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2024.06.07

化粧と心の関係性【資生堂の化粧療法に学ぶvol.1】

「同居している高齢の親が家に閉じこもり気味で、どうしたら良いのかわからない……」

「離れて暮らす両親が認知症にならないか心配。手軽にできる予防法を知りたい」


身近に高齢の方がいらっしゃると、生活状態の変化に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。そんなときに、注目したいのが化粧です。化粧は、身だしなみを整えるだけでなく、心身にもさまざまな影響を与えます。


本企画では、株式会社資生堂にて、化粧療法の研究を行っている池山さんにインタビューを実施。化粧による効果を「心」「脳」「身体」「口腔」の4つの視点でご紹介します。第1回目の本記事では、資生堂の化粧療法の歩みと化粧による「心」への影響をお届けします。


目次
・化粧と健康の関係性
・化粧が心に与える影響
・心理的効果を高めるメイクのポイント

執筆者画像
池山和幸さん
医学博士・介護福祉士・日本口腔ケア学会認定口腔ケアアンバサダー 専門は化粧療法学。三重県生まれ。京都大学大学院医学研究科にて学位(医学)取得。大学院在学中に介護福祉士の資格を取得。2005年資生堂に入社後、化粧療法研究に従事。著書には、『「粧う」ことで健康寿命を伸ばす化粧療法(クインテッセンス出版)』、『装いの心理学(北大路書房)』(分担執筆)、『化粧の力の未来(フレグランスジャーナル社)』(分担執筆)がある。 現在、資生堂ウェブサイト「化粧療法研究室」にてブログ公開中! https://corp.shiseido.com/seminar/jp/labo/index.html

化粧と健康の関係性

資生堂が行っている美容教室の様子

いきいき美容教室の様子(資生堂ジャパン㈱提供)

――まずはじめに、資生堂さんが化粧療法をスタートしたきっかけを教えてください。


前提として、化粧療法という言葉は、1980年頃から海外から広まっていきました。戦争によるケガなどに対し、メイクでカバーする取り組みによる心理的な効果が注目され、化粧療法という言葉が少しずつ知られるようになったのです。


資生堂は、1975年に特別養護老人ホームからの依頼で「化粧ボランティア」が始まり、その後全国に活動が広がりました。1990年代には、徳島県の施設で化粧教室を開いた際、アンケートを通じて参加者の心理的変化を調査したところ「90%以上の方が笑顔になった」という結果がでました。その結果がメディアで紹介され、「高齢者向けの化粧療法」という言葉が徐々に広まっていくようになったのです。


――化粧の楽しさを伝えることが、資生堂の化粧療法のはじまりだったのですね。近年はどのような活動をしているのでしょうか?


その後、資生堂の社内で「化粧療法」の研究が進められ、2013年に独自の「化粧療法プログラム」を作成。スタッフに講習を行いながら、全国各地の介護施設でプログラムをもとにした化粧教室を実施するようになりました。


現在は、介護事業所に加え、自治体や企業などでも化粧教室である「いきいき美容教室」を行っています。要介護者の方への実施はもちろん、介護予防の視点で元気な方向けに実施することも増えました。


資生堂の化粧療法プログラムとは
化粧行為を通じて心身機能やQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)の維持向上など健康寿命の延伸をめざす療法のことで、それを介護や医療の現場で活用できるようにしたものが化粧療法プログラムになります。


化粧が心に与える影響


――ここからは、化粧による「心」への影響を詳しく伺えればと思います。化粧の心理的な効果としては具体的にどのようなものがあるのでしょうか?


健康度自己評価*、抑うつ傾向の改善効果
健康自己評価の折れ線グラフ



抗うつ性尺度の折れ線グラフ

※健康度自己評価とは、高齢者自身の健康について主観的な評価を問う質問。簡単な指標でありながら、様々な健康変化の予測指標になり、近年では健康度自己評価を用いて健康寿命の算出が行われています。(参照:https://corp.shiseido.com/seminar/jp/labo/


過去に、東京都健康長寿医療センター研究所と共同研究を行い、元気な方から要介護者までさまざまな方を対象に、3カ月間化粧療法を実施したときの変化を調査したことがあります。その結果、化粧療法を実施した方の気持ちが前向きになった(抑うつ尺度が改善された)という変化が見られました。


――なぜ、前向きな気持ちになったのでしょうか?


ポイントは大きくわけて2つあります。1つ目は、セルフケアとして自分で化粧をすることで「自分でできた」と達成感につながる。そして、綺麗な自分になることによって“自信”がつく。2つ目は、周囲から「綺麗になったね」と言われ“他者からの承認”が得られるといったことです。


――“自信”がつく、“他者から承認される”ことで次の行動にもつながりそうですね。


自信がつくことで、積極的に行動するという“自己効力感”が生まれます。他者や外に対し興味を持つようになるため、結果的に外出したり人と会ったりする、といった行動力が高まり、生活の質が向上していくというわけです。

外出に対する自己効力感を表した棒グラフ

N=89 半日型デイサービス利用者(要支援1~要介護2)、平均年齢:81.3歳
調査時期:2015~2016年 資生堂調べ
(参照:https://corp.shiseido.com/seminar/jp/labo/


昔から、化粧心理学の観点から、スキンケアはリラックス、メイクはアクティブに活性化させる効果があると言われています。一般的に、スキンケアは自身の肌へのアプローチをするため、自分に対して意識が向きやすく、“対自的機能”が働きます。一方、メイクはきれいになることで他者を意識するため、“対他的機能”が働くと言われています。

スキンケアをしなくなるということは、対自的機能が働かなくなり、自分に興味がなくなってしまうのです。自分に興味がなくなると、自然と他者にも興味が湧かなくなる。結果、外にも出なくなり、閉じこもりがちになってしまうのです。


外に出る、人に会うという気持ちの種を消さないために、スキンケアが大切なのです。


心理的効果を高めるメイクのポイント

インタビューに答える資生堂の池山さん

――化粧療法の心理的効果を高めるためのポイントはありますか。


やはり、セルフケアが大切です。化粧療法では、周囲のご家族や介護者は環境を整えたり、声かけをしたりして化粧をするきっかけをつくる役割で、基本的にご自身で行っていただくスタイルです。私たちが化粧療法をする際もできるだけ、セルフケアを促すようにしています。


――周囲の方々が支援する際はどのようなことを意識すると良いでしょうか。


化粧のやり方は、ご本人が長年行ってきたやりやすい方法が正解です。そのため、周囲の方々は、ご本人のやり方を理解し、継続して行うことができる環境を整えることが重要です。決して、やり方を押し付けるのではなく、気持ちよく化粧を続けられるような声掛けをするということが大切です。


――周囲の方々のコミュニケーションが重要なのですね。


化粧をすれば、見た目に変化が出てきます。きれいになった顔が成果として確認できるため、ご本人のモチベーションが維持できて、継続しやすくなります。

周囲の人たちは、「お肌が綺麗ですね」などと声をかけやすくなり、コミュニケーションのきっかけにもなるのです。本人とコミュニケーションがとりやすくなるという点でも、化粧を続けてくことに意味があると考えます。

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