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2023.09.26

【認知症基本法による社会の変化】共生社会の実現に向けて、企業が対応すべきこと

2023年6月に成立した認知症基本法。今後は、認知症との共生社会の実現に向けて、各自治体を中心に具体的な取り組みが検討されていきますが、地域で活動している企業の意識も重要になってくるでしょう。


経済活動を実施していくにあたり、企業はどのような対応をすべきか。京都府立医科大学で認知症専門医として診療と臨床研究を行うかたわら、認知症の啓発活動に取り組む成本迅氏を講師にお招きして、講演会を開催しました。今回はその講演の内容をお届けします。


認知症基本法案についての詳細は、以下の記事で紹介しています。

「認知症基本法」が成立 共生社会の実現へ


目次
・認知症基本法のポイントは「国民の理解の推進とバリアフリー化」
・経済活動・消費活動における意思決定支援について
・認知症による「近時記憶障害」
・認知症に伴う困りごとやトラブル
・高齢者の消費トラブルと認知症の関係
・判断不十分者契約によって企業が抱える課題と解決法
・まとめ

執筆者画像
京都府医科大学 成本 迅 先生
1995年に京都府立医科大学卒業後、京都府精神保健福祉総合センター、五条山病院などを経て2005年から京都府立医科大学勤務。2016年より現職。認知症専門医として大学附属病院などで診療と臨床研究を行うかたわら、京都式オレンジプラン推進ワーキングの委員や、一般社団法人日本意思決定支援推進機構の理事長として、認知症の人の意思が尊重される地域社会づくりに携わっている。

認知症基本法のポイントは「国民の理解の推進とバリアフリー化」

講演をする成本先生

2023年6月に成立した認知症基本法では、「認知症になっても地域で安心して、自分らしく暮らし続けられる共生社会の実現」を目指していくことが強調されています。基本理念には、「全ての認知症の人が、基本的人権を享受する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができる」と示されており、個人の意思を尊重することが重視されているのです。


そこでポイントとなるのは、「国民の理解の増進」と「バリアフリー化」です。国民の理解の促進は、認知症についての正しい知識を普及させるための施策を推進してくことが明記されています。毎年9月の世界アルツハイマー月間をはじめ、今後さらに公共団体や国が連携を図りながら、普及活動が加速していくと予想されます。


バリアフリー化については、事業者の工夫が必要になります。人は、もし足をケガして歩けなくなったとしても、自らの意思で可能な範囲で社会的なサービスを利用できますが、認知症の場合は自分でサービスを選んだり、契約をしたりすることが難しくなることがあります。つまり認知症ならではのサポートが必要になるということです。


サービスを提供する事業者の方たちが「人間杖」となって、認知症の方がサービスの利用を継続できるようにサポートしていく必要があります。もちろん人によるサポートだけでなく、サービスの取り扱い方法やシステム化によってカバーできる部分もあります。


経済活動・消費活動における意思決定支援について

認知症基本法では、認知症の人の意思決定について、「認知症の人に対する分かりやすい形での情報提供の促進、消費生活における被害を防止するための啓発その他の必要な施策を講じるものとする」と記されています。


例えば、商品の説明文で色覚異常の方に配慮したデザインがあるように、今後は認知機能が低下した方たちでも読みやすい説明文や契約書などを開発していく必要があるということです。認知症には若年性のものもありますが、主に高齢者に向けてどのように経済活動・消費活動をサポートしていくかが課題になります。下記の図では、高齢者の認知機能が低下してきたときに、どんなサービスやサポートが必要になるのかを示しています。


SOMPO LIVEの資料①

早期の段階では、認知機能が低下してきたときに備えるような普及・啓発活動によって、認知機能の低下を早期に発見できるような取り組みが求められます。一方で、認知症が進行すると、ご本人の意向が分からなくなるため、早期の段階でご本人の意思を確認し、準備をしておくことが重要です。


