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2018.10.01

【コラム】認知症について(認知機能と運動)

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(著者プロフィール) 島田裕之(しまだ ひろゆき) 北里大学大学院博士課程を修了。東京都老人総合研究所研究員、Prince of Wales Medical Research Institute客員研究員、日本学術振興会特別研究員、東京都健康長寿医療センター研究所を経て、現在は国立長寿医療研究センターに勤務。名古屋大学、信州大学大学院の客員教授を併任しながら、高齢者の健康増進に関する研究を行っている。

高齢化が進む日本において認知症は大きな課題となっており、治療・予防への急務な対応を迫られています。今回のコラムでは、認知症の予防や発症遅延のために必要なこと、認知症とその予防に効果的な運動について、国立長寿医療研究センターの島田先生にご紹介いただきます。


1) 認知症のこれから

 認知症の年間の発症率は65 から69 歳では0.3%、75 から79 歳では1.8%、85 から89 歳では5.3%、95 歳以上では8.7%と加齢に伴い上昇すると言われています[1]。日本では、今後75歳以上の後期高齢者数の増加に伴い認知症高齢者の増加も予想され、その予防が急務の課題となっています。また、認知症者数の将来推計では、今後のアジアにおける高齢者人口の急激な増大を背景に、アジアにおいて認知症者数が急増することが予想されています[2]。日本は高齢化が諸外国と比べ先行しており、日本が認知症の問題にどのように取り組み、問題解決していくかが、今後のアジアや世界のモデルとなるでしょう。  認知症は多額の医療や介護費用が必要となりますが、英国の調査では、約82万人の認知症患者の年間費用は、227億ポンドに達し、がん(120億ポンド)、冠動脈疾患(78億ポンド)、脳血管疾患(50億ポンド)と比較して高いとされています。日本の認知症者は462万人と推定されており、英国の5.6倍の認知症者が存在し、認知症関連費用の試算では米国に次ぐ世界第2位の費用となっています[3]。また、国民生活基礎調査による介護が必要となった主な原因をみると、脳卒中についで認知症が第2の原因となっています。認知症の主な原因疾患であるアルツハイマー病および脳卒中に対する根治療法や予防薬が確立されていない現在において、認知症の予防もしくは発症遅延のために服薬以外の方法を実践することが必要です。


2)認知症の危険因子と保護因子

 認知症の危険因子は、生活習慣病の危険因子である糖尿病、高血圧、肥満やうつ、運動不足、喫煙、教育水準などが代表的であると考えられています[4]。それらの危険因子が、アルツハイマー病発症に対して人口あたりの影響度を分析した研究では、米国においては運動不足が最もアルツハイマー病に強く寄与していたことが明らかとされました[4](図2)。この結果は、認知症の予防のためには運動不足を解消し、活動的なライフスタイルを確立することが重要であることを示唆しています。また、その他にも抗酸化物質や抗炎症成分を多く含む食物の摂取、社会参加、知的活動、生産活動への参加、社会的ネットワークが、認知症発症に対する保護的因子として認められています。


年代別に認知症の危険因子をみると青年期における高等教育やそれ以降の知的活動が、認知症発症抑制に寄与するかもしれないと考えられています[5]。中年期においては生活習慣病の管理が重要であり、高血圧、脂質異常症、糖尿病は脳血管疾患の危険因子であるとともにアルツハイマー病の危険因子でもあり、服薬管理、規則正しい食生活、運動習慣の確立が必要です。高齢期には老年症候群等の因子が重要な認知症の危険因子となります。たとえば、高齢期のうつ症状は、活動性を低下させ社会的孤立を招くとともに、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)の発現を減少させます。BDNFの低下と海馬の萎縮は関連し[6]、これが脳の予備力低下につながることが分かっています。これらの危険因子を回避するためには、身体、認知、社会的活動を向上し、活動的なライフスタイルを如何にして確立していくかが認知症予防対策として重要であると考えられます(図3)。


 とくに、軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)が生じた場合には、認知症予防の取り組みを積極的に行う必要があります。MCIとは認知症ではないが認知機能の低下を有する状態であり、認知症の前駆状態としてとらえられ、認知機能が正常な高齢者と比較して認知症になる危険性が高い状態です[7]。ただし、MCIを有していても、その後正常へと回復を示す人も多く、私達の研究では、症状が比較的軽いMCIでは半数以上が4年後の調査時に正常の状態に改善していました[8]。この結果は、認知症を予防するためには、MCIの状態を早期に発見して、改善のための取り組みを行う必要があることを示唆しています。


3)運動による認知症予防

 習慣的な運動習慣の確立は、認知症発症の抑制と関連が認められていますが[9-13]、MCI高齢者を対象として運動の効果を確認したランダム化比較試験による知見は十分集積していません。そこで、私達の研究チームは、MCI高齢者を対象としたランダム化比較試験を実施し、認知機能に対する運動の効果を確認しました[14-16]。従来実施されてきた有酸素運動や筋力トレーニングのみでは、MCI高齢者の記憶等の認知機能を効果的に向上することは難しいとされていましたが、これらに記憶課題や計算課題をしながら運動するコグニサイズ(図4)を加えたプログラムを実施すると、全般的認知機能の保持効果や記憶が向上することが確認できました。また、脳の萎縮を抑えることもできる可能性が示されました。 コグニサイズとは、コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語で、コグニション課題とエクササイズ課題を同時に行うことで、脳とからだの機能を効果的に向上させることを狙います。


