身体活動は認知症の予防に関連があると考えられていますが、高齢期初期の認知症発症に対するさまざまな種類の身体活動の効果は、よく調べられていません。このような状況において、新潟大学大学院医歯学総合研究科環境予防医学分野の中村和利教授らの研究グループは、日本人を対象として身体活動量と認知症低リスクの関連性を明らかにしました。
身体活動は認知症の予防に関連があると考えられていますが、高齢期初期の認知症発症に対するさまざまな種類の身体活動の効果は、よく調べられていません。このような状況において、新潟大学大学院医歯学総合研究科環境予防医学分野の中村和利教授らの研究グループは、日本人を対象として身体活動量と認知症低リスクの関連性を明らかにしました。
■研究の目的と方法
今回の研究は、8年間の追跡調査において、中高年者の認知症リスクに対する余暇身体活動および非余暇身体活動(以下「生活身体活動」と意訳)の効果を明らかにすることを目的としました。
村上コホート研究(※)参加者のうち、初回調査で要介護認定を受けていた人などを除く13,773人を解析対象とし、身体活動量を自記式質問票の項目を使って推定しました。具体的には、余暇における身体活動量(散歩、ウォーキング、スポーツなど)と、生活身体活動(通勤、仕事、家事など)の活動強度と活動時間から算出。そして得られた身体活動量を4グループに分け、活動量最小のグループを基準として他の群のリスクを相対値として算出しました。余暇身体活動に関しては、活動をしないグループを基準として、活動をするグループを3分位に分け比較しました。生活身体活動に関しては、全体を4分位に分け比較しました。
※村上コホート研究
2011年から行われている、新潟県村上市・関川村・粟島浦村の40~74歳の住民を対象にした大規模な健康調査。そこから得られる健康情報を地域全体で共有し、生活習慣病や介護予防に役立てようとする健康推進プロジェクト。
■研究の結果
余暇身体活動量が多いほど認知症のリスクは低下し、活動の「多い」グループのリスクは「しない」グループの0.55倍でした(図1)。
同様に、生活身体活動量が多いほど認知症のリスクは低下し、「多い」グループのリスクは「しない」グループの0.52倍でした(図2)。
また、余暇と生活身体活動量を組み合わせた16段階のレベルによる要介護認知症リスクの結果を示しました(図3)。余暇および生活身体活動量は、それぞれ独立に要介護認知症低リスクに関連していました。性別や年齢群別に解析を行っても結果は同様で、ベースライン調査開始から4年目までの早い時期の認知症発症を除外しても、結果は同様でした。
■研究の考察
今回の研究では、地域在住の日本人高齢者を対象として、余暇身体活動と生活身体活動の両方がそれぞれ認知症リスク低下と関連が強いことを示していました。言い換えると、余暇身体活動および生活身体活動の両方を活発に行えば行うほど、認知症リスクが低下することが示唆されました。
今回の研究を含むこれまでのコホート研究(縦断観察研究)では、身体活動量は認知症リスク低下に関連するという十分な証拠が得られていますが、ランダム化比較試験(介入試験)では、必ずしもこのような結果を支持していません。例えば、高齢者を対象とした大規模なランダム化比較試験では、認知機能の改善は認められませんでした。この矛盾の理由は明らかになっていませんが、コホート研究に比べてランダム化比較試験の介入期間は比較的短いため、関連性の検出が困難であるのかもしれません。
また、身体活動量と認知症の研究では、因果の逆転バイアスの可能性が指摘されています。すなわち、アルツハイマー病では臨床症状が出現する10年以上前からアミロイドβが蓄積すると考えられているため、それにより身体活動が早い段階から低下し、見かけ上、身体活動の少ない人に認知症発症が多いと観察される可能性が否定できないということです。観察をより長期に続けることで、このようなバイアスを克服する必要があります。
犬の散歩やガーデニングなど、あまりがんばりすぎない余暇運動もおすすめです
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