脳オルガノイド(※1)は、構造・機能的に生体組織に近いことから疾患モデルへの応用が期待されています。慶應義塾大学医学部生理学教室のグループは、iPS細胞から脳オルガノイドの作製方法を改良し、アルツハイマー病患者由来iPS細胞から作製した脳オルガノイドにおいて、ADの主要な病理の一つであるアミロイドプラーク様の構造を再現することに成功しました。
また、アデノ随伴ウイルス(※2)を用いて変異型タウタンパク質を脳オルガノイドに強制発現させることで、タウ(※3)線維形成を模倣した次世代型タウオパチー(※4)モデル脳オルガノイドを作製するこができました。これらの認知症モデル脳オルガノイドはミニチュア脳と考えられ、認知症の病態メカニズムの解明、創薬スクリーニングや創薬候補の検証に応用できることが期待されます。
※1 脳オルガノイド
iPS 細胞などの多能性幹細胞から、神経発生を模倣して三次元培養により作られる、脳に似た立体的な構造体。神経幹細胞、神経細胞、アストロサイトなどの、生体脳を構成する複数の細胞種を含む。
※2 アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus; AAV)ベクター
細胞に感染して目的の遺伝子を導入することができるウイルスベクター。安全性が高く、動物への遺伝子導入に適している。
※3 タウ
微小管に結合して微小管を安定化するタンパク質。神経細胞に豊富に存在する。タウの凝集、蓄積が認知症発症に関係すると考えられている。
※4 タウオパチー
タウタンパク質が細胞内に異常に蓄積することにより発症する神経 変性疾患の総称。アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺などが含まれる。