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2019.02.01

【コラム】認知機能維持のための心のもちよう~好奇心旺盛に過ごすこと、目標をもつことの大切さ~

私たちは、さまざまな問題を処理しながら日々の生活を送っています。例えば、買い物をする、食事をする、ATMを使う、車を運転する、病院を受診する、薬を服用する、旅先でパスポートを扱う、後進を指導する、子どもたちの安全を守る・・・などです。このような日常の行動を支える知的な能力のことを認知機能といいます。今回のコラムでは、加齢にともなう認知機能の変化について、また、認知機能の維持に大切な心のもちようについて、心理学の立場からご紹介します。


(著者プロフィール)

西田裕紀子(にしたゆきこ)

名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程を修了。国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)活用研究室の心理学研究員。加齢のプロセスや,老化・老年病の要因の解明を目指す「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」に従事し、加齢にともなう心理的な変化やその要因に関する研究を行っている。



認知機能の加齢変化

歳を重ねていくと、「なかなか人の名前が出てこない」「若い頃よりも頭の回転が鈍くなった」などと実感することが多くなります。確かに、中年期から高齢期になってくると、瞬時に何かを思い出したり、新しいことにすばやく対応したりすることは難しくなってきます。

一方で、生涯学習の講座などでは、生き生きと学習するご高齢の方の姿を多く見かけます。多くの方は、「やっと自由に過ごせる時間ができたから」「前から興味があったことを勉強してみたくて」などの動機から、新しいことを覚えたり身につけたり、知識を深めたり、その経験を生かした活動を積極的に行ったりされています。また、文学、芸術、政治などのさまざまな分野においては、若い頃よりもむしろ高齢になってから、人生における最大の業績を残すことも多いことが知られています。


認知機能の分類

認知機能には、いくつかの種類があります。ひとつの重要な分類は、流動性知能と結晶性知能です(図1)。流動性知能は、新しい環境にすばやく適応するために、情報を処理し操作する能力で、処理のスピード、法則を発見する能力などです。一方、結晶性知能は、人生における経験や学習などから獲得していく能力で、言語能力、理解力、洞察力、社会適応力などにあたります。


流動性知能と結晶性知能の加齢変化

重要なことは、流動性知能と結晶性知能では、加齢にともなう変化の様相が大きく異なることです(図2)。流動性知能は、脳の器質的な加齢の影響を受けて低下する傾向があります。しかしながら、さまざまな人生経験を通して蓄積される結晶性知能は、高齢になっても十分に維持できたり、あるいは、なお成熟したりすることが多くの研究から明らかになっています(図2)。私たちは、歳を重ねて生じてくる良くない変化(頭の回転が鈍くなった気がするなど)を気にしがちですが、高齢になっても成熟していく結晶性知能に目を向け、それを生かし、大切に伸ばしていくことが、幸せな加齢のためにはとても重要です。


認知機能維持のための心のもちよう~好奇心旺盛に過ごすことの大切さ~

ところで、最近、新しく始めたことはありますか? 今、関心があることや、チャレンジしてみたいことはありませんか?心理学では、「好奇心が強くて、新しいことに挑戦することが好き」という心のもちようのことを、「経験への開放性」と呼んでいます。近年、この「経験への開放性」が高いことが、認知機能を維持するための重要な秘訣であることが明らかになってきています。ひとつの研究をご紹介します。


 愛知県の国立長寿医療研究センターでは、日本人の加齢のプロセスや,老化・老年病の要因を解明することを目的とした「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」を実施しています。NILS-LSAの2年間隔の調査データを用いて、「経験への開放性」が認知機能の変化とどのように関係するかを調べました3, 4)。分析の対象は40~82歳の2,205名です。「経験への開放性」の高さは、12の質問項目によって評価しました。認知機能は、「知識力」検査や「情報処理スピード」検査などを用いて、約10年間にわたって繰り返し測定しました。


