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若年性認知症の就労イメージ画像
2021.08.27

若年性認知症当事者が仕事を続けるためには?支援と就労問題への課題

本人の労働意欲があるにも関わらず、仕事を続けられなくなったり、再就職が困難など、若年性認知症当事者の就労についてはさまざまな課題があります。さらに、社会保障を受けられることを知らないために生活が困窮するケースも少なくありません。若年性認知症の方の就労について、どこでどのような情報を集めたらいいのでしょうか。就労についての現状や問題点、受けられる社会保障などについて、若年性認知症支援コーディネーター、来島みのりさんにお話を伺いました。

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東京都多摩若年性認知症総合支援センター長 若年性認知症支援コーディネーター 社会福祉法人マザアス 高齢者福祉総合施設 マザアス日野 副施設長 来島みのりさん
13年前、40代で若年性認知症と診断された方と出会ったことをきっかけに、10年前に若年性認知症当事者と家族の会「芽吹き」の会を立ち上げる。その取り組みが評価され、平成28年より現職。認知症の介護研修などの講師も務めている。

誰にも相談せず仕事を辞めてしまう人も。若年性認知症当事者の就労は情報収集と活用が大きなカギ

厚生労働省では、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指し、平成27年に「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)を策定、その7つの柱のうちの1つが、「若年性認知症施策の強化」です。さらに、令和元年に策定した「認知症施策推進大綱」においても「若年性認知症支援コーディネーターの体制検討」などの具体的な施策が打ち立てられました。これらにより全国に相談窓口が設置され、一例として現在東京都には、目黒区と日野市の2か所に「若年性認知症総合支援センター」があり、そのほか一部の市区町村が独自に相談窓口を設けています。


来島さんが支援コーディネーターを務める、日野市の「東京都多摩若年性認知症総合支援センター」では、医療機関や就労、社会保障などについての相談や支援を行っています。専用電話には、若年性認知症当事者や家族、医療・福祉関係者、企業など幅広い方からの相談が寄せられますが、とくに現役で働いている人からの相談が多いといいます。


「若年性認知症当事者は、まだ働き盛りの方が多いので、『会社に知られたら解雇されてしまうのではないか』『会社に話したら休みに入ったほうがいいと言われてしまった』といった相談を多く受けます。また逆に、『周囲に迷惑をかけてはいけない』と気にして、自ら退職してしまう方もいます。ただ、相談窓口や若年性認知症総合支援センターの存在を知らず、若年性認知症と診断された後、どこに相談したらいいかわからないという方も多く、周囲からの視線や部署異動などによって精神的に追い詰められたり、『もう自分には今までの仕事をする能力がない』と自己判断して、相談する機会が得られないままあきらめ、会社を辞めてしまう人が後を絶ちません」


その一方で、若年性認知症総合支援センターに連絡をしてきても、支援にまでつながらないケースもあります。


「若年性認知症になったと周囲に知られたくない気持ちからか、本人だけではなく家族からも匿名で電話がかかってくることは珍しくありません。支援コーディネーターには個人情報保護の義務があり、それを理解されている方からは、お名前などの個人情報をお伝えいただいています。ただ、個人情報保護の義務をご存知ない方は、若年性認知症であるという情報が広まってしまうのではと心配され、きちんとお話をさせていただこうとしても『結構です』と電話を切られてしまったり、その後二度と連絡をいただけないこともあります。そういうケースは、本当に心残りですね」


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電話をかけようとしている男性イメージ画像

実際にはどんな仕事をしている? 本人の勤労意欲が第一のポイント、その先には業種の少なさという課題も

「働きたくても、なかなかうまくいかない」。若年性認知症当事者の方の就労問題には、いくつかの壁があると、来島さんは指摘します。


「第一に、本人が仕事を見つける、仕事をすることに対して、覚悟ができているかどうか。『これまでやっていた仕事なのだから、若年性認知症になっても同じような業務をできるはずだ』と、診断を受ける前のことにしばられていると、なかなか仕事は見つかりません。去年まで当法人で働いていた若年性認知症の方は元大学教授でしたが、『草むしりでも掃除でも風呂釜洗いでも何でもします』と強い意志があり、4年間勤務していました。このように、どんな仕事であっても、本気で働きたいと思っているかどうかが、まずは重要です。


また、若年性認知症の診断を受け、それまでの仕事をやめて再就職した方に共通しているのは、『働きたい』という意思が一貫してあることです。仕事をやめてから時間をおいての再就職は、本人の勤労意欲がよほど強くないとむずかしい部分があります。働きたいと思われるなら、すぐに行動に移せるかどうかが分岐点になると思います」


再就職先の仕事内容として、来島さんがこれまでに支援したケースでは、高齢者施設でのシーツ交換や車いすの清掃、書類の三つ折り作業、シール貼りといった業務が中心で、就労先は主に特別養護老人ホームなどの福祉施設です。ただ、業務の幅はなかなか広がらないのが課題です。


「現状では、若年性認知症の方を受け入れてくれるところを探すのは、なかなか困難です。そこで今、当センターでは、障害者雇用を実施している企業を100社ほどピックアップし、アンケートを送付する計画を立てています。戻ってきたアンケートから、感触の良さそうな企業に対し、就労につながるようコンタクトを取っていきたいと考えています。

若年性認知症の方が、診断される前から勤務してきた会社からの退職を余儀なくされているケースが多い中、本気で働きたいという意思を持った方の気持ちに応えるためには、福祉施設以外にも就労チャンスを広げていかないと限界があるからです」


