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2022.03.02

【筑波大学】食物繊維を多く摂る人は要介護認知症の発症リスクが低下する

認知症は、さまざまな原因により認知機能が低下する病気です。そのうち、介護保険における要介護認定に至った認知症は「要介護認知症」とされます。認知症は本人と家庭だけでなく、社会にも大きな負担をもたらすことから、その予防方法に関する知見が求められています。


このような背景のもと、近年では認知機能と食物繊維の関係に注目が集まっています。食物繊維は穀類やいも類、野菜、果物などに多く含まれる栄養成分で、腸内細菌にも影響を与えることが知られています。腸内細菌は消化管の病気だけでなく、認知機能にも関与している可能性が実験などにより示されています。しかし、実際に多くの人々を集めて、食物繊維の摂取量とその後の要介護認知症のなりやすさの関連を調べた研究は、これまでありませんでした。


筑波大学の研究チームは、日本人の健康に関する大規模コホート研究(※1)であるCIRCS研究(※2)において、1985年~1999年に栄養調査に参加した秋田、茨城、大阪の地域住民3,739人を対象に、日本人の食物繊維摂取と要介護認知症リスクとの関連を分析しました。対象者は40~64歳で、1999年~2020年の最大21年間にわたって追跡し、その間に発症した要介護認知症を登録しました。


※1 コホート研究

特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団(本研究では食物繊維摂取が多い集団と少ない集団)を一定期間追跡し、疾患の罹患率や死亡率を比較することで、要因と疾患との関連を調べる観察研究の一種。観察研究にはいくつかの手法があるが、コホート研究は他の観察研究よりも時間とコストがかかる一方、曝露要因(原因)と疾病の罹患や発症(結果)を時間の流れに沿って追跡することから、因果関係を明らかにする手法として、より望ましいと考えられている。


※2 CIRCS研究

CIRCSはCirculatory Risk in Communities Study(地域における循環器リスク研究)の略。秋田、茨城、大阪、高知の各地域で昭和30年代から行われてきた、脳卒中予防対策をベースとする疫学研究の総称で、わが国最古の循環器コホート研究の一つと位置づけられる。小町喜男・筑波大学名誉教授らによって開始された。


分析は、まず24時間思い出し法(※3)で、前日の食事を聞き取った情報をもとに、食物繊維(水溶性及び不溶性)と、食物繊維を多く含む食品群であるいも類・野菜類・果物類の摂取量を計算。それぞれの摂取量に応じて、対象者を4つのグループに等しく分けました。

次に、認知症のおもなリスク要因を統計学的に調整した上で、食物繊維摂取量が下位25%の群に対する他の群の要介護認知症リスクを算出しました。

さらに、認知症を「脳卒中既往のある認知症」と、「脳卒中既往のない認知症」の2タイプに分けた分析も行いました。水溶性食物繊維・不溶性食物繊維・いも類・野菜・果物摂取量と要介護認知症リスクとの関連も同様に分析しました。


※3 24時間思い出し法

食事調査法の一つで、調査時点からさかのぼって24時間に対象者が摂取した食事を全て聞き取り記録する方法。


その結果、食物繊維摂取量が下位25%の群に対し、25~50%、50~75%、および上位25%では、要介護認知症の発症リスクはそれぞれ0.83倍、0.81倍、0.74倍で、食物繊維の摂取が多いほど要介護認知症の発症リスクが低下する傾向が見られました(図1)。この関連は、脳卒中既往を伴わない認知症においてのみ見られました。


ハザード比は食物繊維摂取量下位25%を基準とし、地域を層別し、性別、年齢、総エネルギー摂取量、喫煙、飲酒、魚・肉・ナトリウム摂取量を調整した。図中の●はハザード比を、その上下の棒は95%信頼区間の範囲を示す。


また、食物繊維のうち水溶性食物繊維については、摂取量が下位25%の群に対し、要介護認知症の発症リスクは摂取量25~50%の群で0.72倍、50~75%の群で0.77倍、上位25%の群で0.61倍と、より強いリスク低下傾向が見られました(図2)。


ハザード比は水溶性食物繊維摂取量下位25%を基準とし、地域を層別し、性別、年齢、総エネルギー摂取量、喫煙、飲酒、魚・肉・ナトリウム摂取量を調整した。図中の■はハザード比を、その上下の棒は95%信頼区間の範囲を示す。


また、いも類摂取量においても同様の関連が見られましたが(図3)、野菜類、果物類ではこのような関連は見られませんでした。


ハザード比はいも類摂取量下位25%を基準とし、地域を層別し、性別、年齢、総エネルギー摂取量、喫煙、飲酒、魚・肉・ナトリウム摂取量を調整した。図中の■はハザード比を、その上下の棒は95%信頼区間の範囲を示す。


今回の研究により、食物繊維(とくに水溶性食物繊維)の摂取が多いほど、要介護認知症の発症リスクが低くなることが世界で初めて疫学的に示されました。この関連は、要介護認知症の中でも脳卒中既往を伴わない認知症のみに見られました。脳卒中既往を伴わない認知症の多くはアルツハイマー型認知症と考えられ、食物繊維の摂取が腸内細菌の構成に影響を与え、神経炎症を改善したり、他の認知症危険因子を低減したりすることにより、認知症発症リスクを低下させる可能性が考えられています。

認知症の成因にはまだ不明なことが多く、一つのコホート研究の結果だけで因果関係を断定することはできませんが、この研究結果は認知症予防につながる知見の一つと言えます。


■詳細は以下の外部リンクをご覧ください。

https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20220210140000.pdf


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