 分析を行った結果、年齢に関係なく、「経験への開放性」の高い人は、低い人に比べて、認知機能が高いことが分かりました。すなわち、好奇心が強くて、新しい経験に挑戦することが好きな人は、知的な能力も高い傾向があったのです。 さらに重要な発見は、高齢の方ほど、「経験への開放性」という心のもちようが、その後10年間の認知機能の変化に好ましい影響を与えていたことです。図3には、75才の方を想定したときの、「経験への開放性」と認知機能のひとつである「知識力」の変化との関係を示しました。「経験への開放性」が高い75歳の方は、もともとの「知識力」の得点が高いだけでなく、10年後、85歳になってもなお、高得点を維持することができています。しかしながら、「経験への開放性」が低い75歳の方は、もともと「知識力」の得点が低いのですが、10年後には、さらに得点が低下していました。


 「知識力」は、人生の経験を重ねることによって成熟していく結晶性知能です。散歩しながら草花を調べてみたり、珍しい野菜作りに挑戦してみたり、住んでいる土地の歴史を調べてみたり・・・。高齢になってこそ、好奇心旺盛に過ごして、興味や関心を広げたり掘り下げたりすることは、結晶性知能をいっそう磨くこと、さらには、人生をより実り豊かなものにすることにつながると言えそうです。



認知機能維持のための心のもちよう~生きる目標をもつことの大切さ~

もうひとつ、海外で行われた重要な研究をご紹介します。ボイルたちの研究グループ5)は、約250人の高齢者を対象として認知機能を検査して、その人たちが亡くなった後に脳を解剖するという大規模な調査を行いました。その結果から、高齢になっても「生きる目標をもっていた」人は、たとえ脳の中でアルツハイマー型認知症の神経病理学的な兆候が進行していた場合でも、実際の生活の場面においては認知機能を高く維持できていたことを報告しています(図4)。


一般的にどのような人でも、加齢にともなって、脳が萎縮したり、認知症の特徴であるアミロイドたんぱくの沈着が生じたりすることが分かっています。一方で、高齢になってもなお、何かしらの目標を持ちつづけてポジティブに生活することは、より強くて効率的な神経システムを作り上げると推測されます。研究者たちは、そのことが脳に生じる生理的な神経病理に対抗する強さになるのではないかと考察しています。「生きる目標をもつ」という心のありようが、脳の生理的な機能の低下をおぎなうというこの結果は、身体的な加齢を自分自身でマネージメントすることの可能性を示しているとも考えられます。


 これまでのコラムでも見てきたように、認知症予防には、身体活動やバランスのとれた食事が有効であることが報告されています。好奇心や生きる目標をもつといった心のもちようは、このような健康的でアクティブなライフスタイルにも影響することが分かっています。加齢とともにより良く生きるためには、心のもちように目を向けることが大切です。


<出典>

1) 佐藤眞一. (2006). 「結晶知能」革命. 東京: 小学館.

2) Horn, J. L., & Cattell, R. B. (1967). Age differences in fluid and crystallized intelligence. Acta Psychologica, 26, 107-129.

3) 西田裕紀子・丹下智香子・富田真紀子・安藤富士子・下方浩史. (2012). 中高年者の開放性が知能の経時変化に及ぼす影響:6年間の縦断的検討. 発達心理学研究, 23, 276-286.

4) Nishita Y,Tange C, Tomida M, Ostuka R, Ando F, Shimokata H. (2016). Personality and global cognitive decline in Japanese community-dwelling elderly people: A 10-year longitudinal study.

J Psychosomtic Research, 91, 20-25.

5) Boyle, P. A., Buchman, A. S., Wilson, R. S., Yu, L., Schneider, J. A., & Bennett, D. A. (2012). Effect of purpose in life on the relation between Alzheimer disease pathologic changes on cognitive function in advanced age. Archives of General Psychiatry, 69, 499-504.

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