認知機能が低下する前なのか、認知症を発症したばかりなのか、あるいは進行した状態なのか、この図のどの段階でお客様に関わるのかによって、それぞれの企業で取るべき対策・支援は変わっていきます。


認知症による「近時記憶障害」

アルツハイマー型認知症になると、数分から数日単位の記憶が頭の中に定着しなくなり、思い出せなくなることがあります。そうした記憶障害は「近時記憶障害」と呼ばれています。現在に近い記憶が思い出せなくなる一方で、遠隔記憶と呼ばれるような、幼少期の思い出などは鮮明に記憶されています。


消費者に製品やサービスを提供する企業にとって、お客様の近時記憶障害は重大な問題となります。丁寧に商品の説明をして買っていただいたとしても、翌日になると「買った覚えがない」と言われてしまうことがあるからです。ご家族から問い合わせがあり、解約になってしまうケースもあります。


認知症に伴う困りごとやトラブル

認知症になると、そうした記憶障害に加えて、複雑な動作ができなくなるなど、普段の生活にさまざまな支障が出てきます。例えば、社会生活においては下記のような困りごとがあります。


SOMPO LIVEの資料②

銀行のATMの操作が難しくなることや、買い物のメモをしてもそれを自宅に置き忘れてしまうこと、病院や役所などでの各種手続きができなくなることが挙げられます。


また、日常生活では下記のような困りごとがあります。


SOMPO LIVEの資料③

私たちは雑談をするときに、「昨日はこんなことがあって」「この前、○○に行った」といったように、必ず記憶を使いながら会話をします。そのため近時記憶障害があると、最近のことが思い出せずに、会話が続かなくなってしまうのです。また、道に迷うことが不安で、引きこもりがちになってしまうこともあります。


認知症発症に伴う経済活動のトラブルについて、当院の外来に通院している患者さんのご家族にアンケートを実施したところ、下記のような回答が得られました。


SOMPO LIVEの資料④

(Oba H, et al., The Economic Burden of Dementia: Evidence from a Survey of Households of People with Dementia and Their Caregivers. Int J Environ Res Public Health, 2021)

参照:https://www.caa.go.jp/policies/future/icprc/research_003/assets/future_caa_cms201_230612_002.pdf


こうしたトラブルを未然に防ぐためには、ご本人や周囲の人たちが変化に気付き、医療機関を受診すること重要になります。


高齢者の消費トラブルと認知症の関係

次に高齢者の消費トラブルと認知症の関係性について、消費者庁で行った研究をご紹介します。1つは、全国の市町村にある消費者センターにて、消費生活相談として寄せられる情報を解析し、どのようなトラブルが起きているのかを見える化しました。


SOMPO LIVEの資料⑤

(文字が大きいほど、トラブル件数が多い)

上の図は、判断不十分者契約でよく使われる単語を、男性と女性で分類したものです。男性の場合は「タブレット端末」「パソコン」「電子マネー」といった単語が多く見られます。退職後の資産形成などでパソコンを使ううちに、トラブルに巻き込まれていることが伺われます。一方、女性の場合は「健康食品」「ネックレス」「化粧品」といった単語が多く、商品の購入に関するトラブルが見られます。


SOMPO LIVEの資料⑥

次に判断不十分者契約の際によく使われる単語を年代別で見てみましょう。70代では「キャッシング」「クレジット」などが見られるので、まだまだ経済活動に参加されている年代だと分かります。能動的に経済活動をする中で、判断力が低下してきたため、そこでトラブルに巻き込まれているということです。80代になると、そうした能動的なトラブルから受動的なトラブルへと変わっていきます。訪問販売や電話勧誘などでトラブルに巻き込まれるケースです。90代になると「俳句」「短歌」などの単語があるように、「あなたの俳句の本を出版しませんか」といった趣味に関連したトラブルが増加します。「入信」という単語も90代ならではです。