多くの人に情報が届くには。東京都多摩若年性認知症総合支援センターで行っていること

働き盛りが多い若年性認知症の方の場合、経済的な問題も無視できません。子どもが小さくてまだ教育費が必要だったり、住宅ローンを抱えていることもあります。退職しても退職金が支給されればいいものの、そうでない場合は教育費どころか日々の生活にも不安がつきまとうようになります。毎日生きていくためには社会保障についての情報を得ることが、とても重要です。


「若年性認知症と診断されると、医療費助成や精神障害者保険福祉手帳の交付による福祉サービスの援助、障害年金など、各種の社会保障が受けられます。当センターでは、こうした情報をお伝えするとともに、医療費助成の申請や各手続き方法などをアドバイスしたり、時には窓口まで付き添うこともあります。精神障害者保険福祉手帳を取得していれば、企業の障害者雇用枠として勤務を続けられたり、障害のある人の就労の受け皿の1つである「障害者就労継続支援事業所」を利用し、工賃を得ることも可能です。また、在職・休職中で健康保険に加入している場合は傷病手当金が支給されるので、申請のアドバイスを行なうほか、就労支援として、職場との調整についてのアドバイスもしています。でも、こうした情報を教える人が誰もいないと、支援を受けられないまま時間がたってしまいます。情報を知っているか知らないかで、かなり生活状況が変わってしまうこともあるのです。


若年性認知症と診断された方のほとんどが、最初に地域包括支援センターへ相談に行かれますが、地域包括支援センターは介護分野の支援が中心のため、若年性認知症の方の就労支援などについては詳しくないこともあり、いい情報が得られないままの方もいます。情報を得ることに慣れていなかったり、認知症と診断されて精神的に落ち込んでいて、前向きに調べられる状態になかったりすると、うまく情報にたどりつけず、本来受けられるはずの社会保障を受けられません」


こうした状況について、「これは当センターの問題でもあります」と、来島さんは話します。


「情報を知っている人と知らない人とで大きな差が出ないようにするためには、まずは相談窓口や若年性認知症総合支援センターのことを知ってもらわなければなりません。そこで、当センターでは地域包括支援センターにパンフレットを送ったり、自治体や医療機関にパンフレットを置いてもらったり、啓発活動を行なっています。とにかく、若年性認知症の方と相談窓口がつながってほしい。その一心です」


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書類申請をするイメージ画像

症状が進行したらやめる? 就業中の課題や辞めどき

若年性認知症の方の就労問題は、仕事を探すことだけではありません。認知症は症状が進行していくため、それとともに新たな問題も出てきます。


「よく発生するのは、出勤するとき会社までたどり着けなかったり、会社からの帰り道で行方不明になるなど、移動に関する問題です。会社には安全配慮義務がありますし、そうなると現実的に就労の継続はむずかしくなります。自分で会社に通えるかどうかは、辞めどきを考えるひとつの判断ポイントになるでしょう」


これは大切なことで、どんな状況になったら辞めるかがある程度決まっていれば、若年性認知症の方を雇用する企業側も受け入れやすくなる面があります。


「辞めどきについて、本人と会社の間で決まっていれば、受け入れる会社としても安心ですから、そこをきちんと整えていくことが必要だと考えています。当センターとしても、企業に就労をお願いして終わりではなく、お願いしたからには最後まで責任を持って考えなくてはならないと思っています」


あるご夫妻との出会いが若年性認知症支援を行うきっかけに。今ではライフワーク

土日しか相談に来られない若年性認知症の方がいれば、休日返上で対応することもある来島さん。それでも、「好きでやっているので苦にならない」と、サラリと口にします。その原動力は、あるご夫妻との出会いでした。


「小規模多機能型居宅介護でケアマネジャーをしていた時、若年性認知症の49才の男性の支援に携わりました。若年性認知症を発症する前は会社を経営していた方で、若年性認知症になってからは遺跡発掘のアルバイトをしていました。ある時、その方の奥様が『夫は、若年性認知症と診断されてから2年間アルバイトを続けて、月に7万円をもらっていた。あれほど重みのある7万円はない』と話されたのです。そのころ、私はまだ若年性認知症に対する知識が乏しかったものの、奥様から若年性認知症の家族の会を作ってほしいとの依頼があり、「芽吹き」の会を立ち上げました。その後、「芽吹き」の会を通じて多くの若年性認知症の方と知り合うようになって、『あれほど重みのある7万円はない』という言葉の意味がようやくわかるようになりました。若年性認知症の方が働くことは、収入以上の価値があり、働く場と周囲の配慮があれば、十分に働けるのです。


「芽吹き」の会を立ち上げた当初は、なかなか入会してくれる方がいなくて、新しい方が来ると『仲間ができた!』と、奥様と手を取り合って喜びました。今は若年性認知症の方とたくさん会え、支援もできます。それは私にとって、喜び以外の何物でもありません。ご夫妻はもう亡くなりましたが、今私がやっていることはすべておふたりから学んだことで、ご夫妻の思いが私を動かしています。若年性認知症の方への支援活動は、私のライフワークそのものです。昨今は地域共生社会の実現が叫ばれていますが、認知症の方とそうでない方が手を取り合い、いつか本当にそういう社会がつくれたらいいと思わずにはいられません」


東京都若年性認知症総合支援センターについて


東京都多摩若年性認知症総合支援センター


「芽吹き」の会


取材・文/荒木晶子 取材協力/横江美那子(SOMPOケア)

構成/山本幸代(SOMPO笑顔俱楽部)


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