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高齢者を介護しているイメージイラスト
2023.09.27

ケアスタッフより、家族介護者の方へメッセージ~第14回~ 「認知症の家族をサポートするということ」

家族が認知症になり、介護が必要になることで生活が一変してしまう例は珍しくありません。心にゆとりを持ちながら、みんなで協力して高齢者の生活をサポートしていくことが大切、などとよくいわれていますが、現実には難しいと思っている方も多いのではないでしょうか? 「介護サービスや他者に頼ったほうが良い」などと言われても、実際には家庭の内情を知られるのに抵抗があったり、言い出しづらかったりするものですよね。本コラムでは、経験豊富なSOMPOケアで働くスタッフが過去に関わったご家族のエピソードをご紹介しています。


今回のテーマ「認知症の家族をサポートするということ」

家族が認知症になり、生活が一変してしまう例は珍しくありません。周囲に協力してほしいとどこかでは思っていても、自分の身内の病気や障害などを他人に簡単に話せるものではありません。

しかし、時間をかけて関わりを持つことで、だんだんと信頼関係が生まれ、最後には一人で抱えすぎることなく、ケアマネジャー(以降ケアマネ)や介護スタッフと協力しながら、笑顔で介護ができるようになったOさん(仮名)とそのご家族の事例を紹介していきます。


目次
・認知症になった母を、1人で支える娘さん
・家族との信頼関係構築がきっかけに
・周囲との協力を経て、家族みんなが笑顔に
・ケアスタッフからのアドバイス

執筆者画像
SOMPOケア 山形あかねヶ丘 居宅介護支援 上席管理者 菅原美江さん
介護を目指したきっかけは、家族が指定難病に罹っていることに気づいたことでした。将来的に家族の介護が必要になると思った菅原さんは、ヘルパー2級を取得後、更なるスキルアップの為ケアマネジャーの資格を取得されました。多くの事例を経験したいと思いSOMPOケアに入社。介護の仕事をする際、利用者さん本位のサービス提供であることをモットーとされている、利用者さん想いのケアマネジャーさんです。

認知症になった母を、1人で支える娘さん

Oさん(70代・女性)は、息子さんと2人暮らし。Oさんには近くに住む娘さん(40代)がいて、認知症になったOさんの介護をしていました。


デイサービスには通っていたものの、生活のフォローはほとんど娘さんが担当。娘さんには当時小さなお子さんがいたため、育児と介護の両立が大変そうでした。当時のOさんは、認知症によって引き起こされるさまざまな症状が見られ、娘さんからは以下のような行動に対するご相談を受けました。


・薬の管理が難しく、飲み忘れが増えたり2回分をまとめて飲んだりする
・冷蔵庫内の管理ができず、同じ物を何度も買ってきてしまう
・「銀行に行ってお金を貸してほしい」と職員に執拗に迫り困らせてしまう
・被害妄想から配達業者とトラブルを起こす
・近所の家に無断で入る


また、認知症の症状がありながらも、原付を運転して買い物に行くのを習慣としていたOさん。私は、Oさんが今の状態で原付を運転することは危険ではないかと思っていました。しかし、娘さんは「認知症なんだからしょうがないじゃない」「他人にとやかく言われたくない」というようなスタンスでおり、ケアマネの助言は受け入れようとしません。

さらに、Oさんに関しての心配ごとは原付の運転だけでなく、一番の介護負担者である娘さんの疲労でした。このように、周囲の助言や協力を得ることなく介護を娘さんが一人で抱えていくことで、心身ともに疲れてしまうのではないかと思っていたのです。


家族との信頼関係構築がきっかけに

そこで、私は時間をかけてOさんの娘さんとの信頼関係を築き、娘さんが気軽に介護の相談ができる環境づくりをしていくことにしました。すぐにこちらの意見を言うのではなく、まずは娘さんの想いに同調したり、労いの言葉をかけたりしたのです。


すると、それまでケアマネである私に対して拒否を示していた娘さんが、だんだんと心を開いてくれるようになり、いつしか介護の方向性について一緒に考えるようになりました。そのタイミングで私は娘さんにOさんの免許返納を提案。ただ意見を押し付けるだけでなく、「なぜ返納したほうが良いと思うか」を丁寧に説明しました。


その意見に娘さんは耳を傾けてくれるようになり、私の話から真剣に免許返納を考えたといいます。その後、「事故に繋がる前に、返納することにします。」とついに娘さんはOさんのバイクの免許返納に向けて話を進めていくことを決意。Oさんはもちろん辛そうでしたが「娘が言うならしかたない」としぶしぶ免許返納を承諾してくれました。


周囲との協力を経て、家族みんなが笑顔に

その後は、免許を返納したことで極端に活動が減らないようにと、デイサービスのスタッフやケアマネ、娘さんが手を取りながらケアの方向性を一緒に考えていく雰囲気に。例えば、活動範囲が狭まらないよう、いつも行っていたスーパーまで、デイサービスのスタッフとOさんが一緒に歩く活動を続けたり、太極拳を習っていたOさんの趣味活動が続けられるようにと、デイサービスのスタッフが太極拳を一緒に習うことにしました。


そのこともあり、太極拳が好きだったOさんは嬉しそうにスタッフと一緒に趣味活動を続けていました。このようにして、移動手段だった原付が使えなくなった後も、生活が変わらないようにとフォローを続けていきました。


この頃には娘さんの行動や表情が以前とだいぶ変わってきたのです。例えば、以前は近所の方に迷惑をかけてしまうことを後ろめたく感じていただけだったのですが、近所の方に状況を説明し、何かあれば連絡ほしいとお願いするなど、周囲の人をうまく巻き込んだ介護に変わっていきました。


また、娘さん自身にも笑顔が増え、Oさんが食材と重複して買ってきてしまったときにも「でもスーパーに行けるってことが良いことよね」と明るく返してくれるようになりました。周囲の協力を得ながら、肩に力を入れすぎない介護に変わっていったことで、娘さんの心にも余裕ができてきたのかなと思います。


ケアスタッフからのアドバイス

認知症の家族の介護で悩むことは多いと思います。今回紹介したOさんの娘さんの事例は、認知症介護の大切なポイントを教えてくれています。


家族が認知症になったとき、まずは「受け入れられない」という気持ちがくることが多いです。受け入れられず気持ちが落ち込んだり、ときにはイライラしたりして介護サービスの利用のときに情報共有が必要なケアマネにも心を開けないということもあるかもしれません。しかし、大切なのは「自分の素直な気持ちもケアマネなどに伝える」ということ。


素直な気持ちを伝えることで、ケアマネや介護スタッフに自分の家族に対する思いを知ってもらうことができます。そうすることで、「本当はどうしてあげたいのか」が伝わり、本人に合った適切な介護サービスの利用に繋がります。


そして、誰かに本音を打ち明けて冷静になれたときには、状況を自分なりに咀嚼し、変化に対応していくことも大切です。介護は自分一人でやろうとしても、限界があります。高齢者や家族の「できること」と「できないこと」を明確化し、状況をケアマネにわかりやすく伝えていくようにしましょう。「頼りづらい」「言いにくい」と思ってしまったときには、無理せず少しずつケアマネに伝えていくことでお互いの信頼関係を築くことができ、高齢者や自分の想いや希望が言いやすい環境へと変わるでしょう。一人で困ってしまったら、そのままにせず、周囲をうまく巻き込むと介護者である自分の負担が軽減できるかもしれません。


取材/SOMPO笑顔倶楽部  文/中村亜美




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