私たちの当初の仮説では、認知症の方に特有のトラブルがあると考えていたのですが、この結果からは、それよりも性別や年代によって巻き込まれるトラブルに特徴が見られることが分かりました。


SOMPO LIVEの資料⑦

内的要因…高齢者の消費トラブルに影響を与える「個人の能力や精神状態など」

外的要因…高齢者の消費トラブルに影響を与える「個人を取り巻く環境」

さらに、高齢者の消費トラブルに影響を与える要因を分析すると、内的な要因と外的な要因に分けられます。内的な要因としては、相談力の低下が含まれており、年齢が上がるほど、ケアマネジャーや地域包括ケアの担当者を通じた相談が増えています。つまり、多くのトラブルは水面下に潜ってしまっていて、その周りの支援者が気付いた一部のものだけが表面に浮かび上がってくるという状況があります。身体機能や感覚機能も低下してくるので、孤立や不安を感じることによって、訪問販売や勧誘に弱くなってしまう傾向も見られます。


外的な要因としては、商品やサービスの複雑化や、デジタル化の流れによる取引の変化などが挙げられます。社会の変化や社会構造なども、認知機能が低下している方には大きな影響があります。また、認知症の方に限らず高齢者全般に言われることですが、勧誘者との人間関係も消費トラブルには関係しています。頻繁に訪問されると「かわいそう」「申し訳ない」という気持ちになり、必要ではない物でも買ってしまう傾向があります。


判断不十分者契約によって企業が抱える課題と解決法

次に、判断不十分者契約によって企業がどんな課題を抱えているのかを見ていきましょう。判断不十分者契約による課題について、複数の企業にヒアリングした結果を下記の表にまとめました。


SOMPO LIVEの資料⑧

物販に関わる企業は、契約後の解約、返品などでかなりの経費を負担していることが分かります。トラブルが起きた際の対応の難しさもあり、「丁寧に対応しても結局お客様の満足に至らないことが多い」という声が寄せられています。また、ご本人の判断力を確認する難しさもあり、高価な商品を販売した際に、後にご家族から「高い物を売りつけられた」と言われてしまうケースがあります。


他にも、ご本人は買いたがっているのに、ご家族からは反対されているといった意見の相違や、取引のDX化によって取りこぼされてしまった高齢者や認知症の方から苦情が寄せられること、その対応がスタッフの負担となっていることが課題になっています。

これらの課題に対して、企業がどんな対応の工夫が必要なのでしょうか。


SOMPO LIVEの資料⑨

丁寧な対応や合理的配慮については、業界団体単位で取り組まれているところが多くありました。また、「契約時に複数の同席や時間の猶予を設ける」「長期にわたる契約の場合は定期的に確認する」「代理請求ができる仕組みを作っておく」といったルールを設定しています。トラブルの事例をデータベース化している企業もあり、そうした対策は非常に有効だと思います。もう一歩進めて、消費トラブルが認知症のどの段階で起こっているのかを社内で分析すれば、さらに対策に役立てることができます。


消費者庁では、さまざまな企業へのヒアリングに基づき、『認知症の人にやさしい対応のためのガイド』を作成しています。このガイドブックでは、認知症のある消費者にどのように対応していけばよいのかを分かりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

認知症の人にやさしい対応のためのガイド【消費者庁】


契約後の解約、返品などで負担していた経費が削減できます。苦情が減ることでスタッフのストレスも軽減できるメリットがあります。また、認知症の知識を身に付けることは、スタッフが親の介護をする際や、高齢者の就労を推進する上でも役立ちます。これらの取り組みを通して、企業のブランディングを高めることにも貢献できます。


まとめ

今後、認知症との共生社会実現に向けて、企業の意識や取り組みはとても重要になるでしょう。今回ご紹介したポイントや対策はすぐに、取り入れやすいものですので、ぜひ参考にしてみてください


文/安藤 梢 

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