図5は、運動群に参加された81歳男性(上段)と対照群に参加された80歳男性(下段)の例です。色がついている箇所が脳の容量が低下し始めている部位をあらわしています。下右のグラフは、脳の容量が低下し始めている部位の割合の変化を示しています。縦軸の数値が大きいほど、脳の萎縮(やせ細り)が進行していることを示します。


4)プログラムの概要

 この認知症の予防を目指す運動プログラムは、平成22年(2010年)から愛知県大府市において国立長寿医療研究センターが先行的に実施した運動による効果検証の研究事業が基盤となっています。このプログラムは、国内の自治体での地域フィールドで実施が可能となるように、特殊な大型器具は必要とせずに、集団で実施するプログラムとなっています。プログラムの最も特徴的なポイントは、「コグニサイズ」という新たな概念での運動プログラムが加わっていることです。運動習慣を身につけるとともに、運動中に頭を使って認知症予防の実践を一人でも多くの方に始めていただきたいと願っています。



参考文献

1. Gao, S.; Hendrie, H.C.; Hall, K.S.; Hui, S. The relationships between age, sex, and the incidence of dementia and alzheimer disease: A meta-analysis. Archives of general psychiatry 1998, 55, 809-815.

2. World Health Organization; Alzheimer’s Disease International. Dementia: A public healthy priority. World Health Organization: Geneva, 2012.

3. Wimo, A.; Winblad, B.; Jonsson, L. The worldwide societal costs of dementia: Estimates for 2009. Alzheimer's & dementia : the journal of the Alzheimer's Association 2010, 6, 98-103.

4. Barnes, D.E.; Yaffe, K. The projected effect of risk factor reduction on alzheimer's disease prevalence. Lancet neurology 2011, 10, 819-828

. 5. Singh-Manoux, A.; Marmot, M.G.; Glymour, M.; Sabia, S.; Kivimaki, M.; Dugravot, A. Does cognitive reserve shape cognitive decline? Ann Neurol 2011, 70, 296-304.

6. McKinnon, M.C.; Yucel, K.; Nazarov, A.; MacQueen, G.M. A meta-analysis examining clinical predictors of hippocampal volume in patients with major depressive disorder. J Psychiatry Neurosci 2009, 34, 41-54.

7. 佐々木恵美; 朝田 隆. 茨城県利根町研究の結果から:adへのコンバージョンを考察する. 老年精神医学雑誌 2006, 17(増刊-Ⅱ), 55-60.

8. Shimada, H.; Makizako, H.; Doi, T.; Lee, S.; Lee, S. Conversion and reversion rates in japanese older people with mild cognitive impairment. J Am Med Dir Assoc 2017, 18, 808 e801-808 e806.

9. Yoshitake, T.; Kiyohara, Y.; Kato, I.; Ohmura, T.; Iwamoto, H.; Nakayama, K.; Ohmori, S.; Nomiyama, K.; Kawano, H.; Ueda, K., et al. Incidence and risk factors of vascular dementia and alzheimer's disease in a defined elderly japanese population: The hisayama study. Neurology 1995, 45, 1161-1168.

10. Scarmeas, N.; Levy, G.; Tang, M.X.; Manly, J.; Stern, Y. Influence of leisure activity on the incidence of alzheimer's disease. Neurology 2001, 57, 2236-2242.

11. Lindsay, J.; Laurin, D.; Verreault, R.; Hebert, R.; Helliwell, B.; Hill, G.B.; McDowell, I. Risk factors for alzheimer's disease: A prospective analysis from the canadian study of health and aging. Am J Epidemiol 2002, 156, 445-453.

12. Laurin, D.; Verreault, R.; Lindsay, J.; MacPherson, K.; Rockwood, K. Physical activity and risk of cognitive impairment and dementia in elderly persons. Arch Neurol 2001, 58, 498-504.

13. Verghese, J.; Lipton, R.B.; Katz, M.J.; Hall, C.B.; Derby, C.A.; Kuslansky, G.; Ambrose, A.F.; Sliwinski, M.; Buschke, H. Leisure activities and the risk of dementia in the elderly. N Engl J Med 2003, 348, 2508-2516.

14. Suzuki, T.; Shimada, H.; Makizako, H.; Doi, T.; Yoshida, D.; Tsutsumimoto, K.; Anan, Y.; Uemura, K.; Lee, S.; Park, H. Effects of multicomponent exercise on cognitive function in older adults with amnestic mild cognitive impairment: A randomized controlled trial. BMC neurology 2012, 12, 128.

15. Suzuki, T.; Shimada, H.; Makizako, H.; Doi, T.; Yoshida, D.; Ito, K.; Shimokata, H.; Washimi, Y.; Endo, H.; Kato, T. A randomized controlled trial of multicomponent exercise in older adults with mild cognitive impairment. PloS one 2013, 8, e61483.

16. Shimada, H.; Makizako, H.; Doi, T.; Park, H.; Tsutsumimoto, K.; Verghese, J.; Suzuki, T. Effects of combined physical and cognitive exercises on cognition and mobility in patients with mild cognitive impairment: A randomized clinical trial. J Am Med Dir Assoc 2017.

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