではなく、本人に目を向ける

笑顔のにしおかすみこさん

── さまざまな経験をしてきた4年間ですが、にしおかさんにとって認知症のイメージは変わりましたか?


当初、私に認知症の知識はほぼなかったです。なんとなくイメージで、家族を「泥棒」と疑ったりするのかなあくらいです。実際に、母の貯金通帳を私が管理しようとしたところ、「泥棒」と言われたことがあります。


でも、母はまだ自分がしっかりしていると思っているので「なんで、突然戻ってきた娘に渡さないといけないんだ。勝手なことするな」という気持ちで「泥棒」と言ったんですよね。当たり前ですが、なんでそう言うかには理由があるし、この時点では母は何も忘れてないし、妄想でもないんです。


正しい認知症の知識を得ることも大事だと思います。でも症状ばかりを追って、本人を見ていないことにハッとすることがあります。


母には、83年積み重ねてきた歴史と、人となりがあるじゃないですか。“母が何を考えてるのか”、“何が好きなのか”、“どうしたいからそういう行動をとるのか”、が大事だと思います。誰しも認知症になる可能性はあるじゃないですか。もし私がそうなったとき、私自身を見てくれてないと、きっと寂しいし悲しいし不安になる気がします。


──症状に注目するのではなく、ご本人に目を向けることはとても大切なことだと思います。


そうですよね。私、認知症について話すとき、つい「徘徊」という言葉を口にすることがあります。「ウチはまだ徘徊や寝たきりではないんですよ」といった具合に。


でもこの言葉を使わずに「ひとり歩き」と言い替えたりするところが増えてきてますよね。「確かにな」って思います。例えば、ウチは近くのスーパーに行くとき、自転車で行くんですけど。傍に頼れる人がいると認知症の症状が早く進むと聞いたりもするので、母に先に行ってもらって案内してもらう、というスタンスを取っているんです。


ときどき、それで道を間違うこともあって。それとなく声をかけて軌道修正します。でも、もし1人で行っていたら、こうやって迷子になっていくのかなと思いました。あくまで母の場合だし、一例に過ぎないですけど、目的はあるし、意味もわからずウロウロしているわけではないです。「徘徊」というイメージと違うなあ。


言葉選びも認知症を正しく理解してもらうために大事だなと思います。ただ、それはそれとして、どういう言葉であれ、認知症の方と見守るご家族の不安や困難はあるなあ。いずれ私たち親子も直面するのかなあ。どうするかなあ。まだまだこれからですね。


── 家族介護者の方の話を聞くと、母親は頼れる存在だというイメージを持ち続け、認知症をなかなか受け入れられないという話もよく聞きます。にしおかさんはどうでしたか?


実家に戻って早々に、要介護認定を取ったほうがいいのかなと、一緒に精神科に行ってCTをとったり、記憶力テストをしてもらって、初期のアルツハイマー型認知症だと知ったんですよね。そこで「母は認知症なんだ」と一度受け入れました。


ただ、4年経った今でも、ダウン症の姉の世話をしているときなど、母はすごくしっかりしてるときもあるんです。そういうときは、それまで認知症らしい症状をいっぱい見ていても「あれ、やっぱり誤診なんじゃないの?」とか。母が「全部、冗談でした~」って言ってくれないかなとか。


まだ私はそんなこと思うんだなあって。自分でもやれやれです。


── 4年間の日々のなかで、お母さんをはじめ家族とのいろいろな出来事があったと思います。そんな経験を経て、にしおかさんにとって、家族とはどんな存在でしょうか?


それ、よく聞かれるんです(笑)。だから事前に考えますし、最適な言葉を探すんですけど、本当にわからないんです。絆、というほど、きれいごとでもない気がしますし。


……なんでしょうね、家族って。

書籍を両手に持つ にしおかすみこさん

にしおかすみこさんの新刊「ポンコツ一家2年目」が刊行!

実家の家族と同居を決めた生活を、赤裸々に描いたにしおかすみこさんの1作目の著書『ポンコツ一家』。この度、「同居2年目」についてのエピソードをまとめた『ポンコツ一家2年目』が発売しました。


新刊「ポンコツ一家2年目」の表紙

ポンコツ一家2年目
著者:にしおか すみこ
発行:講談社
発売日:2024年9月20日
ページ数:256ページ
定価:1,650円(税込)

▼ご購入はこちら
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写真/長野竜成 文/市岡ひかり

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