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2022.05.30

【筑波大学】鎮静・抗コリン作用薬剤の処方が多いほど要介護認定リスクが高まる

高齢者は慢性疾患の治療薬を複数服用していることが多く、薬剤関連の有害事象に対する注意がとくに必要です。中でも、鎮静作用(※1)や抗コリン作用(※2)を有する薬剤は、フレイルと呼ばれる心身の虚弱化や転倒、認知機能低下を起こす危険があることが指摘されています。しかし、これらの薬剤の使用が実際に、高齢者の生活自立機能の低下と関連しているのか、日常の診療行為に基づく情報を用いての検証はなされていませんでした。


※1 鎮静作用

中枢神経抑制や筋弛緩作用

※2 抗コリン作用

自律神経の働きを調整するアセチルコリンの働きを阻害する作用



このような背景のもと、筑波大学では「つくば市及び国立大学法人筑波大学の医療介護分野におけるデータ分析に関する覚書」に基づいて、つくば市から提供された医療介護データを用いた研究を実施。高齢者における鎮静・抗コリン作用を有する薬剤の使用と、初回の要介護認定発生リスクとの関連を推定しました。


【研究対象】

研究対象は、国民健康保険・後期高齢者医療制度の被保険者となっているつくば市民(65歳以上の市民の約9割)で、2組に分けて比較を行いました。1組目は、2014~2018年度に新規で要支援・要介護認定者となった高齢者(以下「新規要介護認定者群」・2,123例)が認定前24カ月間の鎮静・抗コリン作用を有する薬剤の処方量。2組目は、新規要介護認定者群と年齢・性別・生活圏域・観察期間が一致する未認定の対照群(40,295例)の同薬剤の処方量。これを医療レセプトからそれぞれ算出し、比較しました。


【研究内容】

鎮静・抗コリン作用を有する薬剤として、日本老年医学会による「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の「特に慎重な投与を要する薬剤のリスト」(※3)の中から、鎮静・抗コリン作用を有する109剤(11クラス)(※4)を選定。これらの24カ月間の累積処方量を、Defined daily dose(DDD)(※5)により標準化して算出しました。また、鎮静・抗コリン作用を有する薬剤の処方量を算出する手前の6カ月間のレセプトから、要介護認定の原因となりうる傷病の有無、通院・入院状況を測定し、これらの要因の影響を条件付き多変量ロジスティック回帰分析で調整することで、薬剤の処方による独立したリスクを推定しました(図1)。


※3 特に慎重な投与を要する薬剤のリスト

高齢者において潜在的に有害事象が多い可能性があり、効果が確かでより安全な代替薬が存在しない場合にのみ慎重に使用すべき薬剤のリスト。

※4 鎮静・抗コリン作用を有する11クラスの薬剤

抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、三環系抗うつ薬、スルピリド、抗パーキンソン薬(抗コリン薬)、受容体サブタイプ非選択的α₁受容体遮断薬、H₁受容体拮抗薬(第一世代)、H₂受容体拮抗薬、制吐薬、過活動性膀胱治療薬。

※5 Defined daily dose(DDD)

世界保健機構による1日投与量の基準値。365DDは1日の維持用量1年分に相当する。


【図1】薬剤処方量の算出期間の時間的位置づけ

患者背景:要介護認定の原因となりうる傷病の有無、通院・入院状況

ラグタイム:※6参照


※6 ラグタイム

薬剤処方の算出から除外される要介護認定の直近期間。要介護状態に移行する健康状態悪化の結果として鎮静・抗コリン作用を有する薬剤の処方が増加するという逆向きの因果関係の可能性を低減することを目的としている。


【研究結果】

分析の結果、要介護認定リスクは鎮静・抗コリン作用を有する薬剤の累積処方量が多いほど(※7)、使用された薬剤クラス数が多いほど(※8)、要介護認定リスクが高まるという用量反応的な関連が認められました(図2)。

これらの結果は、処方量の算出のラグタイム(※6)を12カ月に延長する、慢性疾患併存の標準的指標であるCharlson Comorbidity Indexの傷病の有無を調整する、定期的な医療受診があった人だけを分析するなどの条件変更を行っても同様でした。


※7 使用なし群と比較して、1-364DDDで1.07、365-729DDDで1.25、730DDD以上で1.33

※8 使用なし群と比較して、1種類で1.07、2種類で1.19、3種類以上で1.42


【図2】鎮静・抗コリン作用を有する薬剤の使用と要介護認定リスクの関連

【今後の展開】

鎮静・抗コリン作用を有する薬剤の減量が高齢者の自立期間を延長するかどうかについては、さらなる検証が必要です。しかし、これらの処方が地域ポピュレーション全体において要介護認定の発生リスクと関連していることを示したことは、市町村が医療機関や薬局などと連携し、地域全体でこれらの処方の低減に取り組んでいく施策の根拠となります。今回の研究成果が、医療現場における薬剤処方の意思決定や、地域の保健行政に役立てられ、高齢者への同薬剤の処方を低減する機運がさらに高まることが期待されます。


■詳細は以下の外部リンクをご覧ください。

https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20220516140000.pdf

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