{{ header }}
{{ body }}
スキップ
2018.10.01

【コラム】認知機能維持への近道は食生活にあった~老化に関する長期縦断疫学研究

 認知症とは、さまざまな要因により脳内の細胞の働きが悪くなり、認知機能が低下することで、日常生活を営む上で支障が生じる状態をさします。現在、世界中でその治療法と、発症そのものを抑制しようとする予防法の開発が進められています。特に食事や身体活動など、誰もが営む基本的な生活習慣を改善することで認知症の発症を予防する策はないか、様々な観点から研究が行われています。

 本コラムでは、食事と認知機能の関連に注目し、認知症の発症予防に効果的と考えられている栄養は何か、また、日本人の場合、どのような食生活を送るとその発症を予防することができるかについて、国内外の代表的な研究成果を踏まえながら、大塚先生(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター NILS-LSA活用研究室)にご紹介いただきます。


執筆者画像
国立長寿医療研究センター 大塚 礼
(著者プロフィール) 大塚 礼 (おおつか れい) 東京水産大学(現在 東京海洋大学)水産学部 食品生産学科卒業。 食品メーカーの品質管理課に食品衛生管理者として勤務したのち、名古屋大学大学院医学系研究科の修士課程と博士課程を修了。 2007年以降、国立長寿医療研究センターに勤務。2013年から現在まで、老年学・社会科学研究センター NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)活用研究室 室長として、老化や老年病の予防法を探るための研究「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA:ニルス・エルエスエー)」)に従事する。

認知症の予防効果が見込まれる栄養学的要因

 アルツハイマー病や脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、認知症には様々な種類があります。これらに対し予防効果があると考えられている栄養素には、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やイコサペンタエン酸(EPA)、野菜や果物に多く含まれるビタミンB群の葉酸、ポリフェノールやカロテノイドなどが知られています。以上の栄養素は、体の中で抗酸化作用や炎症抑制作用をもち、脳内の細胞を良好に保つことにより、脳の機能維持に貢献すると考えられています。

また栄養素や食品の分類ではなく、「地中海食」や「西洋食」といった食事パターンに着目した研究も多く実施されており、特に欧米では、地中海食が認知機能低下を抑制するという研究結果が報告されています。私たち日本人には馴染みの少ない食事ですが、「季節折々の野菜・豆類・果物・種実類を多く摂取し、オリーブ油を主たる油脂として使い、魚介類や乳製品(チーズやヨーグルト等)、鶏肉は適量を、赤身肉は少なめに、適量の赤ワインを摂取する食事1)」を指すと言われています(図1)。しかし、日本では地中海食を日常的に摂取する習慣をもつ人は少ないため、残念ながら日本人を対象とした研究において、その認知症予防効果ははっきりと認められていません。


 また、高齢者を対象とした研究では図2に示すように、豆類や大豆製品、野菜・海藻類、乳類や乳製品を多く含み、米類は控えめな食事パターン2)や、魚類や野菜・きのこ・海藻類、漬物、大豆製品、緑茶摂取を多く含む日本型食事パターンの人は、そうでない人に比べて、その後の認知症発症リスクが低かったこと3)、そして、穀類中心ではなく色々な食品から構成される食事を摂る傾向が強い人ほど、より認知機能が維持されていたという報告4)があります。いずれの研究結果も、栄養学的な観点からは、単一の食品ではなく、様々な食材を用いた栄養バランスの良い食事が、脳の機能維持に貢献し、認知症予防に効果的であることを示唆しています。


地域住民を対象とした老化に関する長期縦断疫学研究

ではどうして、バランスの良い食事が認知症予防に効果的なのでしょうか。

国立長寿医療研究センターでは、1997年から愛知県大府市と知多郡東浦町にお住まいの方や、地方自治体の皆様にご協力いただき、老化や老年病の予防法を探るための研究(正式名称は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA:ニルス・エルエスエー)」)を実施しています。この調査にご参加いただいた60歳以上の方を対象に、食品摂取の多様性(=色々な食品を食べること)と認知機能との関連を調べたところ、図3に示すように、バランスよく色々な食品を食べる、食品摂取多様性の高い人ほど、認知機能低下のリスクが低いことが分かりました4)。また、食品摂取の多様性が高い人は低い人に比べ、たんぱく質や脂質、ビタミン類、微量栄養素などの摂取量が高く、栄養摂取状況が良好でした。このことから、バランスの良い食事が好ましい栄養摂取を介して、脳の機能維持に良い効果をもたらしたものと考えられます。

また食品摂取の多様性が高い食事を摂るためには、様々な食材を手に入れる、食事の献立を考える、食事を作るなど、脳を使うのはもちろんですが、体を動かす必要もあります。このような食行動が、脳の機能維持に貢献したとも考えられます。



食生活からの認知症予防

 最後に、高齢期だけでなく、若年期からの認知症予防を踏まえて、どのような食生活を営むことが、将来の認知症予防に寄与するかについても触れたいと思います。

 認知症の発症には遺伝的要因や生活習慣に加え、糖尿病や中年期の肥満などが関連すると考えられています。若年期の食生活は、将来の認知症発症と一見関連がないように思えますが、実際は、若年期の暴飲暴食や栄養バランスの偏りは、糖尿病や肥満、高血圧などの生活習慣病を介して、将来の認知症発症リスクを高めるため注意が必要です。

 先にご紹介したように日本人高齢者を対象とした研究からは、単一の食品ではなく、様々な食材を用いた栄養バランスの良い食事が、認知症予防に効果的であることが示されていいます。近年、生活習慣病予防の観点からは「減塩日本食」が良いと報告されていますが5)、これらの知見や私たち日本人が古くから営んできた食事を踏まえると、「季節折々の野菜・果物・豆類を沢山取り入れ、魚介類も乳製品も積極的に、そして塩分は控えめにした身近な日本食」が、若中年期の生活習慣病を予防し、さらには高齢期の認知症予防にも貢献すると推察されます。毎食、このような食事の摂取が難しくても、自身の食生活を振り返り、無理なく実践できるところから改善することが認知症予防の秘訣と言えるでしょう。





出典

1) Willett WC, et al. Mediterranean diet pyramid: a cultural model for healthy eating. Am J Clin Nutr. 61:1402S-1406S, 1995.

2) Ozawa M, et al. Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population: theHisayama Study. Am J Clin Nutr. 97:1076-82, 2013.

3) Tomata Y, et al. Dietary Patterns and Incident Dementia in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 71(10):1322-8, 2016.

4) Otsuka R, et al. Dietary diversity decreases the risk of cognitive decline among Japanese older adults. Geriatr Gerontol Int. 17(6):937-944, 2017.

5) Nakamura Y, et al. A Japanese diet and 19-year mortality: national integrated project for prospective observation of non-communicable diseases and its trends in the aged, 1980. Br J Nutr. 101(11):1696-705, 2009.


楽しく、あたまの元気度チェック(認知機能チェック)をしましょう

あたまの元気度チェックへ

メール会員のおもな特典

メール会員には、「あたまの元気度チェックの結果記録」に加え、以下のような特典があります。

身長や体重・運動習慣等を入力するだけで、将来の認知機能低下リスクをスコア化できます。

認知症や介護に関する最新のニュースやお役立ち情報を月2回程度お知らせします。

関連記事