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2018.10.01

【コラム】認知症について -アルツハイマー病の新しい理解

「人生100年時代」を目前に、進む高齢化社会の中で大きな課題となっている認知症。65歳以上の4人に1人が認知症患者とその予備軍といわれており、現在もその数は増加しています。 認知症の原因となる病気の約三分の二を占めるというアルツハイマー病の研究を進めている国立長寿医療研究センター 柳澤勝彦研究所長に、「アルツハイマー病」と「アミロイド」の関係性、新しい理解についてご紹介いただきます。

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国立長寿医療研究センター 柳澤勝彦
(著者プロフィール) 柳澤勝彦 (やなぎさわ かつひこ) 新潟大学医学部医学科卒業。米国国立衛生研究所研究員, 新潟大学脳研究所神経内科助手, 東京医科歯科大学医学部神経内科助手, 東京大学医学部脳研究施設病理学部門助手, 国立長寿医療センター研究所部長を経て、2005年以降、国立長寿医療研究センターに勤務。現在は研究所所長として、分子神経病理学・アルツハイマー病の発症機構に関する研究を通じて, アミロイドß蛋白の脳内重合を阻止しうる薬剤の開発を目指している。

増え続ける高齢者とアルツハイマー病

高齢者人口の増加と相まって、認知症患者やその発症前段階におられる高齢者は増えつづけ、その数は500万人をくだらない。製薬企業や大学で治療薬開発に携わる研究者の精力的な努力にもかかわらず、認知症の発症や進行を安全、かつ、確実に抑える手立ては未だ開発されていない。団塊世代(世界的にはベビーブーマー)の皆さんが認知症好発年齢である75歳以上となる2025年までに有効な対応策を講じる必要が我が国を含む先進国で議論されている。治療薬開発には苦戦が続いているが、認知症、特にアルツハイマー病の基礎研究は随分と進展し、私共の理解は深まっている。本稿では、最近のアルツハイマー病研究の一端をご紹介し、薬に頼らない認知症発症予防の可能性について考えてみたい。


アミロイドの蓄積は知らない間に始まっている

 アルツハイマー病に罹患した脳の中では、生理的に産生された(健常者の脳にも存在する)アミロイドß蛋白(Aß)という小さな蛋白分子が異常に重合しアミロイドという塊ができ、老人斑という円環状の構造物をつくる。これが引き金となって、さまざまな病的な反応が誘導され、最終的に脳を構成する神経細胞が著しく脱落し、認知機能障害(認知症)に至ると考えられる。しかし、何故、Aßが重合するのか、アミロイドがどのようにして神経細胞脱落に至る脳内変化を誘導するのかは依然不明である。幸い、脳内のアミロイド蓄積を客観的に捉えることが可能な画期的な脳画像診断法が今から10年ほど前に開発された。それはポジトロン断層法(positron emission tomography: PET)という装置を用いた検査で、脳の中で形勢され蓄積するアミロイドを視覚的に観察することが可能である。この方法で多くの方の脳を検査、解析した結果、驚くべきことに、認知症を発症する(臨床的にアルツハイマー病と診断される)時点の20年から30年も前にアミロイドの蓄積が開始していることが明らかとなった。糖尿病、高血圧、高脂血症は自覚的に症状がなくとも病院の検査で診断され、必要に応じて薬も処方される。アルツハイマー病も、これらの生活習慣病と同じように考えるべき時代になっているのかも知れない。換言すれば、アルツハイマー病は老齢期ではなく中高齢期の病気と理解すべきかも知れない。ただ残念ながら、生活習慣病の場合のように、病変や病態の進行を阻止しうる薬物は未だ開発されておらず、いたずらに脳内病変の検出のみを急ぐことは倫理的にも慎重に検討すべき課題といえる。早期診断は早期治療(予防)が担保されて初めて意味をもつことは言うまでもない。


実態不明の抵抗力、「認知予備能」

 加えて、これまでの臨床研究によって興味深い事実が明らかにされている。それは、アミロイドが蓄積し、その後に様々な病理学的反応が進行し、相当程度、神経細胞が脱落した段階に至っても、日常的に問題となる認知機能障害を示さない高齢者がおられるということである。概念的に、脳の中に病理学的変化が存在していても認知機能をもち堪える抵抗力を、「認知予備能」と呼んでいる。認知予備能の実態は何なのか不明であるが、おそらくは残存する神経細胞間の機能的な連結が強固に保たれている状態と想像される。重要なことはどのようにすれば大きな認知予備能を獲得でき、またそれを維持できるかである。これまでの研究から、認知予備能と教育を受けた時間(教育年数)との間にはある程度の相関がありそうである。また、認知予備能はアルツハイマー病変以外にも生活習慣病や血管障害、頭部外傷、アルコールの過剰摂取等によっても損なわれると考えられる。総合すると、子供の頃からしっかり学習し、認知予備能を大きく育て、脳に対して保護的な生活を生涯通じて送り、認知予備能を保全することが認知症を発症せずに天寿を全うするためには肝要と考えられる。


認知症の発症を阻止するためには

 認知予備能を育て、守ることは、個人の努力や家族の協力、さらには社会の制度である程度は可能かも知れない。しかしながら、アルツハイマー病を含め、認知症は極めて多様な病態であり、予防的な生活習慣のみでは抗しきれない場合も多いと想像される。薬物か非薬物かに限ることなく、認知症の発症を阻止し、進行を鈍化させる確実な手立てを構築することが焦眉の課題である。

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